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恋人未満、スキャンダル以上——これは恋じゃない。ホラーです。  作者: さくらしゅう
第十一章 罪のないフリが、できなくて

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第27話 もう、見逃してくれない

 


 序盤の小さな騒動以外、サークルは実に平穏な時間が流れていた。朱音、陽介、怜央と合流してからは、小晴もいつも通りに戻れて気持ちもいくらか軽い。サークル活動も終盤に差し掛かり、みんなで軽口を交えながら楽しく作業をしていたタイミングだった。


「小晴ちゃん」

「小晴」


 ――二人に同時に名前を呼ばれた。


 拓也と悠真。どちらも、真っすぐこちらを見ていた。サークル内が一瞬、シン…と静まり返ったように感じた。まるで首元にナイフを当てられたような、そんな冷たい感覚が身体に降りる。


「悠真さん。私で良かったら手伝いますよ」

「小晴、ちょっと体調悪いからさ。拓也、俺でもいい?」


 返事もできず固まってしまった小晴に代わって、朱音と怜央が立ち上がる。


「はるちゃん顔色悪いよ。ちょっと外の風でもあたりに行こう」


 陽介が心配そうな顔で小晴を見る。


(でも…)


 と、朱音と怜央を見ると、二人が少し呆れた顔をした。


「こは。作業はいいからちょっと休憩しなよ。昨日から、ほんとに心配」

「陽、小晴のことよろしく」

「うん。任せて」

「……、ありがとう」


 三人の優しさに、小晴は頼りなげに微笑んだ。



 *



 小晴と陽介が出ていくのを見送った後、朱音と怜央はそれぞれ悠真と拓也の元へ向かった。


「悠真さん、なに手伝ったらいいですか?」


 悠真の隣に腰を下ろし、朱音が尋ねる。


「んー。じゃあ、これとこれ。ここの音選んで。俺、別の作業してるから」


 渡されたメモを受け取りながら、朱音の視線はずっと悠真に向いている。一瞬しか合わなかったが、それでもじっと悠真を見つめる。


「なに? もしかして俺のこと好き?」


 メモを受け取ったのに一向に作業に映らない朱音に痺れを切らしたのか、悠真がやっと朱音を見た。


「悠真さん、昨日からやりすぎなんじゃないですか?」


 そんな悠真の軽口をスルーして、朱音は感情を極力抑えた声音で苦言を呈した。


「え、なにが? 怒ってんの?」


 悠真はいつもの余裕ある笑みを浮かべた。まるで、小晴で遊んでいるかのようにも受け取れる表情だが、悠真の目の奥だけが隠しきれない炎を纏わせているようにも見えた。


 なんだか馬鹿らしくなって朱音は鼻で笑い、作業に取り掛かる。悠真が一瞬なにか言い返したそうな雰囲気を見せたが、結局なにも言わずに自分の作業を始めた。


(あー、だめだこりゃ)


 朱音は心の中で一人ごちる。小晴をかばって正解だったな、と朱音は自分の判断の正確さを心の中で賞賛しておいた。



 *



 一方、拓也の元に向かった怜央は、


「よっこいしょ」


 というなんともおじさんくさい掛け声と一緒に、拓也の隣の席に座った。


「きたよ。なにすんの?」

「サンキュー。これお願い」


 幼馴染らしく気安いやり取りで、仕事を頼まれる。


「はいよ。打ち込めばいいの?」


 資料を受け取って、軽く全体を確認した。


「そう」

「了解」


 短い言葉の確認で会話を終わらせ、怜央は目の前のPCにパチパチと無言で打ち込み作業をする。ある程度、作業を進めたところで、怜央はやっと閉じていた口を開いた。


「ねえ」


 相変わらずキーボードを叩きながら、隣の拓也に声をかける。


「ん? わかんないとこあった?」


 拓也は自分の作業を一旦中断させて、怜央に視線を向けた。


「拓也ってさ、自分のことどんな風に思ってんの?」

「なにそれ。どういう意味?」

「いや、フツーにサークル内の小晴の立場も考えてくれないかなって話。拓也たちは、小晴のこと殺す気なの?」


 作業の手を止めて、怜央は何もかも見透かしたような目で拓也を見た。


「…、そういうつもりじゃないよ」


 一拍の間を置いてから、拓也は否定を口にする。


「うん、どういうつもりかは知らないけど、実際はそうなってるよ」


 気まずさも少しの後悔も滲んでいた拓也の声音に気づきながら、怜央は躊躇なく正論を突きつけた。黙った拓也にそれ以上何かを言うことはなく、またキーボードを叩く音だけが鳴る。あとは陽介のサポート次第なところが大きいけど、きっと陽介なら大丈夫だろう。


(気づくかなあ。気づいたらそれも地獄だけど)

(それはそれで、別にいいけどな。俺は)


 もう少しで終わる画面を見ながら、教室を出た二人に少しだけ思い馳せた怜央だった。



 *



「ここ座ろう」


 陽介に連れ出される形で教室を出た小晴は、促されるまま日陰にあるベンチに座った。外はまだ明るい。夏の日差しが、じりじりと小晴の足元を照らしている。


「甘いのでいい?」


 隣の自販機の前に立った陽介の質問に小晴は「うん」と頷いた。


「ありがとう」


 小さな声で陽介にお礼を言う。ガコン、と飲み物が落ちた音が響いた。


「はい」


 手渡されたのはアイスココアで、ちょっとだけ驚いて受け取る前に陽介を見上げた。


「あれ? 好きじゃなかったっけ?」

「知ってたんだって、驚いて」

「そりゃ、もう1年はずっと一緒だから知ってるよ」


 軽く笑い飛ばされて「ありがとう」と少し、笑えた。


「……大丈夫?」


 伺うような、慎重な陽介の声が落ちる。


「え、やだな。大丈夫だよ」


 思いのほか、陽介の言葉に動揺した自分がいた。

 大丈夫。

 うん、きっと大丈夫。

 呪文のように、心の中で繰り返した。


「本当に?」


 念を押すような陽介に、また揺らされる。心配をかけたくなくて、小晴は笑って誤魔化そうとした。陽介に、自分のズルさを見せたくなかっただけかもしれない。


「本当だよ」


 上手に笑顔を作れた。はずなのに、陽介と目が合ったら一瞬で、小晴の中の感情が大きな津波を起こした。ぽたり、と涙が小晴の手元に落ちる。陽介の目が驚きで見開いた。


「え、あれ」


 小晴は慌てて、涙をぬぐった。


「ごめん。違うの。本当になんでもなくて」


 すぐに涙を止めたいのに、全然止まる気配がない。それどころか、涙が溢れて止まらなくなる。


「おかしいな。変だね。これ止まったら戻るから、陽ちゃんは先に戻ってて」


 それでもどうにか場を持たせたくて、小晴はから笑いを浮かべた。


「うん」


 陽介は理由も聞くこともせず、ただハンカチを一枚差し出して、何も言わずに半人分ほどあけた隣に腰を下ろした。陽介のあまりに優しい頷きに、小晴はそれ以上なにも言えなかった。


「……僕、何にも見てないから隣に居てもいい?」


 小晴の中で堰き止めていた最後の壁を壊す言葉だった。目が合ったわけでも、抱きしめられたわけでも、慰められたわけでもない。それでも、大丈夫じゃない自分から溢れた涙が、陽介のハンカチを濡らした。きっと、陽介の言葉と半人分あいた距離が、今の小晴のどうしようもない感情を認めてくれた気がしたんだ。


 小晴は何も言わなかったけれど、陽介はどこにも行かず小晴の隣に座っていた。ただ小晴の涙が止まるまで、ふたりは何も喋らず何も言わず、黙って吸い込まれてしまいそうなほど青い空に包まれていた。




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