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恋人未満、スキャンダル以上——これは恋じゃない。ホラーです。  作者: さくらしゅう
【前編】序章 春の隙間、揺らぐ風

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第1話 噂になる前

はじめまして。

この作品は、大学を舞台にした恋愛小説です。


いわゆる「恋に無縁の人」が恋をするとき、

理想と等身大の自分のギャップ、周囲の視線、傷つきたくない気持ちに振り回されてしまうことってありませんか。


この物語は、

・恋人未満の距離感

・恋愛への恐怖

・選ぶ、選ばれることへの葛藤


そんな曖昧で、少し苦しい感情を丁寧に描いています。

ゆっくり進むお話ですが、最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。


【第一部】好きが噂になる前に。

 


 この頃の私は、まだ何も知らない。まさかあんな出来事が、この先私を待っているなんて想像すらしていなかった――。





 季節は春。

 顔を見せていた芽が花開き、生き生きと世界を彩り始める時期。椿小晴つばきこはるは、今日から大学2年生になる。サークルにバイト、友人とのんびりと過ごしていた長期休みが終わり、慌ただしい日常が戻ってくる。今は、新しい履修計画表と睨めっこしながら、自分の取るべき講義を吟味している最中だった。


「こは~」


 名前を呼ばれ顔を挙げる。数メートル先で友人の結城朱音ゆうきあかねが手を振っていた。


「朱音ちゃん」


 小晴も彼女の名前を呼んで手を振り返した。

 テーブルまで来た朱音は、「よいしょ」と小晴のちょうど真向いの席に座った。A4サイズのトートバッグをドサッと空いた席に置く。


「この後、サークル寄る?」


 早速朱音は、小晴にこの後の予定を聞いた。


「うーん。どうしようかな」


 まだ小晴は行くかどうかを決めかねていた。


「新入生、今年もいっぱいくるかなあ」

「来てくれたら嬉しいね」


 小晴が控えめに笑みをこぼした。


「陽くんたち行くみたいだよ」


 同じサークルに所属する成瀬陽介なるせようすけは、小晴や朱音と同じ学部学科の同級生でもある。


「そうなんだ。うーん。どうしよう。陽ちゃん、もう履修決まったのかな」


 朱音の言葉に、また小晴の中で迷いが生じる。


「呼んでみる?」

「あ、いいね。今年もみんなで受けたいなあ」

「怜央といるって今。こっちくるってよ」

「わーい。やったね」


 如月玲央きさらぎれおもまた、同じサークルの仲間だ。

 陽介とは入学時からの仲良し組だが、怜央は陽介の高校時代の友人で、彼の紹介によって知り合った。玲央だけ所属学部が違い、法学部法律学科の学生だ。

 同じ映像系メディアサークル――通称メディサー――に入ったことで、小晴、朱音、陽介、玲央の4人は仲良くなった。


「あ、いた~」


 先ほどの朱音と同様、離れた場所から二人の男子学生が一直線にこちらに歩いてくる。そのうちの一人が大きく手を振っていた。


「陽ちゃん!」


 小晴も気心が知れた相手に笑顔を向けながら手を振った。椅子を陣取っていた荷物を下ろし、自身の足元にバッグを移動する。


「久しぶり。元気してた?」

「サークルで会ってた以来だもんね。1,2週間ぶり?」


 笑顔を浮かべて、陽介は席に着いた。


「うん。そのくらい振り。怜央くんも元気してた?」

「うん。元気だったよ」

「そっか」


 ふふ、と小晴も柔らかく笑う。


「二人とももう単位どれ取るのか決めたの?」

「ううん、まだかな」

「さっき紙もらったばっかだし」


 朱音の問いかけに、陽介と怜央が弱った顔で首を振る。


「そっちって2年どんな感じなんだっけ?」


 朱音は、1人だけ所属がちがう玲央に聞いた。


「エグイらしいって噂。みんな2年は覚悟しとけって言われてたし」


 というわりに、玲央の表情はどこか涼しげだ。


「うっわ。大変そ~」


 朱音はリアクションよく顔を歪めた。


「でも心理も大変なんじゃなかったっけ? 去年の心理の先輩たち半年くらいレポート課題しか言ってなかった時期あるじゃん」

「「「まあね」」」


 三人の声が重なった。


「そういう話だよね」

「私はまだあんまりよく分かってないけど」

「もう今から嫌だよ、私は~」


 絶望に満ちた顔で嘆いた朱音に、みんなそれぞれが笑う。


「今年もみんなで楽しくやりたいなあ。忙しくなるんだろうけどさ」


 ぼそっと、小晴は独り言みたいに呟いた。

 進級して2年生になった初日、履修説明会所謂ガイダンスを終えた彼らの午後は、麗らかに過ぎていった。


ここまで読んでくださってありがとうございます。

次話では、少しずつ空気が変わっていきます。

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