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恋人未満、スキャンダル以上——これは恋じゃない。ホラーです。  作者: さくらしゅう
第三章 矢印は動き始める

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第57話 夜風に冷める



 2時間の飲み会をちょうど終えて、ぞろぞろと身支度を終えた人たちから店先に出てくる。小晴もその中に混ざりながら外へ出てきた。時間はまだ8時ごろだからか、街は活気づいた空気に満ちていて夜はこれからとでも言いたげな空気で満ちている。


 心地よい夜風が、小晴の火照った頬の熱を落ち着かせようとしているかのように優しく撫でた。フッと息を吐いて、黒く染まった空を見上げた。道に沿って並び建つ店々の明かりが眩しすぎて、空に浮かんでいるはずの星々は偶に輝きを見せる程度しか見えない。


「はるちゃん大丈夫? 酔いすぎてない?」


 小晴の後に店から出てきた陽介が、リンゴ色した小晴を心配そうに覗き込んだ。


「全然、見た目の割に大丈夫だよ」

「そっか、ならよかった」

「あんま飲みすぎんなよ」


 ついで怜央からも、心配を含んだ注意をされる。まだ誕生日を迎えていない二人は、場の雰囲気で酔ってるような素振りもなかった。


「うん、気を付ける」


 三人の柔らかな空気を色鮮やかな街灯が温かく包む。それから一層賑やかな音が後方から溢れ、三人は店の入口の方を振り返った。








「なあなあ朱音も二次会行こ」


 音が溢れるように店先から朱音が顔を出し、続いて涼矢が追いかけるように出てくる。


「やだ、行かない。私明日バイトだもん」

「ええ、そこをなんとか調整して行こうよー!」

「しません、他あたんな」


 呆れた様子で立ち止まった朱音は、心底面倒くさそうな目で涼矢を振り返る。


「ちょ〜、隼。朱音まじ俺に冷たすぎない?」

「まあまあ、バイトなら仕方ないって」


 その後ろから出てきた隼が困った顔で二人のやり取りに入った。それから、ふいに隼の視線が小晴たちの方へ向く。目が合った小晴は、目をぱちくりと瞬いた。


「三人は二次会行かないの? 拓也さんは行くらしいよ」


 隼の口から急に拓也の名前が出てきて、ドキッと小晴の心臓が音を立てる。呼吸が一瞬止まって、小晴は答えるのに一歩出遅れた。陽介と玲央が同時に小晴をチラリと見た。


「俺は帰る」

「僕も、今日はやめとこうかな」


 それからすぐに口を開かない小晴と代わるように怜央と陽介が意図せず間を埋めてくれる。瞳を瞬かせる間に、詰めていた息が戻り、ざわついた心臓も落ち着きを取り戻す。陽介たちの流れのまま「小晴ちゃんは?」と聞かれても、もう動揺はしなかった。


「私も、もう帰ろうかなって。隼くんはどうするの?」


 元々決めていた予定を口にして、相手はどうするのか聞き返した。


「俺は、うーん。どうしようかなって迷ってたけど、やめようかな」

「え、そうなの? どうして?」


 迷うような素振りを見せてはいるものの、元々行く予定だったような空気が漂っていた中での急な予定変更に思えて、小晴は少々驚いた顔をして隼を見上げた。


「みんな来ないならつまんないかなって」


 真っすぐに見つめ返されて、そんな風に見られるなんて予想外だったからまた違う意味で驚く。なんだか気まずいような気がして、瞳を伏せた。


「そっか」

「うん」


 微かな沈黙が流れ、周りの賑やかな喧騒が耳に流れ込む。


「拓也さん、相変わらずすごい人気だね」


 沈黙を破るようにおもむろに放った隼の言葉は、また小晴の心臓を飛び跳ねさせた。小晴は、隼を盗み見て視線の先を追う。その先に華やかな女子と男子の輪の中に混じった拓也を見つける。一瞬息を詰まらせて、ほんの少し表情に影が落ちた。


「そうだね」


 それからなんでもなかったように隼と同じ方向を見ながら、控えめに微笑んだ。


(見なきゃ良かったのに)


 ほんの一瞬、小晴は逃げるように視線を逸らした。今までと何も変わらないはずのサークルの日常は、街を照らす明かりよりも眩しく感じた。火照っていた頬は、すっかり夜風に鎮められていた。



 *



 拓也は二次会に行く輪から外れて、スマホを取り出す。既読はついていない。


 普段飲み会に参加しない小晴が来ていたから、自分のために来てくれたんだと勝手に浮かれていた。やっと、それらしい感情を小晴も持ってくれたんだと妙な嬉しさもあったと思う。不安にさせるつもりもなかった。ただお互い特定の相手がいると隠していることだけは、気がかりだったし、なかなか飲み会に来ない小晴が、男の目にどう映るのか分からなかった。


 個人的な願望と知らないところで他の男と絡んで欲しくない気持ちから、すぐに彼女の隣に座った。小晴が隣にいる間は、ずっと気分が良かった。隣でお酒をチビチビと飲んでいる姿も、手を握られて意識しすぎてる姿も、内緒にしたいくせに支えられて顔を真っ赤にしてる姿も、無性に胸の奥をを擽られた。守ってやりたいような、閉じ込めてしまいたいような、いじらしいほど幼いその存在が、これからも自分の傍にあればいいと思った。


そこまでは、良かったのに――。


 小晴が席を外してから、全てが上手くいかなくなった。1年生の女子数人に押される形で空いた席が埋まり、小晴が戻ってきた頃には彼女が座る場所なんかなかった。小晴は、陽介たちが座る席に自然と移動して接点もなくなって。小晴のそばに行きたかったけど、周りにバレたくない彼女に嫌われるのが怖くて、遠くから見ているしか出来なかった。途中でLIMEをしてみたけれど、彼女が飲み会の間にスマホを弄る様子はなく未読のまま時間だけが経過した。


 一次会が終わったタイミングなら流石に気づいてくれるだろうと思っていたのに、何かしら連絡がくると思っていたスマホは、まだただの鉄の塊のままだ。


(まだ通知に気付いてないだけだよな?)


 妙な焦りが拓也を掻き立てて、周りを見回した。すぐに見つけられるはずの姿がなくて、より一層焦りが増す。そもそも、飲み会に顔を出してくれたのだから、二次会も参加してくれるだろうと安易に考えていたのが悪かった。


(二次会のカラオケかなんかで時間作れるなんて、悠長なこと考えるんじゃなかった)


 小晴だけじゃなく、陽介や玲央、朱音。それから隼の姿が見えないことに焦りばかりが募る。彼女の代わりに拓也の視界に入ったのは、頼りたくない相手だった。拓也は、息を一つ吐いてからその男に近づいた。


「なあ、あいつらは?」


 他の誰にも聞かれないくらいの低く囁くような声で尋ねる。


「あいつら?」


 拓也の声に応じて、悠真が振り返った。


「…、小晴、どこ行った?」


 わずかな沈黙の後、苦々しい気持ちと共に今最も状況を知りたいただ一人の名前を口にする。しかし拓也の気持ちとは裏腹に、悠真はあっけらかんと教えてくれた。


「さっき、陽たちと帰ってたけど」


 無情にも思えるほど清々しい事実だった。


「は?」


 一時停止した思考が戻り、発した声はアホ丸出しとでも言えるほど短かった。


「え、なに。知らんの? お前」


 悠真が目を丸くする。何も言い返せないことへの悔しさや、来てくれると思っていた勝手な期待を裏切られたショックから、喉が詰まり呼吸が浅くなった。拓也の反応が珍しく面白いのか、悠真が口角を上げる。


「ちょ〜、拓也。お前、いつまでも追いかけられる側って思ってんじゃね?」


 耳に痛い言葉だった。そんなつもりでいた訳ではないが、たぶんそういう節はあったんだろう。


「いやあ、流石に他の女にチヤホヤされて、本命ほっとくとかあり得ねえわ〜」


 茶化すような悠真の声が、耳をざらりと撫でる。不愉快な感情そのままに拓也は眉を顰めた。拓也が何も言い返せない沈黙の間に、悠真が薄く笑う。そこで、スマホが震えた。


 ブッ――。画面に浮かんだのほほんとした暢気な文字。画面を見た瞬間、胸の奥がきゅっと縮む。怒っているとか、拗ねてるわけじゃないと分かると余計自分だけ気持ちが空回ってる状況に嫌気が差した。


(帰るなら、帰るって言えよ)


 自分勝手な感情が浮上して、消し去るように重たい息を吐く。アルコールが回っているせいか、思考が散漫で感情も普段より幾分も雑な気がする。


「まあ、いつでも任せてもらって構わねえからよ」


 楽しげに口角を上げた悠真だったが、拓也を見る目は射るような鋭さを帯びていた。


「誰が任せるかよ」


 吐き捨てるように言葉を返した。


「おー、その意気で頑張ってね。モテモテ彼氏さん」


 嫌味満載の言葉に苛立ち、自分の不甲斐なさも期待も、全てぶつけるように拓也は舌を打った。小晴にすぐさま返信を打つとスマホを耳に当てた。


「悪い。俺やっぱ今日は帰るわ」

「はいはい、いってらっしゃい」


 仕方ない子供でも見るような顔をした悠真に背を向け、拓也は小晴の後を追いかけるために駅の方へ地面を蹴った。



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