伝説の最強戦闘員×オペレーター
After
私……戦闘オペレーター補助AI……が繋いでいるモニターに映るのは、一人の老婆だ。真っ白な髪を一つに束ね、しわしわの顔に多少の疲れを滲ませていた。しかしその身には歳に似合わぬしっかりとした筋肉が未だついており、漲る殺気と共に、彼女が現役の戦闘員であることを示していた。そんな彼女のバイタル他を読み取り、私はマスターに彼女の無傷を伝える。マスターの唇から細く安堵の息が漏れた。枯れ木の如く細い手が、震えを止めた。
『ババア相手に、何十人も若いモンが突っ込んでくるんじゃないよ』
こちとらギックリ腰明けだよ、と愚痴る彼女にマスターがため息を溢す。
「ギックリ腰は、単なる貴女の落ち度でしょう?」
『言ってくれるねぇ、由利江』
彼女は肩を竦めると言った。
『アンタが取れって言った本を取ろうとしたから、なったってのにさ』
マスターの顔が痛そうに歪む。
「……私は、ちゃんと台を使えと言いました」
『まあいい。他の奴らは?』
「まだ応戦中です。向かいますか?」
『あたぼうよ。若者助けるのが老人の務めってね。案内よろしく』
わかりましたというより先に、マスターが言った。
「怪我、しないで下さいね」
『アンタからハグしてくれるなら』
「キスも付けましょう」
『いいね』
彼女が獰猛な笑みを浮かべた。統計上、あの笑みが出たときの勝率は百パーセント。こちらの被害は少なく、相手の被害は甚大。
『やる気出た』
マスターの口の端が、うっすらと上がった。
Before
「アンタがキスの一つでもしてくれりゃあ、無傷で帰ってきてやるよ」
「馬鹿言ってないで、常に無傷を目指して下さい」
ほらもう、とっとと行って! そう言って、ますたーは、彼女をオペレーター室から追い出した。
『ますたー』
「なぁに」
『今まで の せんせき ぶんせき する と、かのじょ の言う とおり する、しょうりつ あがる します』
ますたーが、ため息をついた。
「上がるします、じゃないわ。上がります」
『上がります。……ますたー、なぜ キス しませんか』
ますたーも、彼女を好む。バイタルサインから、私、わかります。
私が言えば、ますたーは、もっと大きなため息をつく。
「人間ってね、とっても複雑なの」
『ふくざつ』
「あなたも学習していけばわかるわ」
『はい。えいい、学習 がんばる ます』
「がんばります、ね。ちょくちょく音便が可笑しくなるのはどうしてなのかしら……」
生まれたての私《AI》に、にんげんかんけいは、まだむずかしい。




