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ファン兼お手伝いさん×作家


 After


「ぐぅうぅうぅ、悔しい……」

 担当さんからの電話を切ってから、すーちゃんが机に突っ伏した。ああ、受賞を逃したのか。私も、悔しさでいっぱいになる。すーちゃんの作品は、他の候補作よりも何倍も、何千倍も面白かったのに。見る目の無い人たち。

 でも今は、私個人の悔しさはどうでもいい。すーちゃんだ。

「悔しいと思うことが、悔しい……」

「よしよし」

 悔しいって思うことは当たり前だと思うんだけど。すーちゃんは、いつもこう言う。

「心から『賞取ったんだ、おめでとう!』って言いたい……っ。良かったねって思う気持ちも実際ちゃんとあるんだから」

 撫でた背は丸く、浮き出た背骨のごつごつとした感触。乾いた手に、ウールがちくちくと刺さった。

「何で悔しさが先に出ちゃうんだ~~~~」

 七十にもなって嫌だぁぁあ、と嘆くすーちゃんに、私はキュンとなる。

「でも外に出たら、ちゃんとそう振舞えるし、おめでとうも言えるじゃない」

「それくらい格好付けてないと、格好悪いよ」

「すーちゃんのそう言い切るところ、本当に格好いい」

 大好き。作品も、本人も。この五十年ずっと。きっとこれから先もずっと。

「でもね。私の前でだけは、素直で居てよ」

 素直に泣いて、悔しがってよ。と私は言った。私だけの特権を振りかざす。

「そんなすーちゃんも、大好きなんだからね」

「……そう言ってくれるアンタもカッコいい」

 すーちゃんが顔を上げ、笑う。泣き笑いだったけれど、最高にキュートだった。


 Before


「私、先生の作品に救われたんです」

 私の手をぎゅっと握って、彼女は言った。

「だから、何でもお手伝いします……!」

 その強い眼差しに、私は射貫かれた。

 ……私の作品が、誰かを救った。その救った誰かが、今度は私を手伝いたいと言う。

 目の前にいきなり顕れた循環に、私はくらくらと眩暈を覚えた。

 あまりに甘く、眩しい、……ずっと欲しかったもの。

「うん」

 私は思わずそちらへ手を伸ばした。熱病患者が、水へと手を伸ばす如く。ふらふらと、でもしっかりと確実に。

「これからも、ずっと面白い作品を書いていくから、どうぞよろしくね」

 彼女の手を握り返したとき、もう離すものかと思った。

 私の執着を知ってか知らずか、彼女は本当に美しく嬉しそうに微笑んだ。


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