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第1章 扉のない世界
エミは感情をなくした少女だった。
父を事故で亡くしてからというもの、涙も出ず、笑うことも忘れ、ただ時間に押し流されるように生きていた。
ある日、学校の帰り道、ふと立ち寄った公園のベンチで、壊れた古いオルゴールを見つける。
それは、かつて父がくれたものだった。ふたを開けると、音は鳴らなかったが、そこに小さな「ひび割れ」が生まれた。
──空間に、現実に、そして心の奥に。
気づくとエミは、知らない空間にいた。景色は歪み、重力の向きも曖昧で、空と大地の境界がない。
それは「感情によって形を変える」世界、5次元だった。
「ここは、選ばれた者しか来られない世界だよ」
少年・ユウが言った。
彼の言葉に、エミは胸の奥で微かに何かが震えた。