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聖剣を抜く途中でギックリ腰になった勇者を治す途中で魔力が尽きた白魔道士を癒やす途中で材料が切れた薬師を助ける中で罠にかかった調達屋を助ける途中で魔王に襲われた罠師を助けたい勇者はギックリ腰で──

作者: しいたけ

 城の外れの方に、偉大なる聖剣が安置されておりました。

 安置と言ってもその剣身は大地に突き刺さっており、言い伝えでは『大いなる厄が降り注ぎし時にその剣は抜かれん』とされており、人々は時折剣を抜こうと試みては、抜けない幸せを享受しておりました。


 が、そんな幸せはある日突然に終わりを迎えました。魔王が復活したのです。

 人々は恐怖に震え、勇者の到来を待ちました。

 勇者の血を引く若者の、勇敢たる正義が聖剣を求め、やがて城の外れへと辿り着き、聖剣を両手で掴むと、勢い良く力を込めました。


 ──グギッ!


「あ、ぬぅ……!!」


 言葉にならない痛みが勇者の腰を襲いました。痛恨の一撃です。

 十センチ程聖剣を引き抜いた辺りでギックリ腰に襲われた勇者は、そのままピクリとも動けなくなり、その様子に人々は困惑し、何とかしようと町中の医者を頼りました。


「専門外」

「保険適用外」

「往診範囲外」


 しかしどの医者も首を横に振るばかりで、中々勇者を治せそうな人は見つかりませんでした。




「ワシが治そう」


 勇者を案ずる群衆の中から、一人の老人が名乗りを上げました。


「ワシは昔、癒しを生業とする白魔道士をしておった。腰痛も治したことがあるから、安心せえ」


 人々は老人の言葉に期待しました。

 勇者なくして平和はありえません。

 ギックリで動けない勇者の背中に手を当て、老人はそっと目を閉じて祈りの呪文を唱え始めました。


「おお? 温かい……」


 勇者は腰が楽になるような感覚を覚えました。

 ギックリ腰が癒えていきます。


「……むむ」


 が、途中で老人は手を離してしまいました。

 人々はどうしたのだろうと、ざわつき始めました。


「老いぼれ故、魔力切れじゃ……すまぬ。誰か魔力薬を持ってはおらぬか?」


 魔力薬は魔道士にとって、魔力を瞬時に補充する栄養剤のような物でした。

 人々はすぐに町中の道具屋を訪ね走りました。


「品切れ」

「売り切れ」

「五割増し」


 しかし魔力薬を置いてある店は見つからず、人々は困惑しました。




「私が作ります」


 うろたえる群衆の中から、一人の若い女性が手をあげました。


「私は薬師です。手持ちの材料で魔力薬を作ってみましょう」


 人々は安堵に胸を撫で下ろしました。魔力薬さえあれば白魔道士の魔力も戻り、ギックリ腰の勇者を治せると、人々は期待したのです。


「最後に魔力草をすり潰して……あ」


 が、完成まであと僅かというところで、薬師の手が止まりました。


「すみません、どなたか魔力草を持っていませんか? 先程使い切ってしまって手持ちが……」


 人々は顔を見合わせましたが、誰も持ち合わせては居ませんでした。


「近くの山の細道に野生の魔力草が生えていますので、どなたか取ってきてはくれませんか? 外は魔物が出ます故……」


 人々は採取の依頼を冒険者ギルドへと出しました。


「安っす」

「面倒」

「無理ぽ」


 しかし、どの冒険者にも見向きもされず、人々の心に再び陰りが押し寄せました。




「俺が行こう」


 どよめく群衆の中から、一人の青年が歩み出しました。


「俺は配達屋。いかなる物でも配達してみせるプロだ」


 人々は青年の勇気に拍手を送りました。

 これで魔力草が手に入れば、魔力薬が完成し、白魔道士の魔力が満たされ、勇者のギックリ腰が治る筈だと。そう願いました。


「出発! ──うわっ!!」


 が、魔力草の生える山まであと僅かというところで、青年は罠にかかってしまいました。

 偶然通りかかった登山家が、慌てて町へと伝えに行きます。

 罠にかかった青年を助けようと、人々はあちらこちらを訪ね回りました。


「無理」

「無駄」

「無謀」


 人々は体よくあしらわれ、頼る術も無くなりました。




「僕で良ければ……!!」


 と、群衆の中から小さな少年が飛び出しました。


「僕、罠師の息子で、まだ見習いだけど罠外しなら得意だから……!!」


 人々の目に希望が宿りました。

 これで罠にかかった配達屋を助け──以下略。


「案内して!」


 少年は登山家に案内され、山へと向かいます。

 

「愚かなる人間共よ、我が魔界の王たる所以を知れ……!!」

「うわぁ!! 魔王だぁ!!」


 しかし、あと少しというところで、少年は魔王に襲撃されてしまいました。

 隙を見て逃げ出した登山家が、勇者の下へ駆け付けました。


「魔王が現れた! 助けてくれ!!」


 登山家は跪いて命乞いをしました。


「ジジイ! 早く治せ!!」


 勇者が叫びました。腰に痛みが走ります。


「魔力薬をくれぃ……」


 白魔道士の手が震えました。


「材料はまだですか!?」


 薬師がすり鉢を鳴らします。


「足が挟まって痛い!!」


 配達屋が動けない足をいたわりました。


「魔王を何とかして!!」


 罠師が叫びました。


「ジジイ! 腰!!」

「薬を……」

「材料」

「コレ外してぇ!!」

「魔王を!!」

「腰!!」

「薬」

「材料」

「罠を!!」

「魔王が!!」


 人々は逃げ惑い、もうどうにもなりませんでした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 昔のRPGってこんな風に、ミッションを達成するために他のミッションを達成する必要があるみたいなのが延々続きましたよねw
[一言]  これはもう、「おおきなかぶ」の要領で、みんなで力を合わせて勇者ごと聖剣を引っこ抜くしかないでしょう。 ギックリ腰治療なんか、あと、あと。 そのまま、魔王に向けて勇者ごと投げてしまえばいいの…
2022/10/29 20:05 退会済み
管理
[一言] ギックリ腰っていつなるかわからないですもんね。 昔、ヘイお待ち、とカウンターからお寿司を出そうとしたお寿司屋さんが、その瞬間にギックリ腰になっていました・・・。
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