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恋人未満、スキャンダル以上——これは恋じゃない。ホラーです。  作者: さくらしゅう
第三章 不器用にはじめていこう

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第52話 噂になる距離



 乾杯から時間は進み、夕食の席がだいぶ温まってきて各々で楽しい時間を過ごしていた。


「小晴さん、これ美味しいですよ」


 隣に座る遥生が目を輝かせて、小晴についさっき口にした料理を指さす。


「これ?」

「はい!」


 まだ手をつけていなかった副菜を言われるがまま口に運んだ。


「ほんとだ」

「でしょ!」


 ごっくんと飲み込んだ後、小晴は遥生を見た。向かい合った遥生の顔が、ちょっと得意げに嬉しそうに綻ぶ。


「どれが美味しいの?」


 小晴と遥生の二人でオーバーに喜んでいたからか、周りの注目の的になっていた。少し恥ずかしく思いながら、反対側の並びで話していたはずの陽介が代表して聞いてくれたことに、ちょっとだけ感謝した。


「これだよ」


 陽介に教えると、隼も周りの1年生たちもみんな同じものを食べる。


「うま」

「ほんとだ。美味しい」


 そんな声が上がって、またみんなの視線が分散していく。注目がなくなり小晴はそっと胸を撫で下ろした。また平和に食事を再開しようと料理に視線を彷徨わせたところで、隣の声が耳に入った。


「そういえば、遥生って小晴先輩と二人で荷物番してたよね」


 陽介の隣に座る1年生の女の子が、遥生に話しかけていた。自分の名前が上がったことに、どきっと小さく心臓が跳ねた。


「え、うん」

「何話してたの?」


 今度は、遥生の隣に座る子が話を広げた。別に気にしているつもりはないのに、自分も関係があると思うと耳が勝手に大きくなっていた。一応、食事をしているフリをしながら隣の会話を盗み聞きしてしまう。


「別に大した話なんかしてないよ」


 遥生は、どうでも良さそうな感じで言葉を返した。


(ん、あれ?)


 僅かに自分と彼女たちと話す時の温度感が違う気がして、小晴は違和感を覚えた。疑問が解消される前に、後輩女子2人の視線が自分に向いていることに気がついた。


「え、あ、うん。撮影のこととか、他愛ないことしか話してないよ」


 急な注目に狼狽えながら、求められてるだろう内容を答えた。


(もしかして、遥生くんのこと好きなのかな?)


 勝手な憶測は良くないと思いつつ、なんだかそんな気がして、遥生たちから視線を横にズラす。


「陽ちゃんは、今日ずっとカメラ担当してたよね」


 一番話しかけやすい気心の知れた陽介に話を振る。


「うん、お陰で腕バキバキ」

「だよね、ほんとお疲れ様」


 いつものようなやり取りに戻って、気の抜けた笑顔が溢れた。


(陽ちゃんと同じチームでほんと良かった〜…)


 この場に朱音と玲央はいないが、陽介がいるだけでだいぶ呼吸が楽だ。小晴は泣き言のような独り言を胸中で呟いた。


「陽介さんと小晴さんって、ずっと前からの知り合いとかなんですか?」


 陽介の隣からまた質問が飛んだ。今日はやたらと話題に上がる。でも視線は陽介に注がれているから、たぶん目当ては陽介なのだろう。


(やっぱり陽ちゃんも人気なんだなあ)


 拓也と悠真がサークルの中で目立ちすぎてるから忘れそうになるけれど、顔のいい玲央と人当たりのいい陽介も噂をされる側だ。もはや第二の推しみたいな存在になっていそうな空気がある。今までは自分たちが後輩だったから、こういった流れはなかったけれど、陽介や玲央、朱音の側にいると名前が上がるだけで、小晴自身が会話をしなくて済むことは多かった。また同じパターンだろうと、小晴は話そっちのけでご飯を食べながら他人事のように聞いていた。


「大学入ってからだよ。入学式のときだよね、知り合ったの」

「あ、うん」


 陽介が隣の女の子から小晴に視線を向ける。まさか話が振られると思っていなくて、ご飯を食べながら頷いた。


「そうとは思えないくらい仲良しだよな、お前ら」


 小晴の真向かいに座る隼が呆れたような顔で笑う。陽介は特に同意はせず、ただ苦笑して返した。


「二人って付き合ってるんですか?」


 もう話は終わったと思ったのに、今度は遥生の隣の子から質問された。


「え、僕とはるちゃんが?」


 陽介は、目をぱちくりさせ驚いた顔をする。小晴もそんな風な質問をされると思っていなくて純粋に驚いた。ふと朱音たちが、そんな噂はずっとあると教えてくれていたことを思い出した。けれど、事実ではないし、陽介もすぐに否定するだろうと見ていると目が合う。


「あれ、そうだったっけ?」


 小晴は、陽介の発した言葉の意味がわからず瞳を瞬かせた。


「僕らって、いつから付き合ってた?」

「え、ちょ、つ、付き合ってなんかないよ!」


 まさかの返しに慌てた。ガタガタ、と音を立てて半分、椅子からお尻が浮く。


「だよね〜。よく勘違いされるけど」


 小晴の慌てっぷりを陽介が可笑しそうに見て瞳を細める。テーブルの空気がフッと緩んで、小晴も頬をほんの少し染めながらいそいそと座り直した。小晴に容赦なく否定されたのに、陽介の微かに上がった口角は相変わらずで、彼の気にしていなさを物語っている。二人をさりげなく確認する視線に晒されながら、小晴はチラリと陽介を見た。すぐに目が合って、ニコリと笑い返される。


(昨日と今日で、二回目だなあ…。陽ちゃんと付き合ってるのかどうか聞かれたの)


 前は半信半疑だったけれど、自分と陽介がそういう風に見られていることは確からしかった。陽介が以前言っていたことを思い出して、小晴は申し訳なく思った。


(みんな、私のこと気にしてくれてるけど、私みんなに何か返せてるのかな)


 特に2年生になってからは、助けられてばかりだ。私が知らなかっただけで噂はずっとあって、特にあの一件から陽介と朱音に大きな負担をかけてしまっている。会話はすぐ別の話題に移っていったが、小晴の気持ちは少し萎んでいた。陽介は、普段通りで特に気にした様子もない。


(拓也さんとのこと、みんなが知ったらどうなるんだろ)


 大丈夫だろうかと、小晴は確かに感じた不安を食事と共に内側に飲み込んだ。隣の遥生の気にした素振りも、真向かいの隼の目線にも小晴は気が付かなかった。



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