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家出少年ルシウスNEXT  作者: 真義あさひ
ルシウス君、覚醒編
100/156

単純がおいしいウインドウトースト

 飯マズ料理人が厨房に入らなかった日から一週間は、ギルドの面々の調子が良かった。


「あのクソ不味い飯ってさ、ストレスだったんだなー」

「わかる。あの突き抜けるような不毛な味わい。食後はしばらく自我が吹っ飛ぶもんな……」


 などと冒険者の男二人が食堂で駄弁っている早朝。

 いつもの料理人のオヤジさんは朝の7時から出勤なので、美味しい朝食が食べられるまではまだ時間がある。

 仕方ないからと、冒険者たちはまた補充されるようになったワンコインの惣菜パンや菓子パンなどを齧って、オヤジさんが来るまでの時間を潰していた。


「おはようございます! あっパン! 僕も食べる!」


 今日も朝から元気いっぱいのルシウス少年だ。

 壁際の専用コーナーに直行して、分厚めの食パン一枚をチョイスした。

 バターやジャムは不要。

 そのまま食パンを持って厨房へ。


 何だ何だと冒険者たちが付いていくと、まな板の上で食パンの中を四角く切り抜いていた。

 フライパンにオリーブオイル少々を垂らして加熱し、食パンの枠を投入。

 真ん中に四角く空けたところに、卵を一個イン。

 その上から切り抜いた四角部分のパンをそーっと乗せて穴を塞いで、フライパンに蓋をした。

 あとは弱火でじっくりと。

 その後、食パンをフライ返しで引っ繰り返すと、パンにも卵にも良い感じの焼き色がついている。

 裏面も同じように焼いたらお皿に移して、ほそーくマヨネーズを格子状にかけて、お塩少々ぱらり、黒胡椒をミルでガリゴリ削って出来上がり。


「美味しそうにできました!」


 満足げにルシウスが頷いている。

 窓開きトースト(ウインドウトースト)

 つまりトーストの中で目玉焼きを焼いたやつだ。


「美味そおおお! ルシウス、俺も、俺たちもそれ食いたい! 作ってくれ!」

「いいけど、もうそろそろオヤジさん来ると思うよ?」

「「今はそれが食いたい!」」

「そっか〜」


 幸いフライパンは大きめのものがあるので、一気に複数枚を焼ける。

 男たちに新しい食パンを持ってきてもらって、一人一枚ずつ同じ手順でウインドウトーストを作っていった。


 男たちの分は、大人だからちょっとだけ黒胡椒を多めに。


 数分後、それぞれウインドウトーストの載ったお皿を持ってテーブルへと移動した。




「うま……朝からいいもん食えたわ……」

「さくふわとろお……幸せがこの一枚に詰まってら……」


 オリーブオイルで焼いたパンの耳の部分がさくっ。

 フライパンで焼いたパンの中はふわっ。

 窓の部分の目玉焼きの黄身は絶妙な半熟。

 マヨネーズと塩胡椒が、とろっとした黄身と絡んでとても美味しい。


 ルシウスが飯ウマオプション持ちの調理スキル保持者とは聞いていたが、まさかこんな単純な料理がここまで美味いとは。


「食パンと卵とマヨネーズ塩胡椒だけじゃん……これが……飯ウマの力……」

「オリーブオイルで焼くのがコツなんだよ。バター使うと焦げちゃうからね」


 男たちは正直ルシウスを舐めていた。ごめんなさい。




「これ、僕の父様の得意料理なんだよ。独身のとき、騎士団の寮で作ってよく食べてたんだって」


 簡単だし、厚切りの食パンで作れば腹に溜まるから一枚でも満足感がある。

 材料もシンプルで安い。

 使うのは包丁やナイフ、フライパンだけ。

 数分で作れる。

 朝食には最適の簡単メニューだ。


「こんなん、ささっと作れちまうのか、ルシウスのパパさん」

「意識高い系過ぎだろ……」

「話聞いてるだけでモテ男のオーラ漂ってくるな……」


 そのモテオーラにあやかろう、と男たちが神妙そうな顔つきでウインドウトーストに囓りついている。

 そしてすぐに、顔面の筋肉がゆるゆるに蕩けて笑顔になる。


「父様が結婚してハネムーン先で、母様に最初に作ってあげた料理でもあるんだって」

「くっ。追加エピソードまでモテ男のできる男エピソードか!」

「惚れるわ……新婚早々に朝これを作ってくれる旦那とか惚れ直すしかない……」

「フフフ」


 おうちでは、たまにパパのメガエリスがこれを作ってくれるたび、ルシウスもお兄ちゃんのカイルもパパが大好きになったものだ。

 元から好きだけどもっと大好き。


 感謝の言葉とともに大好きと伝えると、食卓でパパの青銀のお髭のお顔が、半熟の黄身よりゆるんゆるんに蕩けて、目元をピンクに染めていたものである。


 ルシウスのおうちは伯爵の位を持つ貴族の家だから当然料理人がいるわけで、パパが料理することは名物料理のサーモンパイを客人に饗するとき以外は滅多にない。

 レアだからこそ、たまに作ってくれるこういうシンプルな料理に特別感があってルシウスは好きだった。


「この上にスモークサーモンとかのっけても美味しいよ」

「更に幸福の上乗せきた!」


「もちろん、カリカリに焼いたベーコンなんかも」

「「間違いないやつ!」」




 食後はありがとうの言葉とともに、男たちがルシウスにミルクたっぷりのカフェオレを入れてくれた。


 さあ、今日はどんなお魚さんモンスターがやってくるものやら。




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