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家出少年ルシウスNEXT  作者: 真義あさひ
ルシウス君、冒険者になる
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side イケジジ二人の飲み会2〜亡き王女様の話

「というわけで、吸血オクトパスを献上に参りました!」

「……ううむ、見事なタコの脚!」


 二度あることは三度ある。

 リースト伯爵家宛に次男ルシウスから送られてきた巨大タコの脚を持って、また王宮にやって来たメガエリスだった。


 最初は長男カイルと嫁に食わせようと思ったのだが、カイルがタコの吸盤を気味悪がって嫌がったため、処分先を変えた次第。


 脚一本から再生する類の魔物ではなかったので、今回は直接王宮へと持ってきた。

 さっそく晩餐にと思ったのだが、王宮の料理人たちは誰も生きた吸血オクトパスを捌いたことがなかったので、仕方なくメガエリス本人が中庭で処理することに。


「魔法樹脂、解除」


 透明な魔法樹脂を解くと、丸太のような太いタコの脚がびったんびったんと跳ね回る。


「こいつはどうすれば良い? とりあえずぶっ叩くか?」


 とヴァシレウスが例の何ちゃってバックラーを作ろうとすると。


「ヴァシレウス様、塩揉みして滑りを取ってからでないと、叩こうとしてもすべりますよー」


 漁港のある領地持ちのホーライル侯爵カイムが、またメガエリスが変なもの持ち込んだと聞いてやって来た。

 彼はルシウスをゼクセリア共和国ココ村の冒険者ギルドに護送した赤茶の髪の騎士だ。

 現役の侯爵様なのだが、まだ二十代前半の若造なので騎士団のありとあらゆる業務を何でも屋的に担当させられている。


 魔物の脚だけあって、吸血オクトパスの脚はいつまで経ってもびったんびったん蠢いては、中庭の見物客たちを巻き込んでいた。


 仕方ないので、根本と先の方をメガエリスが魔法剣で地面にぶっ刺して留め、中間部を騎士たちが剣で脚が動かなくなるまで刺しまくった。

 後はそのまま塩揉みして、ついでだからその場で騎士団内のハンマー使いを呼んできて、ひたすら叩きまくって組織を柔らかく破壊していった。

 タコは全身が筋肉なので、そのまま調理すると硬くて食えないのだ。何でもいいから叩いて組織を壊してから調理する必要がある。

 その後は軽く茹でて料理に使うわけだが、大木の丸太のような脚をそのまま茹でられる釜はさすがにない。

 適当にカットしてから厨房で茹でるということで、お開きである。




「そんで結局どうなったのです? タイアド王国とは」


 いつものヴァシレウスのプライベートルームで、さっそく運ばれてきたタコのカルパッチョのようなものを摘まみながらメガエリスが訊いた。

 吸血オクトパスの脚は太すぎて、スライスされるとよくわからない白いビロビロした代物になってしまった。

 味はわりといける。ちょっと大味だがタコの旨味充分だ。


「どうもこうも。私のひ孫娘が王太子に婚約破棄されたのは本当らしい」

「彼の国はとことん我が国の神経を逆撫でしてくれますなあ」


 タイアド王国は、ここアケロニア王国と同じ円環大陸の北西部にある大国だ。

 一応同盟国だが、ヴァシレウスの娘の王女が嫁いだ先で無下に扱われたせいで早死にしてしまい、以来かなり険悪な関係になっている。


「私の人生で、タイアド王国にはこれまで三度、苦渋を舐めさせられている。今回の件で四度目だ」

「……ヴァシレウス様は我慢強すぎる。我ら臣下一同、ご命令さえいただければいつでも彼の国に攻め入りましたものを」


 早死にした王女クラウディアは、メガエリスにとっては年の離れた妹のような存在だった。

 ちょうど、若かりし頃のメガエリスが学園を卒業し魔道騎士団に入団したての頃からの付き合いだ。


 今も、目を閉じればありありと、アケロニア王族特有の黒髪黒目の、まだいとけない少女だった王女殿下の愛らしい姿が浮かぶ。


「甘えん坊で、食いしん坊で、……思いやりのある優しい方でしたな……」

「13で嫁入りさせたのは早すぎた。いくら同盟のためとはいえ……」


 まさか二十代の早いうちに亡くなるとは思いもしなかった。




 よく冷えたラガービールとともにやってきたタコの唐揚げにキュッとレモンを絞って、ヴァシレウスは端正な顔立ちを歪めた。


「戦争となれば、死んだあの子が悲しむ。だからと思って耐えてきたが……」

「両国の関係改善のために嫁いだ方でしたからね。嫁ぎ先のタイアド王家で粗末な扱いを受けていたことを、亡くなるまで故国の我らに隠し通しておられた」


 ピックで刺したタコの唐揚げを、もきゅっとイケジジ二人、噛み締めた。美味い。


 数十年前、クラウディア王女の訃報はまさに寝耳に水だった。

 慌てて当時まだ存命だった母親の正妃とともにタイアド王国に飛ぶと、王女はとっくに荼毘に付されて埋葬されていた。

 王族が火葬など有り得ないと不審に思い、死に至るまでの経緯を調査して初めて、ヴァシレウスは娘がタイアド王国で受けていた過酷な待遇を知ることになる。

 亡骸は痩せ衰えていて、父母のヴァシレウスたちに見せられない有様だったという。

 それで慌てて王家が手を回して荼毘に付させたと。


 同盟のための政略結婚で、当時はそれがどうしても必要な状況だった。

 しかし結果を見れば、ヴァシレウスは愛娘を失い、同盟は結ばれたままでも、両国の関係は険悪の度を年々増していく。




「私も今年で79だ。いつまで先があるかわからぬと思っていたが、……生きているうちにタイアド王国を潰したいものだな」

「あれから何十年が経ちましたか。国内の準備は着々と進んでおりますぞ」


 王都だけでなく、貴族たちの主だった領地には各家ごとの騎士団や兵団を設立させている。


 また、国内の成人貴族や、平民でも有能な者はすべて国の軍属として、男女の区別なく学生の頃から軍事訓練を行わせるようになった。

 魔力がある者は魔法使いや魔術師として。

 なくとも、最低でも護身術や剣や槍など武器の扱いを必ず覚えさせた。

 特に優秀な者は王都の各騎士団に配属して、将校の指導もしている。


 すべて、ヴァシレウスの娘、クラウディア王女が早逝した後からの国策だった。

 アケロニア王国はいつでも戦争を始めて、勝てる状態を作っている。



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