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恋人未満、スキャンダル以上——これは恋じゃない。ホラーです。  作者: さくらしゅう
【後編】序章 ハッピーエンドのその先がわからなくて

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第42話 恋人になったはずなのに

ここから後編に入ります。


初めての恋と、初めてのお付き合い。

期待と不安が入り混じるなかで、小晴は“恋人”という立場に向き合っていきます。


前編とは少し違う距離感と、変わってしまった関係性の中で揺れる心も含めて、最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。


【後編】秘密の恋は、誰かの隣で



 明日からサークルの合宿が始まる。

 荷造りを終えた小晴は、一息ついてスマホを手にした。LIMEの通知を知らせる画面を確認し、慣れた動作で開く。それから一番上に来ている未読のメッセージがあるトーク画面を開いた。〈日にち経つのはやすぎん? 気づいたら前日なんだけど笑〉という朱音から送られてきたメッセージに、クスリと笑みがこぼれた。〈ほんとに。いま準備おわったところだよ〉と軽快な指捌きで返信を終える。


〈えー、終わったの!?〉

〈偉すぎる。私、途中でドラマ見始めて何も終わってない〉


 またすぐに届いたLIMEの画面に並んだ文字の羅列はいかにも朱音らしくて、さっきよりクスクスと笑いが溢れた。


〈なにしてんの。はやく準備終わらせてください笑〉


 返ってきたのは、「はーい」と不貞腐れた顔のスタンプだった。小晴は確認だけ済ませると、一旦文字のやりとりを止めてチャット一覧の画面に戻した。いくつものアイコンの隣に最新のやり取りが並んだ画面の中で、まだ未読のまま放置しているトークが目に入った。小晴は画面を長押しして中をのぞき、少し考えるような素振りを見せた後、そのまま開くことなくスマホを閉じた。









 一度部屋を離れていた小晴は、再び自室の扉を開いた。机の上に置いたまま放置していったスマホを手に取る。そして、未読のままにしているメッセージになんて返そうか悩んで、スマホの画面の前で数十分。やっと既読をつける勇気が出て、チャット画面を開いた。

 何度か打って消してを繰り返して、やっとメッセージを打ち込んだ。


〈あっという間に明日ですね〉

〈さっきやっと準備終わりました笑〉


 悩んだわりに、当たり障りのない文章だった。送信を押して、息を吐く。

 会えることを楽しみにしてくれてる相手に同じ気持ちを返せていないと分かりながら、どうしても嘘の感情は送れなかった。


 ただ拓也の好意的な言葉に何も触れずに返信した罪悪感が胸に残った。

 でも無視はせずにちゃんと返した、と心のどこかで言い訳をしている。言い訳だってわかっているからこそ、罪悪感という重たさがズシンと両肩に圧し掛かる。


 好きは、好きだ。

 たぶん、変わってない。

 拓也さんのことは――好き、なんだと思う。


 でも、なぜか前まであった気持ちが消えてしまったような、踏み出したはずなのに動けないでいる自分の気持ちに困惑してしまう。

 小晴の曇天の心模様に連動するように、ブブ、とスマホが震えた。新着メッセージのお知らせだ。相手は、拓也だった。


〈もう終わったんだ〉

〈さすが小晴ちゃん。俺はこれからだよ〉


 焦った顔のちょっと可愛くて面白いスタンプに、重たかった心が軽くなって口元が緩む。〈頑張ってください〉と小晴もスタンプ付きでメッセージを返した。〈ありがと。頑張る〉とすぐに返信がきて、その後にポンポンと続けて2件のLIMEが小晴のスマホに届く。


〈てか、名前。呼び方変えたい〉

〈みんなの前はそのままにするけど、ふたりの時は小晴って呼んでいい?〉


 最初だけ見てチャットを開いた小晴は、ドキリと心臓を鳴らした。なんて返信したらいいのかと頭を悩ませたところで、シュポっと新しい文字が画面に表示される。〈だめ?〉の二文字は流石にずるい。小晴は、誤解されないように慌てて指を滑らせた。


〈だ、めじゃないです〉

〈心の準備が、できてないですけど〉


 バーの中に文字を打って、ふたつのメッセージを続けて送った。


〈なにそれ〉

〈俺の彼女、可愛いんだけど〉


 拓也の返信を目にして、思わず両手で顔を覆う。彼女って文字が、なぜこんなにむず痒いのだろう。しかも拓也から届く「俺の彼女」が余計だ。受け止めきれない気持ちと、現実味のないフワフワ感に気持ちが行ったり来たり。

 そこに、ブブっと朱音からのLIMEが届いた。


〈準備終わったよ〜〉

〈秒で終わった私天才だわ〉


 そんな他愛もない内容だった。朱音からのLIMEに、小晴は「そうだ」と思い出した。


(朱音ちゃんに報告してないや)


 夏休み初っ端のかき氷屋でちゃんと報告すると約束していたのに、未だに伝えていなかった。拓也に〈可愛くないです〉と返事をしてから、小晴は朱音のLIMEを開いた。お疲れ様と朱音に伝えて、拓也の件をどう切り出そうかと悩む。この流れでいきなり切り出すのも、なんだか気が進まない。


(どうしよう)


 その間に、また新着の通知がバーナーで知らされた。誰からのものかと朱音のトーク画面からチャット一覧に戻れば案の定、拓也からだった。簡単にまとめれば送られてきた内容は、「小晴ちゃん」から「小晴」に変えたいという話だった。流れに乗じて、拓也の呼び方を変える提案もされる。しかしまだ心の準備ができず、その件は先送りにさせてもらった。


 拓也のLIMEから次々と出てくる「小晴」「俺の彼女」といった慣れない単語に声にならない叫びをあげる。文字だけのやり取りなのに、甘すぎて溶けてしまいそうだ。


(い、一旦ストップ…)


 与えられるダメージが大きすぎて小晴は拓也を未読のままに、朱音とのトークを開いた。こちらも新たに通知が届いている。朱音と明日のことを何通かやりとりしたあとに、小晴は〈あのね〉と言葉を切り出した。


〈報告遅れたんだけど、実は拓也さんと付き合うことになった〉


 ドキドキしながら、トーク画面を見つめる。すぐに既読がついて、1秒2秒…。


〈で、え、ま、…は!?〉

〈拓也さんと!? いつからよ!?〉


 朱音の返信の勢いの良さに、ほんの少し苦笑いが浮かぶ。7月の終わりごろからだと伝えると、怒涛の勢いでメッセージが飛んできた。


〈まじか〉

〈そうかなって思ってたけど、現実になるとちょっとビビるわ〉

〈でも、とにかくおめでとう!!〉

〈初彼氏じゃん〉

〈こはじゃないのにニヤけるんだが〉

〈え、明日拓也さんに泣かせたら許すまじって言いに行こうかな〉


 朱音なら有言実行してもなんら可笑しくない。


〈なにそれ、やだよ笑〉

〈やめて笑〉


 ポンポンと交わされるやりとりは気楽で楽しい。朱音のお蔭で肩の力が抜けて、小晴は未読のままにしてしまっていた拓也のLIMEを開いた。


〈なんか、照れますね〉

〈その、照れます…笑〉


 彼女、と打って身悶えて消して、結局なんの主語もないまま送った。彼女と言われるだけで照れてしまうと書くのさえままならない。砂糖をたっぷり使った甘い甘いケーキをホールでいくつも並べられたような胸のつっかえを覚える。


〈てかさ、玲央と陽くんは?〉

〈知ってるの?〉


 拓也が甘いケーキなら、まるで朱音からのLIMEはさっぱりとした紅茶みたいだ。

 小晴は、事実そのままに朱音に一番に報告したと伝えた。怜央と陽介の二人はまだ知らないことも。


〈なにそれ、照れる〉

〈ニヤニヤが止まらない〉

〈報告しないの?〉


 画面の向こう側で笑っている朱音が容易に想像ついた。上二個の文字に笑って、三つ目のメッセージに目を落とす。ふたりに報告するかどうかについては、ちょうどさっき悩んだばかりだった。


〈ふたりとも気にしてないって笑〉


 そして、報告しなくてもいいかと結論付けた。


〈そんなことない!〉

〈絶対拗ねるよ。後から知ったら〉

〈今からグルチャで電話しよ!笑〉


 電話という提案にギョッとした。 


〈え、やだよ〉

〈恥ずかしいよ!〉

〈じゃあ、文字でいいから!〉

〈報告してあげて!!〉


 数秒の逡巡。


〈じゃあ、報告…する〉


 朱音の勢いに押される形で渋々と了承した。〈素直でえらい!〉と褒められ画面を見ながら、小晴は苦く笑った。

 流れで始まった4人の電話が終わった後、次々とトーク画面にそれぞれからお祝いのメッセージが届く。朱音は相変わらずテンション高めで、玲央は落ち着きを取り戻して、陽介はいつも通り温かい。小晴はそれらをじっと見つめて〈ありがとう〉と返した。4人のグループLIMEを閉じて、いくつものチャットが連なる画面に戻る。玲央や陽介に報告する前に既に届いていた、まだ開けていないままのチャットが1件だけ。


〈明日、ふたりで話せるタイミングあるといいね〉


 拓也の言葉になんて返せばいいかわからなくて、まだ既読をつけられていない。

 ハッピーエンドの先に進むには、まだ少しだけ勇気が足りなかった。



後編もよろしくお願いします!!

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