第132話 飛竜が心配
あれほど歓声を送っていた村人達が静まり返り、訓練場は静寂に包まれる。
「ナデアさん、一体どういうことか説明して下さい」
普段は怒らない人が怒ると迫力満点だ。流石にナデアさんも気まずい空気を読み取りカルシャさんに説明するが、カルシャさんの怒りは収まらない。
「ナデアさん、いいですか? 貴方はギルド長になる人です。それが、出来たばかりの訓練場を壊してどうするのですか!! この地面に空いた穴、それに向こうの壁に空いた穴は直すのを手伝って貰いますからね」
「……すまなかったね」
ナデアさんだけではなく、ワーク達も申し訳なさそうにしている。
「ところでノワールさん」
うおっ、俺の方に流れ弾が飛んできた。
「お願いがあります。御覧の通りこのままでは訓練場が持ちません。そこで魔道具による防護柵を作りたいのですが、お金がかかりまして……」
「それならばこれを使ってくれ」
俺は龍神から貰った素材の中にあった物を渡す。
「防護壁の魔導具を持っていたのですか? よかった―― 金額するとミスリル貨で三枚するので、あきらめていました」
カルシャさんは魔道具を見つめると驚く。
「なんですか、これは!! この魔道具は結界壁の魔導具です。私も一度だけ見た時がありますが、これは王宮で使用されていた最上級品質です。お金にするとミスリル貨で何枚になるかわかりません。本当に使ってもよろしいのですか?」
「カルシャさんの思い通りになるように使ってくれ」
「私の思い通りですか。わかりました。これならこの訓練場以外に使えそうです」
しばらく、カルシャさんは魔導具を眺めていると何か閃いたようだ。
「それなら避難所として使えるように工夫します。結界壁があれば、魔獣は入って来られませんから、万が一の時にここが村人達の避難所にできますわ」
持って良かった魔導具。これでカルシャさんの機嫌が直った。
「あなた、ごめんね。ちょっと、ワーク達を鍛えすぎたみたい」
「かまわないさ。いざと言う時に役立つだろう」
それからナデアさんは訓練所でカルシャさんを手伝い、ワーク達が農作業や冒険者ギルドの職員を手伝った。
◇
俺は久しぶりにジメント商会のことが気になったので、マネジの所に忍び込む。
「おい、売り上げは順調か?」
「はい、マネジさん。商品はこれまで通り三倍の値段で売っていて、以前として食料品は売れ行きが好調です」
「そうか。だが、この帳簿を見ると雑貨品の売上が不調のようだがどうなっている。それに私がここに着いてから我が商会に借金をする者達がいなくなったぞ」
「それは、村外れにある食堂が関係しているようで、村人達に無料で食事を出しているそうです」
「何!? だが、そんなことして一体誰が得をする」
「それが例の冒険者が関係しているようで、町のグロービス側に農業を作るため村人達を雇っており、食事や雑貨品、それに給金まで提供しているそうです」
「そいつは馬鹿だな。あそこはバッカル湖からの塩害でジャガイモ、ニンジン、キャベツくらいしか育たないし、森に囲まれているので鳥害で不毛地帯と言われている土地だ。農場などできるわけがいない」
「マネジさんの言う通りです。収穫したところでジャガイモ、ニンジン、キャベツだけでは採算も取れず資金不足となってやめるでしょう」
「それならば、その後村人達は路頭に迷い、食料品や雑貨品が売れると言うことだな」
「流石は先見の目を持つカザトさんです」
「良し、グロービスから食料品と雑貨品を配送するように手配しろ。多少高くても構わん。どうせ、三倍で売れるのだからな」
「しかし、三倍の値段で売って大丈夫でしょうか? 店主のマケドさんからはこの村の発展になるように村人達に協力してほしいと言われています」
「発展するように協力しているではないか。マケドさんのやり方は古い。これからは多少村人達が犠牲になろうが、犠牲者は所詮貧乏人だ。村の発展には必要ないし、富裕層の村人がいればこの村は自然に発展する。私のやり方に間違いはない」
「わかりました」
「私がこの村で店主になった暁にはお前を番頭にしてやろう。がんばるのだぞ」
店員は頷き、グロービスへ食料品と雑貨品を調達するための出かけるのであった。
忍び込んでわかったのだが、ジメント商会の店主であるマケドさんは飛竜の里を発展させようと自分の財産を寄付して村人達を支援する考えであることがわかった。しかし、マネジは儲けしか考えていない。
俺はマネジが計画していることを記載した書類を【念写の術】でコピーする。
農場の収穫の頃にマネジが何か仕掛けてきそうだから、これからも見張っていくつもりだ。
◇
マネジの所から戻り、食堂に入るとナデアさんが真剣な顔で俺の所へやってくる。
「ノワール、私と一緒にスタンドロック山脈に行ってくらないかい?」
「どうした?」
「実は私には相棒の飛竜がいて、ヒュドラと戦った時に私と同じように怪我して飛べなくなってしまった。今はスタンドロック山脈の麓で養生しているが不憫でね、私と同じように傷を治してほしいのさ」
「治せるかどうかはわからないが行こう」
ナデアさんは俺とルミアを連れスタンドロック山脈へ向かうであった。
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