第五話 喧騒と静寂
ご無沙汰でした
「怪我で済まさんぞ小僧どもっ!!」
金切り声を上げ、おっさんが火球を掲げた、その時。
「――却下です」
たった一言。
火球は虚空へと消えいった。
まるで時間が止まったかのごとくおっさんは静止し、俺もまた硬直する。
今しがたの静寂とは打って変わり、困惑に淀む喧騒が周囲に巻き起こる。
しかしそれは火球の消滅という不可思議へ注がれるものではない。
「……!」
緊張で唇を噛み締める。
――生徒会の腕章。
そこに刻まれた4という数字。
統括生徒会――第4席
「オルブ、フェリエール……!」
はっとし口を抑える。だが無意味だ。
2メートル以上ある細身の巨体。
豪奢に装飾された白基調のスーツ。
淡く赤い金色の長髪は煌めき、黒い仮面の奥底から、どこか遠くを見つめるような瞳が自分を映し出していた。
「おや、我をご存知ですか」
「えっ、いや……」
呑まれる。
時間が止まる。
この世界には俺とこの男の2人しかいないのか?
思考が鈍り……いや加速しているか?いや、それすら自覚出来てないのか?そもそもこの瞳は俺を見ているのか?
「クソがぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「っ……」
思考の混濁を打ち払ってくれたのは、皮肉にもおっさんの奇声だった。
前屈みになっている巨漢へと、背後から警棒を握り締め襲い掛かる。
――そして寸前。
「おや?これはこれは……」
おっさんは卒倒した。
「貴方には一瞥もしていないというのにこうも……いやはや、警備の強化案を持ち込まなければ」
何が起こった!?攻撃?魔法?何をした?俺は何をされてた?どのくらい時間が経った?
思考速度のギャップに脳が急速に疲弊していく。
「君――」
「っ!?」
今度は完全に思考がストップした。
肩に手を置かれた。
高鳴る鼓動で体ごと弾み出しそうだ。
「入学式、楽しんでね」
「へ……」
腑抜けた声が喉から溢れる。
「私は統括生徒会の者でね。暇つぶ――新入生の様子を見に来ていてね。この職員はこちらで対応するから、気にせず学校に行きなさい」
「え?あ、はぃ……」
今度は視線は交わらない。
彼はスマホをいじりどこかに連絡している。さっきの問いは何だったのか?あの瞬間何がおこったのか?
全身にシャツが張り付き気色悪い。
「……」
それらを振り払うため、俺はかぶりを振って立ち上がった。
上手く力が入らずふらつくが、がっしりと体を支えられる。
「だ、大丈夫でした!?」
「ガット」
目尻に涙を溜めたガットの顔は、申し訳ないがすごく面白かった。
思わず笑いが溢れ出る。
「な、なんで笑うんですかぁ!?」
「いや、もう大丈夫。行こうか」
安心したのか、気づくと踏ん張りも効くようになっていた。
そしてタイミングよく到着したモノレールに乗り込み――先程の喧騒どころか、小さな話し声すら聞こえない事に気がついた。