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家出少年ルシウスNEXT  作者: 真義あさひ
ルシウス君、称号ゲット!からのおうちに帰るまで
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料理人のオヤジさんが本気すぎる〜カニカニフェス

 海老のときといい、最近、料理人のオヤジさんの腕がキレッキレである。


「カニが来るのは久し振りだねえ」


 カニバサミを手入れしながら、とても良い笑顔だった。


 舞踏(ダンサーズ)クラブは、カニが魔物化したモンスターだ。

 今回、食用にできたもののうち、脚部が長く太くて身の食べ応えのあるものはタラバ系のカニ。

 脚が細いが味噌も含めて味の良いズワイ系やワタリガニ系のカニ。主にこの3種類だった。


 食べやすいタラバガニは、蒸して脚に切れ込みを入れて、前菜代わりにカニ酢や、各自お好みのソースで。


「わあ、すごい」


 関節をパキッと折って、慎重に引っ張ると、ちょっと赤みがかった柔らかい繊維質な白い身がでろーんときれいに取り出せる。


 まずはそのままで蒸し立ての熱々を一口。


 おいしい。すごくおいしい。

 もう口の中でいっぱいにカニがダンスを踊っているかのよう。


 しばし、無言で一同、カニをもぐもぐするのだった。


 殻の内側に残ってしまった身をカニナイフでこそげ落とすのに集中することもあって、カニを食すときは無言になりがちなのだ。




 他、甲羅の身をオヤジさんが丁寧に解して、味噌と合わせたものは酒飲みたちの肴だ。


 あるいは、カニの身に玉ねぎやハーブを加えて円盤形にまとめ、パン粉の衣を付けて揚げたカニカツなども。

 そのままでも、レモンをキュッと絞っても、そしてウスターソースなどをかけてもいける。


 揚げたてのカツにナイフを入れると、ザクッと衣のたてる音からしてもう堪らない。


「明日のランチはこのカニでクリームコロッケにしようかね」

「わああ……」


 カニ肉たっぷり、濃厚なホワイトソースでオヤジさんが作るのだ。間違いないやつだ。


 もうルシウスなどは今から期待に涎を垂らさんばかりである。




 そして今回、主食は選べる2種を用意してくれていた。


 カニのトマトソースパスタと、カニ入りオムライスである。


 一同、その究極の選択に唸った。


「ど、どっちも絶対に間違いないやつ……!」


 だってオヤジさんが腕を振るう料理だもの。

 間違いだらけの飯マズ男とは訳が違う。


 そしてこういうとき、絶対に間違いない選択というものがある。


「両方注文します!」


 キリッとした顔で真っ先に注文したルシウスに、場が沸いた。それな! 間違いない!




「やっぱり、おいしいものでひとはなける」


 ほろほろと麗しの顔に涙を流しながらルシウスが呟いた。


 甘味たっぷりの真夏の熟れたトマトで作ったカニのトマトクリームパスタ。


 ふわとろ系の半熟オムライスは、中のカニピラフにもカニ肉たっぷり。

 そう、普通のオムライムなら中身はケチャップライスだが、オヤジさんはカニピラフで攻めてきた。こわい。オヤジさんの本気がこわい。

 上にかけられたフレッシュトマトのソースまでカニ入り。


 カニはカニというだけで美味しい。

 そこに、生で食べても美味しい真夏の日差しで完熟したトマトをソースにしてたっぷり合わせ工夫されたパスタとオムライスは、まさに夏の芸術だった。


「トマトばっかじゃんとか思ったけど、すまん。マジ美味いわこれ」


 ギルマスのカラドンも大絶賛だった。


 最近の料理人のオヤジさんは本気だ。

 特に、あの飯マズ料理人のシフト日から数日は本気で食堂の利用者たちを仕留めにかかっている気がする。


「彼、飯ウマの人か! これは驚いた、こんなところで出会えるなんて」

「すごいわ、とても美味しい。ここ百年ほどで一番美味しいかも」


 伝説級のふたりもご満悦だった。


 これはもう、決まりだ。


「おうちに送らなきゃ。オヤジさん、大量注文お願いします!」


 使命感に駆られていつもの注文を入れるルシウス。


「カニの殻剥きを手伝ってくれるかい?」


 とオヤジさんはズワイガニの細い脚を持って示した。

 これが手間のかかるやつなのだ。


「はい、喜んでー!」


「あ、私も手伝うわ。この料理ならアイテムボックスにストックしておきたいもの」

「え」


 まさかの聖女ロータスが助っ人に手を挙げてきた。


「ロータスさん、目が見えないのに大丈夫?」


 カニ退治や、今も食事に不自由している様子はないものの。


「視力がないだけで、知覚は発達してるの。こう見えて案外、器用なのよ」

「そっかあ」


 そうして、ココ村支部とルシウスの故郷のアケロニア王国を結ぶ飛竜便が来るまでに、せっせとカニの殻剥きをすることになるのだった。




「随分たくさん作るねえ。おうちって大家族?」

「いえ、実家は父と兄夫婦と使用人たちだけです。兄のお嫁様がご懐妊で、栄養のある美味しいもの送ってあげたくて」


 そう、ついに先日、おうちのパパからお兄ちゃんのお嫁さんが赤ちゃんできたよのお知らせが来たのだ。

 出産予定日は来年の初夏辺りだそうな。


 夕食後、厨房を覗けるカウンター席に座って、魔術師のフリーダヤがカニを剥き剥きするルシウスとロータスを見物している。


 今晩はカニだけ剥いておいて、調理は明日、オヤジさんが再び厨房に入ってからお願いすることになる。


「それにしては数多すぎない?」

「王宮の王女様もご懐妊なんですって。前に海老ピラフを送ったらつわりの最中でも食べられたから、そっち用にも送れって」

「君はアケロニア王国の貴族なんだって? 王女様ってヴァシレウスの娘か」

「お孫様ですよ。ヴァシレウス様を知ってるんですか?」

「まあ古い付き合いでね。アケロニア王家とは800年」

「わお。案外世の中狭いですねー」


 そんな話をしながら、剥き剥き剥き剥き……。


 厨房に残っていたすべてのズワイガニの脚肉を、ひたすら剥いていく。

 最初に、茹でた脚を縦にオヤジさんが包丁で切ってくれているので、あとはカニナイフで中の身をこそげ取っていくだけの簡単なおしごと。


 ちなみに剥いた後の殻はオヤジさんが煮込んで、明日のスープになるらしい。



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