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【完結】自由を取り戻した男娼王子は南溟の楽園で不義の騎士と邂逅する  作者: オリーゼ
過去回想 復讐の大地

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餓狼

マイルドですが強姦未遂等バイオレンスなシーンがあります。苦手な方はご注意ください。

 寒さによる犠牲者も出しながらも、ヴィルヘルム率いる一軍は山を越え、隣国の王都モンテベルグの後背、城の裏を見下ろせる場所へと辿り着き、苦労して共に山を越えた最新式の大砲を、城壁に向かって撃ち込んだ。

 隣国キシュケーレシュタインにとって、メルシアからの襲撃は完全なる不意打ちだった。

 元々二カ国の仲は悪い。フィリー山脈がなければすでにどちらかの国が滅びていたであろう程度には、常に緊迫した空気がその間には流れており、夏場には山を挟んで小競り合いが多発する。

 特にフィリーベルグの人間は、元々メルシアに恭順するかどうかで袂を分かった同族で、お互い憎悪に似た感情を持っていたからこの城攻めが凄惨なものになる下地はあった。

 新型の大砲は易々と城壁を破り、メルシア軍は城の中へと突入する。

 フィリーベルグを出発した時の訓練された騎士達は、雪中行軍による飢餓と疲労と寒さによる生命の危機による理性の摩耗と、歴史的に積み上がった憎悪によって、飢えた狼へと変貌していた。

 その状況で起こるのは虐殺に破壊、略奪、強姦だ。

 場が狂気に侵される中、自分でも呆れるほど冷静に、両手に余るほどの敵を屠っていた少年だったが、王族の私室と思われる区域で、屈強な男が自分とさして年の変わらぬ少女を組み敷いているのを見て頭に血が昇った。


「なにをしている!!」


「なにって、ナニさ。溜まってるんだ。お前も加わるか? 童貞だろ? 男になるといい」


「強姦は軍規違反だ! ましてや、子供を犯そうとするなんて、人間のやる事か?!」


「おいおい、どうせ殺すんだ。死ぬ前にイイ思いをさせてやろうっていう、優しさだろ」


「下衆め!」


 吐き捨てて、剣を振るう。下卑た光を帯びてニヤついていた顔が、自分の身に何が起こったのか分からないといった怪訝そうな表情を浮かべ、そして瞳孔の光を消した。


 浴びた血潮を腕で雑に拭うと、少年は少女に笑いかけた。


「大丈夫? 降伏してくれれば悪いようにはしない。王の部屋に案内してくれないか?」


 怯えた目の少女はそれに頷き、先導するように歩き始める。

 先陣を切っていたヴィルヘルムとベネディクト、それに近衛の側近と合流し、王の私室へと乱入する。


「ヨーゼフ・メッサーシュミットか?」


 ヴィルヘルムの問いに、最低限の身支度だけなんとか終わらせたといった様相の初老の男が頷いた。


「いかにも。貴様らは何者だ?」


「メルシア国王、ヴィルヘルム・ブリッツ・トレヴィラス。この国を貰い受けに来た。降伏するのならば、命の保証はしよう」


「海蛇に譲る国などない」


 海蛇とは盾を抱えた海龍を国旗に掲げるメルシアに使われる侮蔑だ。


「そう言ってもらえると思ったよ」


 薄らと笑ったヴィルヘルムは隣国の王を一刀の元に切り捨てる。

 

「お父様!!」


 先程助けた少女が悲鳴を上げて倒れた王にかけより、縋りついた。


「……よくも!!」


 少女は男の懐から短剣を取り出すと、それをヴィルヘルムに振りかざした。

 年端もいかない少女だと油断があり、ヴィルヘルムもベネディクトも近衛達も反応出来なかった。

 唯一その動きに反応できた少年は、二人の間に身体を滑り込ませて抜刀し、少女を斬り捨てる。


「……とう、さま……」


 瞳に涙を浮かべ、口元から血を吐き出して倒れる少女を見下ろした少年は首を傾げた。

 先程助けた少女を自ら屠った事に、哀悼も罪悪感も後悔もなにも感じない。

 ヴィルヘルムの部屋の前で歩哨を斬り殺した時と同じような心持ちだ。

 いや、この戦闘時も、敵と対峙する度にずっと似たような感覚があった。

 だが、それは戦いの中、あるいは殺す必要があると自分で納得できていたから、何も感じないと思っていた。

 だが、彼女は武人ではなく、単なる非力な少女だった。

 おそらくは殺さなくても対処できた。

 だが、自分は少女を斬り殺した。そして、何の呵責も感じていない。

 薄々勘づいていたが自分は技能だけではなく、心持ちすら人殺しの才能があったらしい。

 それを自覚して、少年は虚ろに嗤った。

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