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隻眼の魔術師  作者: ユリ
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水の魔術

世の中には魔術がある。魔術は無数に存在するが、人間は最大でも二つほどしか扱えない。

五歳になると魔術適性を調べる。教会の中で、神官に手をかざされる。

「メタトロン様は水ですね」

神官に告げられた後、両親があからさまに落胆したのを覚えている。両親は告げた。無数にある魔術の中で火こそが最も優秀なのだと。兄もそうだった。嫌がらせが虐めに変わり、魔術の練習だと「火球(アー•ギュー)」をその身に放たれた。咄嗟に生み出された水は急速に熱湯に変わり、熱湯が顔にかかる。そうして左目が見えなくなった。


「メタトロン。今日から君は私の子だ。」

「はい。アルベルト様」

アルベルト•マーキュリー。公爵の1人であり、水の魔術師の家系だ。私が引き取られた理由もそこにある。そして彼らは知らない。私にはもう一つ魔術があることに。

分かったのは左目の火傷の痛みが無くなり、目を開けられるようになってからだ。そしてこれは誰にも言っていない。

名付けるなら瞳の魔術。効果は魔力を見ることが出来たり視界の拡大と縮小程度だ。逆に水の魔術は全く使えない。ただ水を出すだけの魔術になっている。


「アルベルト様。お願いがあります。私に魔術を教えてくれませんか?」

ある日、思い切ってアルベルト様に問いかけた。アルベルト様は二つ返事で了承してくれた。しかし、家庭教師として選ばれたのは義理の姉であるステラ•マーキュリー。マーキュリー家の長女であり、魔術アカデミー卒業生だ。

「魔力は認識できないけど、感じることは出来るの。だから、後は魔力を粘土のように形を変えていくの。それが始まりね。」

彼女の教えは丁寧だった。そうして分かるのは魔力がとても汎用性が高いということだった。水の色を変えたり形を整えたり、様々なことが出来る。そうして生み出されたのが発火水。火に触れると燃え広がることからそう名付けた。火の魔術特攻の水の魔術だ。水の魔術は水しか出せないのでは無い。正確には液体の魔術だ。

だがステラが教えてくれるのは「水球(アクア•ポロ)」と「水操(アクア•オペラティオ)」の二つだけだ。これは水の魔術師なら誰でも出来る。この二つでただひたすらに様々な水球を作り、数を増やすだけなのが指導だった。

「初歩しか教えられなくてごめんね。学園入学までは教えるなって父に言われてるんだ」

「大丈夫です。これでも水の魔術は楽しいので。」

謝るステラはどことなく悲しそうな顔をしていて、その顔を見ていると居た堪れなくなり、咄嗟に笑顔を作りながら答える。とはいえ水の魔術が初歩でも楽しいのは事実だ。そして操作する水球の数に比例して魔力も増えていった。

「水球の形も完璧だね。そろそろ教えること無くなってきたかな?」

そう笑うステラは嬉しそうだった。

「そうですか?私はまだまだですよ。ステラ姉さん」

「そうだね。じゃあちょっとだけプレゼント」

「これは…杖ですか?ありがとうございます!」

「ただの杖じゃないよ。この杖の底で地面に強く押すと火花が散るの。まぁ、だから何って感じだけど…」

「それでも…嬉しいよ。ありがとうステラ姉さん」

水の魔術だと判明したのが五歳。引き取られたのが八歳。魔術を習い始めたのが九歳。そして今、十二歳。

「ミーシャは大変じゃない?」

「いえ、メタトロン様の専属ですからね。別に大変では無いですよ。」

「そうか。でも大変だったら休んでもいいからね。」

「そうですね。その時は。」

微笑んで言葉を返してくれるのはミーシャという専属使用人だ。いつもメイド服を着ているが何着あるのかと聞いた時は五着あると言われて驚いた。ミーシャは元々引き取られた時に話し相手としてアルベルト様から送られてきたメイドだった。歳も近くすぐに打ち解けた。そこから徐々にマーキュリー家の人々と打ち解けるようになった。

異変が起きたのは十四歳の頃だった。左目が焼けるような痛みに襲われた。目が覚めた途端に起きた出来事で、寝具から落ちた。その物音によって駆けつけてきたミーシャによって数分後に痛みが引いた。その理由は意識して左目に魔力を送らないようにしているからだ。

「メタトロン。お前は左目に魔術がある。だがそれを使わずに押し留めていたせいで今日のようなことが起きた。使うなとは言わない。むしろちゃんと使え。使わないから痛んだんだ。」

「はい。アルベルト様」

「それから、今日からはこれをつけなさい」

そう言って渡されたのは眼帯でした。その眼帯には眼の部分に紋章があった。

「こうですかね?これはなんですか?」

「それは本来囚人に魔術を使わせない為の呪印と呼ばれる代物だ。だが、少し勝手を変えて当てた部分の魔術を使えないようにした。つまり、これをつけている間、左目の魔術は使えない。だから、訓練の時以外は付けておきなさい。」

「はい。」

叱るアルベルト様の声色は厳しさの中に優しさがあった。そして渡された眼帯は無骨なものだったが酷く素晴らしいものだと思えた。

次の日から水の魔術と共に瞳の魔術を訓練し、日常生活では眼帯のまま動く練習をした。そして———

「やった!痛みがない!」

「おめでとう!」

「おめでとうございます!」

痛みが完全になくなるほど魔力に瞳の魔術が追いついた。それをステラ姉さんとミーシャに祝ってもらった。そして分かった。瞳の魔術は魔力を見ることと視野の拡大と縮小だけではない。他にも空間そのものを見ることが出来たり、害意を(もや)として認識出来るようになった。だが、眼帯をつけると再び瞳の魔術は使えなくなった。

そして十五歳———魔術アカデミー入学試験に行くことになった。

「それでは、行ってまいります。アルベルト様。ステラ姉さん」

「行ってきます。当主様。長女様。」

ミーシャと共に深く頭を下げてから馬車に乗る。

「気をつけろよ。そしてメタトロン。眼帯を外すのは誰にも見られていない時だけにしろ。そしてミーシャ。メタトロンを頼む」

「絡まれないように気をつけてね。面倒な人が多いから」

アルベルト様とステラ姉さんによって見送られた馬車は魔術アカデミーの少し手前で止まり、降り立つ。そこからは歩いて試験会場である校舎まで向かい、教室に入る。受験番号を確認して席に着く。

初めは筆記試験だった。足し算や引き算、掛け算や割り算だったり、魔術師の歴史や理論だったりと簡単なものから難しいものまで入り混じっていた。

「ミーシャは出来たの?」

「私は従者となっているので免除ですよ」

「いいなぁ…」

ダラダラとミーシャと世間話に花を咲かす。そうして十分ほど経過してから校舎に呼び出された。魔術の実力を図る為に教師の風の魔術で守られた案山子を攻撃できるかというなら試験内容だった。使われたのは中級魔術「風壁(ヴィントス•ウォール)」波の魔法じゃ中まで届かない。ではどうするのか。水の魔術は液体を操る。それは極限化したことで霧のような気体でも操れるということだ。

「魔術であれば手段は問わないんですよね?」

「あぁ。そうだ」

水球(アクア•ポロ)水操(アクア•オペラティオ)

そう呟くと無数の水球が現れ、次の瞬間にはまるで霧のように霧散する。水分は気化され気体に、エタノールは霧のように周囲に舞い散る。そして杖の底を地面に叩く。その瞬間、バチバチと音を立て、空間に爆炎が広がる。気体の水分と霧のエタノールによって反射される爆破直前の光はとても綺麗だった。爆風と風そのものにエタノールと水の気体が巻き込まれて、そこでも爆炎が起こり、案山子が燃える。そうして試験は終了する。


一度別室に移動を行い、数十分の待機の末、やがて黒板に提示される。結果を見た時、メタトロンはひどく喜んだ。何故ならそこにはSと、しっかりと記されていたからだ。

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