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食べるのが好きな人×料理好き


 After


 キリッとした赤が自慢のエプロン。江見さんの還暦祝いに贈られたエプロン。それが私。江見さんの、少しふっくらとしたお餅みたいな身体を包みながら、今日も彼女のお料理をお助けします。

「はい、お待ち」

「わあ……!」

 江見さんがお料理を振る舞うのは、恋人の紗奈さん。こちらはひょろりと縦に長いおばあさんです。

「どうして、私がこのお粥を食べたいってわかったの?」

 キラキラした眼で、紗奈さんがお粥を見ています。美味しそうですよね。きっと美味しいですよ。

 何たってしいたけ出汁にかつお出汁、昆布出汁まで使った特性のお粥です。ふわっとかかった卵も美しく、食欲をそそる装い。

「……何となく」

 江見さんが、うっすりと微笑みます。私は「ふふふ」と一人笑いました。紗奈さんが昨日テレビドラマのお粥を見て、食べたそうにしてたのをちゃーんと見てたのですよね。

「頂きます!」

「たんと食べてね」

 紗奈さんが「美味しいねぇ」とゆっくり、ゆっくり、一口ずつ、しみじみと噛み締めて味わうのを眺めながら(お年を召してますからね。しっかり噛むのは良いことです)。

 江見さんは、愛おしそうに、満足そうに頷きました。



 Before


「決め手は、私の料理をゆっくりと味わって食べてくれるところかな」

 私の嫌味に姉が返してきたのは、そんな惚気だった。

 パパとママが反対する相手……だって、同じ女だ……と、強引にでも一緒になる、家を出ると決めた姉。「いいとこの坊ちゃん蹴ってまで一緒になりたいなんて、よっぽといい女なのね。何処がいいの?」と、嫌そうな顔で聞いてやったのに、笑顔で惚気を返されたのだから堪らない。

「私達だって味わっては、いるよ」

「でも、ささっと食べちゃうじゃない」

 それは、そう。美味しいと一度伝えたら、それでいいような気がしちゃうし。あとはかっこんで終わりみたいな。だって、ごはんの時間とか勿体ない。他にしたいことが沢山あるんだもん。

「あの子はね。ゆーっくり、一口ずつ、しっかり噛み締めて食べてくれる。それが、嬉しくて」

「そんなの、おばあちゃんになったら嫌になるくらい遅くなるんじゃない?」

「あら」

 私の二度目の嫌味も。

「そこまで一緒に居られるなら、それだけで素敵」

 姉はするりとかわして微笑んだ。

 きっと、嫌味だと気付いてすらいないのだろうけど!

 ……覚悟を決めた姉が纏うのは、もうすぐ好きな人と暮らせるというしあわせなオーラだけだった。


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