第21話 女神 フロリナートを祭れ
俺の説明を聞いたローラさんが頷きながら言う。
「話を聞いて、マスクのことはわかりました」
「では、ローラさんとのことはカザトさんに話しますので、明日にでも販売権についてカザトさんと話し合って下さい」
「わかりました。それにしても、カイトは今や製作が追い付かないほどです。このマスクも効果が皆に知れ渡ればカイト以上の受注となり、販売権を持つノワールさんは大金持ちですね」
「言っておきますが、俺は大金持ちになりたくて、カイトやマスクを売ろうとしている訳ではないです。俺は、できるだけ困っている人を助けるためにやっている。そこを勘違いしないでほしい」
俺が語尾を強めて言ったので、両隣で聞いていたソアラちゃんとセーラさんが驚いている様子だった。
「ふふふ、貴方はカザトさんが言っているように、大変面白い人ですね。私は、そんな貴方を気に入りましたよ。裁縫ギルドは、マスク製作に関して全面的にバックアップしますわ」
俺のプレッシャーを余裕で受け流すローラさん。
流石ギルド長であることは伊達ではなく、相当な場数を踏んでいるようだ。
「さてと、これから説明したマスクの試作品を作りたいのですが、材料の購入と場所を借りてもよいですか?」
「どうぞ、貴方の思うようにやってください」
「ありがとう、それではソアラちゃんとセーラさんは、一緒にマスクの製作を手伝ってくれ」
最初の一個は、俺がお手本の意味で製作した。実は、妻と結婚するまでは一人暮らしが長かったことと、幼い頃から家の手伝いで裁縫もやっていた。俺が小学生の時、家庭科の授業でエプロンを作った時には、先生から凄く褒められたほどだ。
それにスキル集中を発動して製作すると、自分の思うところに針を通せるので、これが更に裁縫技術に向上して、自分でも驚くほど高品質のマスクが出来上がった。
それを見ていたソアラちゃんとセーラさんは、俺に聞こえないように小声で言うが聞こえてしまう。
「ねね、セーラさん。ノワールさんは本当に何でもできるのですが、裁縫まで出来るとは…… 私、あんなに綺麗にできるか自信がないです」
「大丈夫よ。ソアラちゃん。私だって自信ないから一緒に頑張りましょう」
「うん」
なんだか俺の知らない間に友情が芽生えたようだ。
俺が作ったマスクをローラさんに渡すと、ローラさんは真剣に出来栄えを確認する。
「合格よ。この腕前ならDランクで登録するわ。ノワールさん、裁縫ギルドに登録してはどうですか?」
「おおお」
周りの職員やギルド員から歓声が上がる。
「ローラさん。俺は、既に冒険者ギルドと登録済みです。それに、サブ登録も既に木工ギルドと登録済みですが、問題ないですか?」
「サブ登録は登録者の才能を補填するものなので、何個でも登録できますから問題ないです」
「それならば、登録をお願いします」
俺とローラさんとのやり取りを聞いていたソアラちゃんが俺を見て喜ぶ。
「ノワールさん、凄いですわ。3箇所にギルド登録している人は珍しいですわ」
「そうなのか、ありがとう」
う――ん、ゲームの世界だったら、複合技術がないと製作できないアイテムがあったので皆3個以上は登録していたのだが、異世界では違うようだ。
その後、一日でギルド職員の手伝いもあり、30個のマスクを作ることができた。
◇
俺とソアラちゃんは、カザト邸に帰って裁縫ギルドのことをカザトさんに話す。
「そうですか。裁縫ギルドとは上手く話が進んでよかったですね。明日、裁縫ギルドに行って、販売権について話してきましょう」
「カザトさん、助かります」
翌朝、俺はソアラちゃんと一緒に畑に向かった。
「ソアラちゃん。すまないが、ダンカンと数名の仲間達を教会まで来るように言ってくれないか」
「はい、わかりました」
俺はソアラちゃんにお願いすると教会へ向かった。
「セーラさん、いるか?」
「はーい、ノワールさん」
今日も可愛いセーラさん。
「今日は作ったマスクを付けて診察してくれ。あと、咳やのどが痛い患者には、マスクを配布して付けるように言ってくれ」
「わかりました」
俺はセーラさんにマスクを20枚渡す。
しばらくすると、ソアラちゃんがダンカンと数名の獣人を連れて来た。
「よう、ダンカン」
「ノワール、今日は何のようだ?」
「ああ、実は畑の飼料になるものがこの教会にあるので、畑の肥料置き場まで運ぶの手伝ってくれないか?」
「なんだ、そんなことならお安い御用だ」
ダンカンは安請け合いしていたが、実際現場に着くとダンカンが堪らず鼻をつまむ。
「おい、これは何だ。結構、匂うぞ」
「ああ、それはそこの池の底に溜まっていた落ち葉や泥だ。匂うが良い肥料になるぞ」
「それにしても、俺達獣人は嗅覚が敏感なので匂いがきついな」
「それならこのマスクを使えよ」
俺はダンカン達にマスクを渡して使い方を教える。
「おお、これ良いな。匂いをあまり感じなくなったぞ」
「効果あるだろ。これから肥料を運ぶが、このマスクを付けていれば埃を吸い込まないぞ」
「そうか、このマスクは優れモノだな。それにしても、ノワールは本当に凄いな。カイトと言い、この人は良くこんなことが思いつくものだ。俺も頑張るぞ」
「その意気だ、ダンカン」
俺は残りの分もダンカンに渡し、マスクを必要としている獣人達に渡すようダンカンに依頼した。きっと、良い宣伝になるだろう。
「ダンカン、これからは半年に一度はこの池の底をさらって、肥料を作ってくれないか?」
「ああ、なんとなくお前が人が嫌がるようなことをやっている理由がわかってきたよ。これも困っている者を助けるためなのだろ」
「まぁ、そう言うことだ」
ダンカンは俺の意図を理解したようだ。
「セーラさん。今後、池はダンカンが肥料のため底をさらいますので、協力してください」
「はい、こちらからもお願いしますね、ダンカンさん」
ダンカンは顔を赤らめる。
「それからセーラさん、ちょっと二人きりで話がしたい」
「え!! はい、では、こちらへどうぞ」
今度はセーラが顔を赤らめる。
「マスクですが、マラッカス商会のカザトさんと話してセーラさんに販売権の5割を譲渡しました。これで、教会の運営費を補えるでしょう」
「本当に良いのですか? マスクはノワールさんのアイデアですよ」
「問題ない。この教会は皆に必要だ。それに金儲けをしたくてマスクを作っているわけではないからな」
「それならば有難く受け取ります。ノワールさん、本当にありがとうございます」
「ところで、この教会を加護している女神様はどなたですか?」
「はい、こちらの石像で慈悲の女神 アルテール様です」
「そうですか。それならば、隣で良いので俺を加護している女神フロリナート様の石像を祀ってもらえないですか?」
「はい。教会に多大な支援をしてくれたノワールさんのお願いであれば、祀りましょう」
フロリナートの石像は、先日俺が大理石から風魔法で彫刻した物だ。
我ながら良くできた石像だと思っている。これで、あの残念女神も少しはランクアップするだろう。
その後、俺は冒険者ギルドに行き、今回の報酬を受け取ってクエストを完了した。
困っていそうな人のクエストは完了したし、そろそろこの町の外を出て、ここから旅立つことを俺は考えるのであった。
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