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【完結】自由を取り戻した男娼王子は南溟の楽園で不義の騎士と邂逅する  作者: オリーゼ
過去回想 復讐の大地

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意思を継ぐ者

ここから81話まで過去回想になります。

登場人物

オディリア…エリアス(アレックス)の妻、メルシアは王妃が不在のため実質的に王妃と王太子妃の仕事をしている。

 

ヴィルヘルム…エリアスの弟、イリーナの夫、後の賢征王


ケイン…後のランス


ユリア…エリアスの娘


3/5 この話のタイトル変更しました。過去編が終わったので前書きに話数を掲載しました。82話が60話の時系列的な続きになります。



 非業の死を遂げた美貌の王子の遺骸は激しく損傷し、見るに堪えない状態で帰ってきた。元々病がちだった王は息子の変わり果てた姿を見て倒れ、寝ついてしまった。また、王太子である彼に付き従い同じ船に乗っていた貴族や貴族に縁のある者達も亡くなったせいで、宮廷は混乱した。

 エリアスは自分に何かあった時のために影響の少ない人間を選んで同行させていたが、それでも亡くなれば影響がないはずはなかった。


 そんな混乱の中、国の儀式としての葬儀を行う事も出来ず、エリアスの葬儀は家族だけでひっそりと行われた。


 鎮魂の鐘が鈍色の空を震わせて、全ての儀式が終わった。 

 神殿の奥深く、神官と王族しか入れない墓所に収められた大理石の棺。

 生前の美しい面影を模して彫られた棺の蓋に縋って、ユリアとケインは泣きじゃくっていた。


「義父上……どうして」


「早く帰ってきてって言ったけど、ちがうの……」


「俺があの時代わっていれば良かったんだ。すまない」


 ケインとユリアの肩を包み込むように抱いたヴィルヘルムが、俯いて唇を噛み締める。隠しきれない悔恨が、その低い声に滲んでいた。


「三人とも、顔をあげて背を伸ばしなさい。王家に連なる者がいつまでも嘆いてはなりません」


「義母上……」


「母様、でも!」


「リア! 俺はともかく二人はまだ子供だ。ケインは実の父も亡くしている。泣かせてやれよ!」


 オディリアは毅然と顔をあげて、いっそ冷たいと思うほどの表情でケイン達三人を見た。

 目の下には隠しきれない腫れと隈があるが、それでも義母は妃の威厳に溢れていた。


「もう一度言います。しっかりなさい。あの人は亡くなったのです。どれほど嘆いても帰っては来ません。私達はエリアスの意志を継いでこの国を護り、発展させていかなくはなりません」


 凛とした顔でそう言い切ったオディリアの顔が、ふ、と優しく、しかし悲しげにほころんだ。


「ユリア、貴方は姉になるのですよ。ここにあなたのお父様の忘れ形見が息づいています。ですから、恥じるような乱れを見せてはなりません。ヴィルもケインも良いですね。この子が大きくなった時に彼が望んだような、穏やかで皆が幸せに過ごせる国を見せてあげるのが遺された私達の使命です」


 まだ平らな下腹部を愛おしげに撫でたオディリアに、ヴィルヘルムが慌てて上着を掛ける。


「冷やしちゃいけない。これを着ていてくれ、リア」


「あら、大丈夫よ。でもありがとう。ヴィル。さあ、城に戻りましょう。仕事が山積みよ。陛下の容体も心配ですしね。イリーナ、待たせましたね。貴方にも王妃と王太子妃としての仕事を引き継がないといけないの。明日から、時間を開けておいてちょうだい」


 所在なさげに皆から少し離れたところで佇んでいたイリーナがドレスを少し持ち上げて頭を下げた。


「承知しました。オディリア様」


 神殿の出口に向かって踵を返したオディリアをエスコートしようとヴィルヘルムが動く。


「待って、リア」


「あなたのエスコート相手は私じゃないでしょう。ユリア、ケイン。帰りますよ」


 一人で歩く義母の背中が、いつもより大きく広く見える。

 ケインは義母の毅さに、涙に濡れた眼を擦って姿勢を正し、ユリアの手を取ってオディリアの背を追った。

お読みいただきありがとうございます。

基本水曜更新ですが、もう少し早く続きが書ければと思っています。

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