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家出少年ルシウスNEXT  作者: 真義あさひ
ルシウス君、覚醒編
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ココ村支部で一番美味しかったもの(海老ピラフ味付け卵のせ)

 ここしばらく、襲来するお魚さんモンスターの中には、(ファイア)シュリンプが混ざっていることが多かった。


 ポイズンオイスターと同じで、通常サイズの海老が何らかの魔力が原因で集合合体して魔物化したものだ。

 火の魔法を放つ魔物で、それなりに強い。

 倒した後、魔石に変えなければ本来の小型の海老に戻る。大量の。




 というわけで、(ファイア)シュリンプがやってきた日は海老祭りである。


 お酒を飲む大人たちはビールやワイン片手に、料理人のオヤジさんが茹でて尻尾以外の殻を剥いてくれたカクテルシュリンプを肴にしていた。

 たくさん添えられたレモンをキュッと絞って、そのままでも、塩やお好みのソースなどでも、それぞれ自由にいただく。


「坊主、チリソースで腹壊しちまったんだって? 連中が食ってるシュリンプカクテルのソースもチリソースだから気をつけてな」


 とオヤジさんが別添えでルシウス用に手作りマヨネーズとケチャップ、ワインビネガーを混ぜたシンプルなカクテルソースを渡してくれた。

 使っているマヨネーズは卵黄だけで作った濃厚なやつだ。野菜スティックに絡めてもいける。


 他にはコンソメスープで海老のゼリー寄せ、シュリンプケーキなど。

 シュリンプケーキはフィッシュケーキの一種で、玉ねぎなどの野菜のみじん切りと、これも細かく刻んだ海老の剥き身を混ぜてフライパンで焼き上げた、いわばハンバーグのシーフード版のような料理である。

 卵を繋ぎに使うこともあるが、オヤジさんは卵抜きで海老の身の粘りを上手く利用したものを作ってくれる。

 海老たくさんで美味しいのだ。

 これはそのままでも、あるいは塩だけでシンプルに食べてもいいし、焼きたて熱々のところにケチャップで食べると本当に絶品である。




 そしてオヤジさん渾身の海老ピラフきた。


「……茹で卵がのってる?」


 丸皿に盛られた海老ピラフは、玉ねぎやニンジンのみじん切り、パプリカなどと一緒に米を炒めて炊き上げた本格派だ。

 くるっと加熱されて丸まった海老が可愛くあちこちで自己主張している。

 仕上げの生パセリのみじん切りの緑が鮮やかだ。


 そのピラフの上、ど真ん中にどーんと茹で卵が一個、殻を剥かれたものがそのまま乗っていた。


「目玉焼きやオムレツにしてもいいんだけど、たまには違うものもいいかと思ってさ」

「そうなの?」


 まずは海老をのっけてピラフを一口。

 バターのきいた、海鮮だしで炊き上げたお米は、もうそれだけで美味しい。

 頬っぺたが落ちそう。実際には頬が薔薇色に紅潮しただけだったけれども。


 次にナイフとフォークで茹で卵を切り分けようとしたら、中からとろお〜と半熟の黄身が溢れてきた。


「あれ?」

「それそれ、半熟の黄身と一緒にピラフを食ってみな?」


 すぐスプーンに持ち換えて、オヤジさんに言われるままに茹で卵の半熟の黄身をピラフに絡めて口に運んだ。


「!!?」


 茹で卵はただの茹で卵じゃなかった。

 オヤジさんが良く使う、醤油、みりんなどの調味液に漬け込まれた味付け卵だった。

 それが中の半熟の黄身まで染み染み。

 別々に食べても美味しいものなのに、炊き立てのピラフとあえて合わせるこのセンス。


 だばー、とルシウスの大きな湖面の水色の瞳から滝のような涙が溢れていく。


「おいしいものをたべるとひとはなける」


 それだけ言って語彙を消失したルシウスと、先にピラフを食べ始めていた面々と泣きながら米粒ひとつ残さず海老ピラフを食べきった。




「お代わりお願いします! あとこのピラフと味の付いた茹で卵、おうちに送りたいのでたくさん注文したいです!」


 美味に泣かされた目元を拭い、キリッと顔を引き締めてルシウスはオヤジさんと対峙した。


「こんなに美味しいもの、兄さんたちにも食べてもらわなきゃ!」


 これは絶対、大事な人たちに食べさせてあげたいやつだ。


 ついでだから、王族の皆さんにも送ろう。

 あの人たちは王族だけあって美味に慣れているが、それは伯爵令息のルシウスだって同じだ。

 そのルシウスが感動したのだから、彼らだって喜んでくれるはず!


「たくさんって、どのくらいだい?」

「おうちと王宮への献上用に、ピラフは炊飯器一台分ずつ。味付き卵はうーんと……100個ずつくらい?」

「茹で卵の殻剥きを手伝ってくれるなら引き受けるよ。数が多いと大変なんだ」

「喜んでー!」




 そんなわけで、次にルシウスの故郷アケロニア王国から飛竜便が来るスケジュールに合わせて、大量の海老ピラフと味付け卵を作ることになるのである。


 魔導具の炊飯器は一台で最大、米を五キロまで炊ける。それを二台分。

 炊き上がったピラフはルシウスが魔法樹脂で作った容器に五人前ぐらいずつ分けて封入した。

 分けておけば、少しずつ現地で解凍もとい解術して食べてくれるはず。


 そして卵はといえば。

 他の皆も味付け卵をもっと食べたいと言い出したので、ざっと300個ほど茹で卵を剥き剥きすることになった。


 中身が半熟の茹で卵を大量に茹でて、さあ殻剥きだ。


「坊主なら俺より上手くできるんじゃないか? ほら、卵本体と殻と、薄皮の間に魔力を通して……」


 オヤジさんが見本を見せてくれる。

 すると、衣服を脱ぐように茹で卵からするするっと殻が剥けていく。


「わあ、たのしい!」

「ふつうは新鮮な卵だと、殻が引っ付いて剥きにくいんだけどね。この手法が開発されてからは随分楽になったよ」


 なお、この殻剥き技術が使えるのは、魔力持ちの料理人限定である。


 剥いた茹で卵は、醤油やみりんを合わせた調味液に漬け込んで冷蔵庫へ。

 何分大量なので持ち運ぶのも大変だ。

 あとは半日寝かせて味を染み込ませれば良い。




 そして本命の海老ピラフ。


 こちらも、料理自体はとてもシンプルだ。


 玉ねぎやニンジン、パプリカなどをみじん切りにして先に油で炒めておく。

 火が通って玉ねぎが透き通ってきたら、バターを足して米を炒め、全体を馴染ませたら炊飯器へ。

 殻を剥いて下処理した海老、冷ましておいた海老の殻や香味野菜の端切れでだしを取ったスープ、塩と胡椒少々を加えて魔導具の炊飯器のスイッチオン。




 炊き上がるまでの間に、ルシウスは厨房でせっせと出来上がった料理を封入するための魔法樹脂の容器を作っていた。


 味付け卵用には長方形のバット型の容器を20個ぐらいずつ調味液ごと入るサイズで。


 ピラフ用には、五人前ずつ詰められる、これも深い長方形のバット型で。解凍した後はそのまま食卓に置いて取り分けられるように。


 料理を入れたら蓋をする代わりに、そのまま容器を個別に魔法樹脂でブロックに封入して、あとは積み重ねて飛竜便のコンテナに詰めていけば良い。

 重量が重くなり過ぎないよう、できるだけ魔法樹脂のブロック部分の体積を減らして成形するのがコツだ。


「皆、喜んでくれるといいなあ」


 今から、家族たちのお返事が楽しみなルシウスだ。

 もちろん、今日はこの後、自分もお手紙をたっぷり書き連ねるつもりでいる。


 そんなニコニコしながら準備しているルシウスを、料理人のオヤジさんは横目に見て微笑みながら調理を進めていくのだった。



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