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温泉愛好家×温泉愛好家


 After


 かっぽーん……

 湯気満ちる空間に、お決まりの音がする。多分、誰かが洗面器を置いたのだ。ドドドド、とお湯の注がれる音も、また響き出した。

「「あああ~~~~」」

 私とゆかりの声が重なる。さやさやと頬を撫でる風は、すっかり冬のそれで、キンと冷えていた。この温度差が、たまらない。露天風呂。

「癒されるわねぇ……」

「ほんと……柚子の薫りがまたいいわ」

「そっか……今日は冬至だものねぇ」

 風呂にぷかぷか浮かぶ柚子からは、涼やかな薫りが立ち上る。

「……雪、降ったら雪見風呂になるんだけどな」

「雪道は滑るからねぇ。私はちょっと怖いなあ」

「それは本当にそう」

 二人顔を見合わせてくつくつと笑った。

「やだねー。情緒より身体を取っちゃう」

 湯に沈む身体も、何処もかしこもガタピシ喚くし、しわしわのしみしみだ。

「けど、大事。だって、健康で居たら、ずっと一緒に居られるんだから」

 お湯の中で、私の鶏ガラの手を探り当て、握り締めてくれる手がある。同じように鶏ガラになっちゃったけど、それでも昔から変わらず、この世で一番愛おしいそれ。

「……そーれもそうだ」

「ね」

 その手を握り返して、また「は~~~~」と息を吐く。心の底からホッとする。温かくて、いい薫りがして、隣には好きな人。極楽の予行演習を、今日も楽しむ。


 Before


「いい湯だねぇ」

「ほんと」

 温泉は、大好き。濁り湯も、炭酸湯も。内湯でも、外湯でも。どれも好き。

 でも。

「見て、山の緑が迫って来るみたい」

「こういうの、ほんといいよねぇ」

 アンタと入る温泉が、一番好き。

 周りの景色に夢中になってる、その白い背中が一番好き。

 真っ直ぐで、染み一つ無くて。健やかな気配でいっぱいなのに、何処か色っぽい。

(ドキドキしちゃう)

 それって単に性欲であって、温泉関係無いんじゃないのって言われそうだけど。

 違うんだな。

「ね、あの鳥なんだろう?」

「どれどれ?」

 好きと好きが掛け合わさったときに生まれる、わくわくとドキドキ、それから、こっそりあるムラムラが、たまらなく心地好いのだ。

「……温泉、いいねぇ」

「ね」


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