慰めバタースコッチ
注意事項1
起承転結はありません。
短編詐欺に思われたら申し訳御座いません。
注意事項2
駄目な日でした。
とりあえず鼻をかみたいです。
「今日は稀に見る厄日で、朝起きたら寝汗を掻いていて、改札が上手く通れなくて、指示が上手く聞けなくて、結局何もなせないで、周りに沢山の迷惑を掛けて終わったんだよ」
目の前に座る彼女はそう言って、静かに俯いた。辺りにしっとりとした闇が覆う。それ以上の愚痴を垂れる事は無かったが、その分きっと自責の念に駆られている事だろう。だから静かに席を立って、慰めの一献を差し出した。
「有難う。殴めてくれるの?」
黙って頷くと、彼女はカップを両手に持って、静かに口元まで持っていく。口元は見えないが、雰囲気で分かる。舐めるように、ちみちみと味わっている。
温かいバタースコッチのラテ。周りに漂う甘いバターの香りが、少しづつ、少しづつ、傷を癒しているのだろう。それからほっとした顔をして、ただぼんやりと呟いた。
「確かに今日は厄日だったけど、生きる希望が無いわけじゃなかった」
此方が頷くと、彼女はふふっと笑って、カップを両手で包み込む。悲しみが僅かに溶けた柔らかい笑顔で、なんの気もない話をする。
「君からバタースコッチのラテを貰ったけど、実は今日、駅前の看板で見たんだ。だから休日になるまでそれを生きがいにするんだ。それから、それから、白昼夢も似たようなものだった。起きたら何も覚えてなかったけど、きっとそれを飲む夢だったよ。あとね、もうクリスマスだから、イルミネーションが綺麗で……」
席を立って、肩に毛布を掛けてやる。すると堪えきれ無くなったように、言葉が止まった。今度はつっかえた様に少しづつ言葉を話す。
「辛いことがあったらね……紙に書いてジョセフィーヌに食べて貰うの。そうしたら嫌なこと全部無くなるの。ジョセフィーヌってね……うちにあるシュレッダーで……それで……それで……」
背を擦ると、嗚咽が聞こえてきた。顔は見えないが、きっと涙で泣き濡れている事だろう、少しでも慰めになる様に背を擦ると、本格的に泣き声しか聞こえなくなった。
「一杯あったんだ……。振り返って見たら一杯。言われた事の整合性が取れてないことが一杯。でも……最後まで気が付かなくて……。誰も彼も優しいからね、私が責めるしか無いんだよ」
目の前にティッシュを差し出すと、静かに受け取って鼻をかむ。何度か繰り返して、トナカイになるまでかみつづけると、漸く収まったように吐息を漏らす。
「明日からね、聖夜に恥じない働きをするんだ。だってクリスマスが子供の頃から好きだったから。何時だって幸せだったから」
鼻かみ終わって、漸く帰ることだけに集中出来ます。
いや、今日は厄日なので、すんなりと帰ること自体、難しいのかも知れません。帰れませんでした。
最初はクリスマスツリーだけだったのが、周りにイルミネーションも生えてきました。
あと飲みたかったバタースコッチのラテ、別の店で見ることになるとは思ってませんでした。
だから、生きがいにします。
もう何をやっても駄目ならば、綺麗なものだけを考える事にします。
昔からハロウィンよりもクリスマス派です。
だから今が楽しみです。