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恋人未満、スキャンダル以上——これは恋じゃない。ホラーです。  作者: さくらしゅう
第十三章 紫陽花の罪

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第38話 風が吹いた、そのあとで



 LIMEの返事を送りに行っていた小晴が、朱音と一緒に戻ってきたのは、それからしばらくしてからだった。ベンチに横並びで座る玲央と陽介を見つけて、二人の顔が嬉しそうに綻ぶ。


「玲央くん! 久しぶりだね。テスト終わったの?」


 小晴は、朱音から離れて陽介たちのところへ駆け寄った。


「うん。さっき。小晴たちも終わったんでしょ? 陽から聞いた」

「うん。なんとかね」


 笑って頷いた小晴の後ろから顔を出したのは朱音。


「みんな、お疲れ〜」

「朱音ちゃんもテストお疲れ」


 小晴たちより一限遅くテストが終わった朱音が、たぶんこの中で一番晴れやかな顔をしている。陽介の言葉にも、にこにこと機嫌よさそうに笑った。


「はあ〜、どうするよ。明日から夏休みだよ」

「どうもこうも、楽しむ一択だろ」

「だよね。さすが。わかってんじゃん、玲央のくせに〜」


 朱音は終始夏休みへのワクワクとした期待が、顔からも声からも、全体から滲んでいる。


「くせにってなんだよ。くせにって」

「いいじゃん、いいじゃん。てかみんなで夏休みも集まろうね。合宿もあるしさ」


 玲央のいつものツッコミにも、朱音はにっこにこで流すくらいだから、相当機嫌がいい。テスト期間が心底ストレスだったに違いない。


「いいね、そうしよ」

「さっきはるちゃんと、みんなに会えなくなるの寂しいって話してたんだよ」


 小晴と陽介が頷き、玲央が満更でもない顔をする。


「えー。そんなこと言ってたの? 可愛いとこあんじゃん、二人とも〜」


 少しだけ目を丸くした朱音が、ニマニマとものすごく嬉しそうに頬を緩ませた。

 久しぶりに4人が集まって、ワイワイと賑やかに盛り上がった後、小晴と朱音、陽介と玲央でなんとなく輪が分かれたタイミング――。


「変わっちゃうかな」


 どこか不安げに陽介が一言呟いた。


「なにが?」


 そこに気付かないふりをして、玲央は尋ねた。


「今の関係」

「変わるけど、変わらないだろ」


 簡潔に返ってきた言葉は、予想の範囲を出なかった。陽介の欲してる言葉ではないと分かりつつ、玲央はぶっきらぼうに答えた。


「そーだね」


 慰めもなにもない事実を突きつける玲央の言葉に、少なからずダメージを受ける陽介は「はあ、」と軽くはないため息をこぼした。


「やっぱりあの2人にはるちゃん紹介しなきゃよかった!」


 ちょっと投げやりに、ヤケクソに感情を吐く。


「ばーか。今更言っても遅いんだよ」


 なにを今更、と玲央は内心ひとりごちた。

 はやく自覚しておけばよかったんだ。誰よりも先にそれを”恋”だと認めればよかった。誰よりも近くにいたんだから。


(なーんて、言うわけないけど)


 でも本当に、後から愚痴るくらいなら、とは思う。


「だってさあー。僕が先に友だちなったんだよ。元々、僕の友だちなの〜」


 駄々をこねる子どもみたいなことを言い始めた陽介に、玲央はやや呆れた目を向けた。


「初めて見た日から気づいてたくせに。こうなるって」

「やめてよ。気づいてるわけないじゃん。確かに、似てるなって最初に思っちゃったけど」


 少しだけ憤慨して、それから拗ねたように口を尖らす。


「はるちゃん、あんな子に似てないもん 」


 やっぱり駄々をこねる子どもにしか見えない。


「だから、こうなってるんだろ」


 終始呆れを隠すことなく、容赦もなく言葉を続けた。


「それは、そう」


 最後に認めた陽介を見る。どこか寂しそうで、認めたくなさそうで、拗ねた顔をした陽介。そんな彼を玲央は、どこか見たことがあるような、初めての眼にするような、なんだか不思議な気持ちで眺めた。そして男二人を置いて朱音と小晴は、手を繋ぐような距離で少し先、前へと歩き出していた。


「陽くんたち、早くー!」


 振り返りながら笑う声が、夏の風に乗って届く。明るく軽やか声が勝手に玲央の口角を上げた。


「ねえ、玲央」


 ベンチから腰を上げて、一歩前に進み出ようとした玲央に陽介が声をかける。


「ん?」


 玲央は、陽介を振り返った。


「なんか、いま大丈夫な気がした」


 さっきまでの表情と打って変わって、どこか晴れ晴れとした顔が目に焼きつく。


「んだよ。今さら」

「だってさ。よく考えて見たらはるちゃんはあの子じゃないし、やっぱり何にも似てないよ。はるちゃんは、はるちゃんなんだよ」


 駄々っ子のようだった陽介の声は、力強さを増している。でも、やっぱり寂しさだけは、晴れやかな表情の中に見え隠れしていた。


「…ああ。そうかもな」


 陽介から視線を外し、前方を向く。朱音と小晴の楽しそうな様子が見えた。


「小晴もだけど、お前も、ちょっと変わったよな」


 玲央は、眩しいものでも見るように瞳を細めた。


「そう?」

「うん。昔の陽ならたぶん見て見ぬふりしてたし。あの二人に怒ったのも、意外じゃん?」

「確かにね」


 再び視線を向けた陽介は、まるで仕方がないと言いたげな顔をしていた。時は流れる。止まるものは、なに一つない。

 結局全てのことは、そういうことなのかもしれない。


「行こっか」

「ああ。もう夏休みだからな」


 玲央は肩をすくめた。

 誰かが開いた扉から、ぶわりと舞い込んだ風。それぞれの夏を後押しするかのように、4人の間を通り抜けていった。




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