嬉しくて飲み過ぎた話
落とし噺が好きなんですが、下げが弱い気がします。
「おいおい。オメェちょっと飲み過ぎだぞ。姉ちゃんの結婚決まって嬉しいのは分かるけどよ」
「飲み過ぎぃ? なぁに言ってんの兄ぃ? そんなこたぁないよ? だってオレぇ今飲み始めたばっかりなのよ?」
「なのよ? ってオメェ、もう飲み始めてから2時間経ってんだぞ。完全に酔っ払ってんじゃねえか。それにオメェ、これから高速バスで実家帰ぇんだろ? 時間大丈夫なのかよ?」
「でぇ丈夫だってぇ。あのね。オレね。兄ぃの前で何だけどね? テメェがどんだけ酔ってんのかってぇ、ちゃぁんとチェックしてんだからぁ」
「チェックだぁ?」
「うん。兄ぃさぁ、ちょっとそこ座ってくれる? ――そう。そこで。びしっと。うん」
「――い、いいかい兄ぃ。オ、オレね。実ぁさっきからちょいちょい兄ぃのこと見てたのよ。なんでって? そりゃあテメェが酔ってるかチェックするためよ。
あのね。こうして兄ぃのこと見ててね。兄ぃが双子ちゃんとか三つ子ちゃんに見えちまったらぁ、『あぁこいつぁいけねぇや。飲み過ぎちまったなぁ』てぇ、思うようにしてたの。
でもね? 兄ぃまだちゃぁんと一人じゃない? だからね? オレぁまだまだ大丈夫なの。ちっとも酔ってませんよぉ?」
「……はあ……オメェ……ホント何言ってんだ? いいか? よっく聞けよ。テメェ、オレが何人に見えたらーとか、そんなこと言ってるけどよ、そもそもオレぁ――」
「え?
なあに兄ぃ?
うん。
兄ぃは?
そっちに?
いない?
――っ!?」
「だから飲み過ぎだてぇんだよ。今日はもうこれでお開きだ。オレぁちっと会計済まして来っから、テメェは水でも飲んで酔い醒ましとけ。――ああそうだ。念のため言っとくが、くれぐれも寝たりするんじゃねぇぞ! いいな!」
「あぁ、ちょっ待っちくれよ兄ぃ。オレぁまだ全然酔ってなんかぁ……あ~あ~行っちまったよぉ……ったく兄ぃも心配性なんだからぁ。オレぁまだちぃっとも酔ってなんかぁねぇってぇのによぉ……あぁでも……兄ぃがいなくなったてぇ思ったら……なんか……急に……眠くなってぇ……ぐぅ……」
「――おう。待たせたな……ってぇ! やっぱ寝てんじゃねえか! おい! 起きろ!」
「……あ、あれぇ? どったの兄ぃ?」
「どったのじゃねぇ! とっとと起きろ! バス! 乗んだろがよ?」
「誰がバスのんだぁ? なぁに言ってんだよぉ兄ぃ。オレがのんのはバスじゃなくて、お、さ、け。バカだなぁ兄ぃ、バスが飲めるわけないってのぉ。兄ぃさぁ飲み過ぎちゃったんじゃないのぉ?」
「ああクソ! テメェいい加減にしゃんとしねえか! じゃねえと、バス乗せる前ぇに水風呂ん中ぶち込むぞ!」
「ええっ!? ヤだよ兄ぃ。なんでそんな急に乱暴な……あ、バスと水風呂。兄ぃ上手ぇこと言うねぇ」
終劇