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恋人未満、スキャンダル以上——これは恋じゃない。ホラーです。  作者: さくらしゅう
第十一章 罪のないフリが、できなくて

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第25話 許される夢の続き

 


 甘い夢をみた。

 誰も小晴を責めず、選ばせることもせず、ただ包み込んで肯定して、ズルいままを許してくれる、そんな夢を―――。






 朝の日差しとともに、まだ手放したくない夢の温度に手を伸ばしながら、小晴はベッドの中で目を覚ました。まだうとうととしていたい時間。けれど小晴は、今まで見ていた幻想の正体に気がついた途端、勢いよく体を起こした。


「っ…!」


 朝から、小晴の顔がボンッと赤く染まる。


「な、なんて夢みてんの!? わたし!」


 つい先ほどまで見ていた夢の衝撃で飛び起きた小晴は、動揺のあまりベッドの上で朝からのたうち回った。









 繋がれた手の温かさ、見つめる瞳の甘さ、抱きしめられた時の力強さ。何もかもがリアルで、思い出すだけで体温が上がってしまう。


「最悪だ…」


 一通り暴れ回ったおかげで、少しの冷静さを取り戻す。心を落ち着かせるために、小晴はスマホを探した。いつもの場所に置いていないスマホを探して、やっと枕の下から発見する。ついでに、昨日の悠真とのやりとりも思い出してしまった。


 少しドキドキしながらスマホの画面に視線を落とす。明るくなった待ち受け画面。やっぱりLIMEの通知が表示してあった。でも、きっとこれは昨日無視してしまった悠真からの不在着信と、なんらかのメッセージ。小晴は、意を決してLIMEを開いた。


「あ」


 LIMEのトーク画面の上部2件は、悠真と、それから拓也だった。

 不在着信で終わった悠真のLIME。そして、〈おはよう〉という拓也からのメッセージ。

 悠真に拓也。2人の名前が並んだトーク画面は、さっきの夢をもう一度フラッシュバックさせて、小晴はショート寸前な頭を両膝で抱え込んだのだった。



 *



 大学の最寄り駅に着いて、人に流されながら改札を出る。もう見慣れた道が視界に続いている。同じ大学に通っている学生だろう人がちらほらと散見された。


(二人に遭遇したらどうしよう。ていうか絶対サークルでは顔合わせなきゃいけないんだよね)


 それまでにはどうにかしないといけない爆弾をスマホに抱えている。自然と小晴から溜息が出ていった。

 結局、悠真からの不在着信にも、拓也からの「おはよう」LIMEにも何も返せずにここに来てしまっている。放課後までの間に、LIMEだけは返さないといけない。それが今日、小晴がすべき最低ミッションなのだが――。


 気持ちとしては、会いたくないという理由だけでサークルをサボりたいまである。昨日の今日で、しかもあんな夢見て、合わせる顔がない。また今朝の夢を思い出して、小晴は眉根に皺を寄せた。耳だけが赤く染まったのは、気温のせいではない。


「おはよ」


 小晴が苦悶の表情をしていたところに、後ろから声がかかった。振り返る。ドキッと心臓が音を立てて、小晴を硬直させた。


「お、はようございます」


 なんとか挨拶を返したが、まともに相手の顔を見れなかった。


「うわ~。あからさま」


 軽く笑われても、小晴の気まずさは変わらない。


「き、のうは、えっと、その」

「…今日も暑いな」


 被せるような悠真の言葉に、小晴の言葉は飲み込まれた。それから何事もなかったかのように、悠真が悠長に会話をしはじめる。普通のなんてことのない日常会話。白にも黒にも染まらずにいて良いかのような曖昧な時間。許されているわけではないとわかるのに、夢の中の状況とリンクして、小晴はまたどうしていいか分からない気持ちになった。隣を歩く悠真の体温を勝手に思い出す頭が、恨めしい。


(ばか。わたしのアホ。思い出すのやめてってば)


 長いのか短いのか、いつもの道が非日常になった大学までの道は、いつの間にか終わっていた。大きな正門を通り抜けて、各棟への分かれ道で悠真が立ち止まり、小晴も一緒に足を止めた。


「じゃ、俺こっちだから」

「あ、はい」


 今日初めて、小晴は悠真の顔を見た。目が合って、瞬時に小晴は横に視線を逸らす。


「……昨日のことさ」


 少しの間が空いた後、小晴をじっと見つめた悠真が黙っていたことを切り出した。小晴がぴくりと反応した。トートバッグを持つ手に力が入って、動揺で目も泳ぐ。


「謝らなくていいから。あれのお蔭でギアはいったつうか」


 ふと距離が近づいた。耳元に悠真の気配がする。


「容赦しねえって思ったから」


 小晴は、反射的に耳を抑えて悠真を見る。顔は真っ赤に染まっている。


「私、授業あるので!」


 そう言って、小晴は講義棟のほうへ駆け出した。


(なんで耳元で喋るの、悠真さんのばか!)


 小晴は悠真から逃げながら、心の中で全力で文句を叫んだ。






 小晴が走り去ったあと、悠真はその背中をしばらく見送っていた。

 そしてひとり、ぽつりと呟く。


「……ほんと、可愛すぎんだろ」



 *



 来週からは本格的にテスト期間に入る。今日は、前期最後の全体サークル活動だ。気持ちはものすごくサボりたい小晴だったが、テスト前の区切りと、朱音たちとのはやめの前期のお疲れ様も兼ねていた。


 小晴は、気まずさを飲み込んでサークルに顔を出すつもりでいた。一応、抱えていた爆弾も処理だけは済ませている。朝の悠真の件は偶然だったが、拓也のLIMEには、授業が始まる前に「おはようございます」とだけ返した。

 授業終わりにスマホを開くと〈今日来る?〉と、拓也から主語のないメッセージが届いている。


〈前期最後なので、顔出すつもりです〉


 業務的な返しだけれど、今の小晴にはここが限界点だった。夢の中の出来事が、二人の名前を見るたびに頭の中をループするから、余計に。


「こは、行こー」


 朱音に呼ばれて、スマホから視線を上げる。


「うん」


 ポケットにスマホをしまい、返事をして立ち上がる。


(たぶん大丈夫)


 小晴は心の中で、そう呟いた。何故なら今日は、前期最後の活動だからいろんな人がサークルに顔を出す。きっと拓也も悠真も、自分に構う時間なんてないはずだ。


(そう。それに、いつもあの人たちの周りに人がいないことなんてないし)


 サークルの中心にいる二人と、所属しているだけの空気みたいな自分とでは、顔を出すことの意味が大きく違う。


(さすがに話しかけてきたりはしないはず。うん、絶対ないって)


 もし、拓也さんにも悠真さんにも気にかけられてるってサークル内で知られたら――。

 想像して、ぞわっと鳥肌が立った。


(いやいや考えすぎ、大丈夫だって)


 一抹の不安を抱えながらも、小晴は客観的に見ても問題ないと信じて、一旦二人のことを考えないことにした。



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