side イケジジ二人の飲み会3-1〜リースト伯爵家長男夫婦語り
「てなことがあったようです」
厨房で蒸し上げて貰ったルアーロブスターにバリムシャア……とかぶりついて一息ついたところで、メガエリスがそう報告した。
生きている間は真っ青だったルアーロブスターも、加熱したら甲羅は真っ赤になった。
大味かと思いきや、弾力ある身の濃厚な旨味ときたら。
ワイン、キリッと冷えたワインの白が進む!
「それで、息子たちの仲は修復できそうなのか?」
「別に今でも仲が悪いわけではないのです。ルシウスは兄を好き好きと慕っておりますし、その兄カイルも弟の面倒を見ておりますから。ただ」
いつもの髭のイケジジ飲み仲間、先王ヴァシレウスとのロブスター食らうよの会である。
ルアーロブスターの分厚い殻を力任せに割って身から引き剥がしながら、麗しの髭ジジは憂いを帯びた表情になった。
「我ら魔法剣士の一族にとって、聖剣を生み出せるルシウスは希望の星。ですがそれが自分の弟となると……」
メガエリスにとっては自分の息子が聖剣持ちでも、ただ誇らしいだけだった。
だが兄カイルは、それが年の離れた弟だった。
そうして密かに劣等感を抱えていたところに、あの母方の叔父が余計な不和の種を撒きに来たのだから、メガエリスはハラワタが煮えくり返っている。
今回、お嫁さんブリジットが機転をきかせて王都本邸に出入り禁止にできたことは実に喜ばしい。
それに、あの兄弟の兄カイル側が一方的にギクシャクし始めたきっかけのとき、メガエリスもその場にいた。
ルシウスが8歳、兄カイルが15歳のときだ。自宅の練兵場で家族で魔法剣を創る訓練をしていたことがあった。
血筋の中に金剛石ダイヤモンドの魔法剣を伝えて来ているリースト伯爵家の者でありながら、ルシウスは物心ついてもなかなか魔法剣を出すことができなかった。
ようやく作れるようになった、そのたった一本が聖剣だったことから、メガエリスは腰を抜かしそうになったものだ。
だが、しかし。
「『聖剣ってすごいの? 一本だけなんてショボすぎる!』と不満そうだったルシウスを見る、兄カイルの顔が私はいまだに忘れられませぬ」
「まあ、魔法剣を何十何百と持っていたとて、聖剣には敵わぬものな」
メガエリスは8本。その長男カイルは49本の魔法剣を出せる。
魔法剣士の力量は創り出せる魔法剣の数に比例する。魔法剣は魔力の塊で、魔法剣の本数が多いとはイコール魔力量が多いことのためだ。
間違いなく兄カイルはリースト伯爵家が誇る天才だった。
だが、その弟ルシウスは本人曰く『ショボい一本』の聖剣で、49本もの魔法剣を生み出せる天才の兄を軽々凌駕してしまった。
以来、兄カイルは弟に対して複雑な思いを抱き続けているようだった。