第三話 何に駆られて
ご無沙汰です
おっさんは項垂れながら警棒に手を伸ばす。
そのなが〜い溜め息からは嫌悪の感情しか感じられない。しかし俺としては、そんなのは知ったことでは無い。
それよりも、ガッドの焦りに満ち満ちた表情が面白くて堪らなかった。
「行こう、知ってるだろ。この都市じゃいかなる種族も差別の対象にならない。気にしなくていい」
モノレールを指し示して踏み出したその時――
「っと」
だが俺は転ばない。
――あの性悪ロリのおかげだな。
おっさんは引っ掛けようと、俺の股の間に警棒を挟み込んできた。
憤怒に染まったその表情は見るに耐えない。
俺の師匠であり親であるあの性悪ロリは醜いモノが嫌いだ。
きっと今この場にいれば、おっさんの首は吹き飛んでいた筈。気質まで引き継がれてなかったことに感謝してほしい。
「く、くそがきぃ……!」
「なんだよ、間違ったことは言ってねぇ。それとも統括生徒会に報告でもしてみるか?」
挑発的な笑みを大袈裟に作り、俺はおっさんを見下した。
そんなことは出来ないと分かっているからだ。
ギャラリーは如何なる種族であれ、その存在に対して平等の権利が与えられている。まして正式な手続きを行わなければ、制服に袖を通すなんてこと到底不可能だ。
ガッドには不当な扱いを受ける謂れが何も無い。
対してこの男は差別行為だけに留まらず、自ら真っ当な生徒と認めた俺にすら、危害を加えようとした。
もちろん、少なからず俺にも非はある。ペナルティは受けるかも知れない。
だが互いの立場を考えれば、どちらがより思い罰則を受けることになるかは一目瞭然。
世界最先端の技術力を誇るこの都市は至る所に監視の目もある。
余程の馬鹿でも無い限りは――
「あ、あぶない!」
ダンプでも突っ込んできたのか。俺は腹部にとてつもない衝撃受けて後方に吹っ飛んだ。
ガッドが俺に体当たりをお見舞いしてくれたらしい。
地面につっぷするガッド。真横には激情に駆られたおっさんが警棒を振り下ろした体勢で固まっている。
どうやら庇うための突進だったようだ。
いや……多分だけど普通に殴られた方がダメージ無かったぞ……
歪む視界に頭を振る。
「き、貴様らぁっ!!!」
咆哮と同時、おっさんの掌に小さな火の玉が生成される。
その瞬間、我関せずを貫いていた周囲の人々が一斉に視線を注ぐ。
それは彼が魔法を使用したからだ。
一体何がここまで意地を張らせているのか。
おっさんはまるで周囲の視線に気づいてないかのように――いや、おそらく本当に気づいていない。それほどに激昂していた。
ありがとうございました。
このあと30分からもう一話公開ですので、良ければぜひ。