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【完結】自由を取り戻した男娼王子は南溟の楽園で不義の騎士と邂逅する  作者: オリーゼ
南溟の楽園

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一緒にいたい

本日2話目の投稿になります。一話前もご覧ください。

「ウィステリア、あの子達のこと……」


 港から娼館に帰ってきたこちらの姿を認めるなり声をかけてきたデイジーに、アレックスは足を止め人差し指を唇に当てて口を止めてから近づいた。すでに昼過ぎだ。起き出した娼婦や帰る客、娼婦に呼び出されて昼飯を奢る客が何人かサロンでの食事を楽しんでおり、あちこちに人の耳目がある。


「小声で話せ」


「ここに閉じ込めとくの、かわいそうじゃない? ちっちゃい子なんだ」


「外に出すわけにもいかないだろ」


歓楽街の真っ只中、ここで生まれた子供ですら、一人で小間使いできる年まで島外に出される事が多い。


「昼間に厨房とか、花達の部屋とか遊びに行かせてあげたらどうだい?」


「客がいないわけじゃないだろ」


「さすがに過保護じゃない? だいたいそこまで大事なら小さい子をここに置くのは間違ってるよ」


「それはそうだが……」


正論にたじろぐ様を見せると、デイジーは続けた。


「考えたんだけど。あの子達、本当に海で拾ったわけじゃないよね。あんたとピオニーの娘だろ?」


「なんでそうなるんだ。お前の頭ん中をのぞいてみたいよ」


 アレックスはその誤解に額を抑えた。

 ピオニーはここに売られたばかりの頃、親切にしてくれた人気の先輩娼婦で、レジーナと同じ色の瞳をしていたのは確かだ。

 そして自由になってから、彼女を身請けしたのも事実。

 ただそれは彼女と色めいた関係だったわけではなく、最も辛い時期を支えてくれた恩を返すためと、ピオニーがこの娼館の要だと知っていたからだ。

 ラトゥーチェフロレンスを娼館のオーナーから奪い取るための布石だった。

 身請け後に彼女はメルシアに渡り、アレックスの出資で首都で娼館を経営しているが、距離もあって現在は定期的に首都の流行を知らせてもらう程度の付き合いしかない。

 だが身請けをし、金を出してやり、手紙のやりとりをする自分達の姿は、デイジーの目には違う風に映っていたようだ。

 さらに強く否定しようとしたアレックスだが、ある思いがちらついて、唇を引き結んで口をつぐんだ。

 自由になってから蜘蛛の糸を張り巡らせるように、海賊諸島を掌握してきた。自分の血縁ともなれば無関係の人間を拾ったとするよりは多少の安全を担保出来るのではないか、と自分の中で整合性をつけてデイジーに言う。


「……確かに血は繋がってる」


 血縁がある事実は示したくて、だからと言って実の娘だと嘘をつくのは躊躇われて、奥歯に物の詰まった物言いをすると、デイジーは勝手に解釈したらしい。大きく何度も頷いてみせた。


「確かにおおっぴらに言うことでもないわよね。あ、あとあの色男はマーティンの子供かい? マーティンよりずいぶん男前だけど目が似ている」


 デイジーは元々すこしそそっかしくて思い込みが激しい部分がある。マーティンが聞いたら唖然としそうな誤解を口にして勝手に納得するかのように頷いた。


「そういう事にしといてくれ。それとジーナは男ってことにしておいて欲しい」

 

 これ以上なにをいってもどんどん斜め上に言ってしまいそうだし、確かにマーティンや自分の血縁としておけば不自然さは減る。ついでに頼むと女は眉間に皺を寄せた。


「性別関係なくあんなに可愛かったら危ないと思うけどね。特にこんな掃き溜めじゃ」


「そうなんだが、気休め程度にはなるだろうさ」


「本島のお屋敷に連れてくわけにはいかないの?」


 総督に贈られたまま使っていない邸宅が確かにあり、そこなら安全は担保される。いや、それこそ総督宅に預ける方法もある。

 だが、アレックスは首を縦に振れなかった。

 目の届く場所でないと安全が担保できないから、総督に彼らの正体を気取られるわけにはいかないから、ランスは海賊討伐の役に立つからなどと、色々言い訳を考えて、首を振って吐き出した。


「……一緒にいたいんだ」


そう、自分は、すべて失くしたと思っていた温もりに似た物を手元から放したくないだけなのだ。




 部屋に戻るとレジーナはまだ眠っていたが、ランスはすでに目を覚ましていたので、港でのあらましを説明した。


「というわけで、条件付きだが船には乗せてやれる事になった」


 顔を明るく輝かせて礼を言ってくるランスにアレックスは首を振る。


「こっちも戦力が必要だからな。ジーナ……いや、ジーノはどうする?」


 あえて男の名をつけて、外ではそれで呼ぶようにランスにも確認する。


「連れていくしかないと思っているが」


「正直なところ俺もどっちがましか計りかねている。船の人間は荒っぽいし、戦いに巻き込まれれば絶対はない。砲弾からは守れないんだ。だがここは人の出入りが多い……」


 不意に思いついて、アレックスは立ち上がった。


「とりあえずジーノは置いてくぞ。安全を担保出来る方法を見つけた。デイジー、ジーノの風呂の面倒を見てもらってたカウンターの女だがわかるか? あいつにお前はマーティン、ジーノは俺と血縁だと思わせてある。言っていいと匂わせてあるからじきに広がるだろう。この島の奴で俺に近い人間に手を出すバカはいない」


「娼館は不特定多数が出入りする。この島に詳しくない者もいるだろう」


「それだよ。ここに不特定多数が出入りしないようにすりゃあ解決なんだ。娼婦達の生活もあるから完全に休むわけにもいかないが、客を絞ることは出来る。しばらくの間こちらが招待状を送った客以外は別の店に誘導する」


「商売の方はそれで平気なのか? ありがたいが、あんたにそこまでする義理はない」


「また剣を向けられたらたまらないからな。それに一部を特別扱いするとな、された奴もされなかった奴も財布の紐が緩むんだ。あと誘導する店も俺の持ち物だ。まったく問題ない」


 書棚から顧客のリストを取り出したアレックスはにんまりと笑った。

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