第19話 池の水は抜かない
「シャルアさん、おはよう」
「ノワールさん、おはようございます。木工ギルドからクエスト完了の報告がありました。今回の報酬は、通常報酬で金貨一枚、特別報酬で金貨一枚です」
俺は金貨2枚を受け取り、依頼書を見た。
よし、今日はこの古い依頼を受けてみよう。
クエスト
内容 :魔魚の駆除
期間 :一日
依頼主 :教会
報酬 :大銀貨五枚
詳細 :教会にある池の中に魔魚がいて、
池から悪臭がでているので駆除してほしい
「魔魚の駆除ですか…… 本当にこれを受けるのですか?」
「ああ、依頼内容から大変なのはわかる。だが、このままでは誰も受けないし、それに依頼者は教会なので、きっと困っていると思うぞ」
「本当に貴方は変わっていますね。でも、嫌いではありませんよ。ふふふ」
え――と 、後半の言葉は無視しておこう。
こんなところをソアラちゃんに見つかったら、大変だと思っているそばから危ない!!
マッピングで見たら、丁度こっちに向かってソアラちゃんが歩いて来ているよ。
「ノワールさん、朝食で話していましたが、畑に行くのであれば一緒に行きましょう?」
何故か真顔で問い掛けるソアラちゃん、女の感は恐ろしい……
その後は無事に畑に着いて、昨日のボア二頭とオークイータをダンカンに渡したら大いに喜ばれた。
さて、教会に行こう。
◇
目的地の古い教会は町の中央にある立派な教会ではなく、獣人住居に近い古ぼけた教会であった。
「誰かいますか? 魔魚の駆除の依頼できました」
「はい、今行きますね」
部屋の奥から女性の声が聞こえると20代の可愛い女性が現れた。
「私は修道女のセーラです。あなたのお名前を伺って良いですか?」
「俺は冒険者のノワールだ」
「ノワールさんですね。依頼を受けて頂きまして本当に有難うございます。依頼書を発行してから6か月経っていたので諦めていたところです。早速ですが、こちらへどうぞ」
問題の池は、直径15mの円形状で深さが1mくらいだが濁っていて底が見えない。
それに依頼書の内容通り悪臭があり臭い。
「ここが問題の池です。何故か池の中に魔魚であるブラックスメルが住み着いてしまって、池の生態が崩れ悪臭が酷くなってしまいました」
「こうなる前に駆除ができなかったのか?」
「私どものような教会では資金が乏しいので、そこまで手が回らないのです」
「そうか…… それでは仕方ないな」
さて、どうやって駆除しようかな。
ブラックスメルは、ブラックバスのような魚ではあるが、鋭い歯が付いており危険な魔魚である。
う――ん、池の中に入るのは危険なので、どうしたものか。
「この池にはブラックスメル以外の生き物はいるのか?」
「いいえ、多分いないと思います」
それならこれだな。
「サンダーボルト」
池に向かって電撃の魔法を放つと、魔魚が感電により麻痺でプカーっと浮いてきた。
「大成功だ」
「凄いです!! ノワールさん」
セーラさんから網を受け取ると、池の中に入って魔魚を掬い取っていった。
一通り掬い取ったのは良いのだが、池の底は落ち葉と砂等が溜まっており、これも悪臭の原因になっているようだ。これも乾燥させてうまく発酵を促せば良い肥料になりそうだ。
俺は池の底の落ち葉と砂等をアイテムボックスに収納した。
「駆除は終わったぞ」
「本当ですか? 助かります」
「礼を言われるのは未だ早いぞ、池の水が汚れていて未だ悪臭を放っている」
「もう、魔魚は駆除されたので、その内に綺麗になるのではないでしょうか?」
「いや、そう簡単には綺麗にならないのでやっておくよ」
「クリーン」
あれ? あまり綺麗になった感じがないな。
それならば、これでどうだ!!
「ハイクリーン」
おお、部分的だが綺麗になったぞ。
俺は続け様にハイクリーンを連発して、池の水をどんどん綺麗にしていった。
クリーンは生活魔法だが、属性は聖魔法であるから練習になるし、どんどん池の水が綺麗になってくので楽しくなってきた。
気が付くと池の水はすっかり綺麗になっており、隣で見ていたセーラさんは唖然としていた。
「す、凄いです。ノワールさん!! 以前お願いした魔法士さんは、同じ様にハイクリーンを使いましたが、あまり効果がなかったので驚きですわ」
きっと、俺のオリジナルスキルによる効果だな。
「そうかな、これで依頼は完了だ」
「ありがとうございます。これで依頼は完了です。池の水を綺麗にして頂いたのですが、お金が無くて特別報酬をお出しすることができません。ごめんなさい」
「池の水の件は別に俺が勝手にやったことなので報酬はいらないぞ。それに、池底にあった落ち葉と砂等は俺が貰ったので、これでどうだ」
俺は金貨3枚をセーラさんに渡した。
「こんなに頂けません。それに、これだとノワールさんが損してしまいます」
「大丈夫だ。落ち葉と砂等は有効に使うのでお金のことは心配ない」
「でも、それでは…… 」
こんなやり取りをしていると誰かが駆け寄ってくる。
「セーラさん、助けてください。仲間が怪我しました」
慌てて走ってきたのは、ダンカンだった。
「おお、ノワールじゃないか。良いところにいた。怪我人を運ぶのを手伝ってくれ」
俺はダンカンに言われるままに担架で運ばれてきた怪我人の所に行き、教会の治療室に運んだ。
セーラさんは治療の支度をするのでいなくなったが、他の修道女は消毒薬やポーション、それに包帯等の治療用の道具を用意した。
白衣に着替えたセーラさんが現れ、治療を始める。
「この傷はどうしたのですが?」
「森で腐葉土を集めていたら、突然グレートボアが現れて襲ってきたのだ。皆は逃げたのだが、ライガが逃げ遅れて脚に傷を負ってしまった」
ライガは、虎系の獣人だが右足をグレートボアの牙でザックリと切られている。傷は骨まで達しており、右足首が折れているようだった。
セーラさんはハイポーションを使ったが、血が止まった程度で傷口が剝き出して、やはり傷が深い。
「ハイヒール」
さらに、セーラさんがハイヒールを唱えたが、傷口が塞がらない。
「どうしましょう。ハイポーションやハイヒールではこの傷の治療ができないわ。このままだと再出血や化膿する恐れがあって危険だわ」
「マキシマムポーションはないのか? それか、マキシマムヒールを唱えられないのか?」
「マキシマムポーションは高価すぎて置いてありません。町の中央教会ならばありますが、お布施が高くて、それに人族以外は治療を受けられない可能性があり、特に獣人は無理なのです。昔は、この教会の神官様がマキシマムヒールで治療していましたが、半年前に亡くなりました」
昔からの風習で獣人の差別が根強いな。
「そうか…… それなら俺が代わりに出そう」
「おい、ノワール。お前はマキシマムポーションを持っているのか?」
「ああ、ダンカン。俺に任せろ」
俺は右足にマキシマムポーションを振りかける。
「おおおお。見ろよ、凄いぞ!!」
傷ついた右足の怪我がみるみるうちに治っていった。
「ありがとう、ノワール」
「ありがとうございます。ノワールさん、それで治療費は…… とても、金貨50枚はお支払いができないです」
まだ、俺はライガの右足のことが気になっていたので、セーラさんの話が聞こえていなかった。
しばらくの間、沈黙した空気が流れる。
「わかりました。私が身体でお支払いします」
「はぁ? 何を言っているのか良くわからないが、ポーション代はいらないぞ。俺が勝手にやったのだからな。それに、未だ他に治療が必要ならば、ハイヒールだが魔法でも治療するぞ」
「本当ですか!! それなら明日にでもお願いしたいです。ダンカンさん、住居者にも明日は無料で診察ですとお伝え願います」
「本当にマキシマムポーション代はいらないのか? それに、無料で治療するとは、お前は本当に変なヤツだな」
「それは、今に始まったことではないだろ」
「ははは、そうだったな」
こうして、俺は臨時の治癒士として教会を手伝うことになった。
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