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【完結】自由を取り戻した男娼王子は南溟の楽園で不義の騎士と邂逅する  作者: オリーゼ
南溟の楽園

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再会

 廊下を抜けて片開きの扉を開けると正面玄関の広間があった。

 それを取り囲むように左右に階段が設けられて2階に上がれるようになっている。

 アレックス達が先ほど出てきた出入り口は階段の下に隠れるように配置されており、客の目につかないような配慮がされていた。

「正面の大扉の向こうがオークション会場、三階に競売人の部屋と貴賓室があるのは知っている。二階はおそらくオークション参加者の客室と、一階の会場を見下ろすテラス席があるはずだ。何人かのグループに分けて二階をしらみつぶしに探せ。俺は三階に行く」


 指示を飛ばしながら階段に足をかけると、ルークがアレックスを止めた。


「おーい、アレックス、一人で行くな。慎重なお前らしくない」


「そうだな……ディック、お前一緒に来い」


「りょーかい」


 ディックは腕っぷしはほどほどだが、機転が効く。

 アレックスは彼と二人で三階に行き、貴賓室と思しき部屋の前につき、チーク材で出来た一等豪華な扉を開けた。


「突然……え!! 貴方達はどなた? ここに何をしに来たの?!」


 朝に聞く雲雀の囀りのように優しげで明るい声、華奢でかわいらしい、少し幼く見える若々しい容貌。

 十年前と変わらぬ愛らしい見た目のまま、彼女はそこにいた。

 眩暈を覚えたのを扉の枠に手をかけて耐えて、アレックスとしての顔を作る。


「俺はアレックス。ランスに頼まれて、貴女を助けに来た」


 首を横に傾げた女は手を胸の前で組んでふわりと微笑んだ。


「まあ、ランスが…?! やっぱりランスは私の事を助けてくれるのね。ナザロフが酷いことを言ってきたけれど、あの人は分かっていなかった。ランスは私のことを無償の愛で包んでくれるのよ」


 いささか芝居かかった喜びをみせるイリーナにアレックスは少々戸惑いながら言った。


「そのナザロフが帰るまでにここを出よう。ランスとレジーナが待っている」


「良かった! あの子も無事だったのね!」


 まるで今レジーナの存在を思い出したかのようなイリーナの事が不快だったが、なるべくそれを出さないようにアレックスはイリーナに問うた。


「あまり時間がない。荷物はあるか?」


「あの! お願いがあるんです。レジーナとランスをここに連れてきてくれませんか?」


 だが、イリーナは荷物をまとめる様子もなく、アレックスにそう頼んできた。


「ここから出たくないのか? それとも俺のことを、疑ってる?」


 警戒心や恐怖を覚えられているわけではなさそうだが、ここを離れたくない理由があるのだろうか。

 甘い甘い人を惑わす声を作って尋ねながらアレックスはイリーナの目を覗き込む。だが、イリーナはそれに気を許すことも逆に警戒を抱くこともなかった。

 下手くそな釣りよりも手応えがなく、どうにも居心地が悪い。


「そんなことはありません。でも、リベルタにいるよりもノーザンバラに私とランスとレジーナで帰った方がいいと思うの。だから、ここに二人を連れてきてください」


「なんでそれが良いと思うんだ?」


 アレックスの問いにユリアは確信に満ちた顔で答えた。


「ランスとジーナを連れて行けば、お兄様の役に立てるから。家族の役に立つのは大切でしょ? 新大陸で暮らしてもいいけれど、ここで暮らしても家族の役には立たないから、ノーザンバラの方がいいわ」


「なんで、家族の役に立たないといけないのかな?」


「家族の役に立つと愛してもらえるのよ」


 背中を薄寒い何かかじっとりと貼りついた。

 そういえば出港前に別れを惜しんでいた時も似たような事を言っていた。


「ランスは無償の愛を与えてくれるんだろ? その(家族の)愛はいるのか?」


「多い方が、いいと思うの」


 答えは出したが確信を持って答えるに至らなかったらしい。

 難しい顔をしたイリーナとアレックスの間にディックが割って入った。


「とりあえずアレックスと一緒に来てもらって、ランスと話をして、納得したらここに戻って来たらどう? こんなとこいない方がいいって、美しいレディ」


 にこにこと満面の笑みを浮かべて、ディックが手を差し出す。

 その視線はイリーナの首のやや下を向いていて下心が透けて見えたので、アレックスはディックのつま先を踏みにじった。


「いたっ! ひでぇ!」


「鼻の下伸ばしやがって。ランスに言うぞ」


「あ……さーせん……」


 耳元で叱りつけると、ディックはしおしおと手を下ろして後ろに下がった。

 それに変わってアレックスは儀礼的に手を差し出す。


「いい落とし所じゃないか? ランスも早く会いたいと思っていると思うぞ」


 華奢な指先が自分のそれにそっと重ねられた瞬間、アレックスは得体の知れない恐ろしさに身震いした。

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