包囲
残酷なシーンが続いています。敵側回。ご注意の上よろしくおつきあいください。
話は数日前に遡る。
ドルフは血と汗にまみれた顔を袖で拭って媚びた顔で男の方を振り向いた。
「これでいいのか?」
後ろにはピンキーの死体がある。男に指示されるまま、その身体を刻んでやったのだが、ついに事切れたらしい。
「そうしたら、それをバラしてそこの箱に入れろ」
男はそう言って、何事かを便箋に書きつけて皮の袋にそれを入れて箱に投げ入れた。
「俺は合格か?」
「そうだな。残虐さはウチ向きだな。だが俺は仕事の遅い奴は嫌いだ。とっととそれを箱に詰めろ」
慌てて手を動かしながら、ドルフは会心の笑みを浮かべた。
まさかこれほど上手く取り入る事ができると思っていなかった。
奴隷島で情報を聞き、競売人の所に彼らがいると聞いてアレックスに目にもの見せるチャンスだと思ったのだ。
後ろから殴りつけ意識を失わせたピンキーを手土産にしたドルフは競売所に赴き、隻眼の海賊ナザロフにアレックスの事を売って、一味に入れて欲しいと頼んだ。
すでに本人に会っていたようだったから、アレックスへの不満を熱弁するとともに、アレックスが彼らのことを探っていると告げて、私掠船団の構成と隠し港のことをぶちまけ、駆け落ち相手を取り戻したがっている男がアレックスの保護下にいることまで話してやった。
「ナザロフが教える、最も苦痛の長引く方法で仲間を刻み殺したら入れる」という条件を悦んで受け入れ、バラした死体を箱詰めにしたのが今だ。
「この箱はどうすんだ?」
「これは姫サマにプレゼントだ」
「アイツのお綺麗な顔が引き攣るのを見れないのは残念だな。だが、なんで送るんだ? ビビらせるのが目的か?」
ドルフの問いにナザロフはにやにやといやらしい笑みを浮かべた。顔立ちが整っていないわけではない逞しい体躯の威厳のある中年の男なのだが、どこか下卑た印象になるのは為人が滲み出ているのだろう。
「いいや。団員が死にゃあ葬式をすんだろ? そうすればどこかに目障りな私掠船団員とやらが集まるわけだ」
「なるほど、隠し港に集まったところを襲うんだな!」
閃いて答えると男は鼻を鳴らした。
「違うな。手薄になった娼館を襲って女達を拉致し、売り払う。もちろん部下たちをたっぷり楽しませた後でな」
「なんでそんなまだるっこしい真似を」
「決まってる、姫サマを絶望の淵からさらに叩き落とすんだよ。女衒ってのは寄生虫だ。宿主がいなくなりゃ生きてけねえだろ。娼館を根こそぎ奪って燃やして、帰る場所をなくす。少しづつ自由な手足をもいで心を折って、アッチの具合しか能のない穴だったって思い出させてやらねぇとな」
じっとりとした執着を見せた男にドルフは追随する。
「なるほど……。なら、海亀島ごと火をつけて略奪して回ればいい。あそこの島はほとんどあの野郎の息がかかってる。あと総督はアレックスの情夫だ。潰してやれば後ろ盾が消える」
「良い話を聞いた。だが、まずは根城にしてる建物から様子見だ。お前が行ってこい。好きにしていいが、女は連れて来い」
そう言って貸し出されたのは50人ほどの手勢だ。半分は彼の船の船員、もう半分は競売人の手下らしい。
競売人の手持ちの小型船を使ってドルフ達は海亀島に上陸した。
私掠船団に遭遇したら厄介だと警戒したが、全く遭遇せず、幸先良いと喜びながら夜陰に乗じて手勢を分けて、ラトゥーチェフロレンスのほど近くに隠れて一晩を過ごした。
そして翌日、黒衣を身につけたアレックスとランスが共に出ていくのを確認して、ドルフは意気揚々と娼館を取り囲んだ。
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