第121話 がまんの限界
俺達は飛竜の里まではドラゴンウィングで飛んでも良いのだが、初めて行く場所なので馬車で行くことにした。飛竜の里は、水の都から北西に行き、スタンドロック山脈のふもとにあるそうだ。
俺達は馬車に乗り込もうとすると、商人達の話し声が聞こえる。
「俺達は運がいいぞ。さっき、定期便の待合室で聞いたが、護衛以外にBランクの冒険者が乗るそうだ」
「それなら魔獣や盗賊に襲われても心強い」
商人達は俺達を見るが、クロム装備を着ていたためBランクの冒険者とは思われなったようだ。まぁ、余計なことに巻き込まれなければいいのだが。
◇
二日目の夜に野営していると、俺は魔獣の気配を感じる。マッピングで確認するとDランクのウルフの群れのようだが、群れのリーダーなのかCランクのグレートウルフもいる。この馬車を護衛する冒険者達はCランクと聞いているが大丈夫かな。
しばらくすると、護衛も気が付いたようだ。
「魔獣だ。急いで避難しろ!!」
テントの中にいた商人や旅人達が一斉に馬車の中に避難すると一頭のウルフがこちらの様子を伺っている。
護衛が、離れて野営している馬車の商人に言う。
「おい!! そこの商人。Bランクの冒険者を護衛に雇っているなら協力してくれ」
「はぁ? 何を言っている。Bランクの冒険者はいない。例えいたとしても、何故私が雇った護衛がお前達を手伝わなければならないのだ。何も得にならないことに協力する筋合いはない。自分の身は自分達で守れ」
そう言うと商人は馬車の窓から魔獣除け玉を自分の馬車の周りに投げ、魔獣が近寄れないようにした。
「なんてヤツだ。自分だけ助かればいいのか」
「酷いヤツだ」
この馬車に乗っている人達からは非難を受けるが、商人はお構いなしに馬車の窓を閉める。
ウルフの群れは向こうの商人の馬車より、俺達の馬車に狙いを定めたようである。
う―ん、護衛の冒険者は五人だが、群れの数からして無事ではすまないぞ。仕方がない、助太刀するか。
俺は助太刀することをルミアに合図して、護衛の方に向かう。
「助太刀するぞ」
「助かる。俺達は暁の剣だ」
「俺はノワール。それと、妻のルミアだ」
魔法で一気に蹴散らしても良いが、ここは目立たないように弓で仕留めることにした。
まだ、ウルフ群れの本隊は森の中に隠れているので、先行してきたウルフ達は暁の剣に任せよう。
俺とルミアは、森の中にいるウルフを次々に弓を放つ。
『ギャン』
森の中から次々にウルフ達の声が聞こえ、暁の剣のメンバーが驚く。
「暗くて見えない森の中のウルフ達を射っている。あの二人は凄いぞ。俺達も負けてはいられない」
数頭のウルフを討伐した暁の剣に、更にウルフが襲いかかる。
「キャ――」
声の方を振り返ると、暁の剣の女性がグレートウルフに右脚を噛まれて引き倒されている。
ルミアが素早く弓を放つとグレートウルフに当たり、追撃して暁の剣の男性が止めを刺す。
ウルフ達は群れのリーダーが倒されたことで、逃げるように森の中へ引き返して行く。
「クカナ、大丈夫。今、ハイヒールを唱えるから待ってね」
【母なる癒しの女神よ この者を癒し賜え ハイヒール】
クナカの右脚から出血は止まったが、ふくらはぎの肉を食いちぎられており傷の度合が部位破損に当たるようだ。
「もう一度」
【母なる癒しの女神よ この者を癒し賜え ハイヒール】
もう一度、ハイヒールを唱えたが効果がない。
「……クナカ」
メンバーの女性が包帯や添え木を収納袋から取り出し、応急処置の準備を始める。
暁の剣のリーダーらしき男が、馬車の中の人達に助けを求める。
「仲間が深い傷を負った。誰か、マキシマムポーションを持っている人はいないか?」
「俺達は持っていないが、向こうの馬車の商人なら持っているかもしれないぞ」
それを聞いた男は、急いで向こうの馬車に向かう。
「すまない、窓を開けてくれ。仲間に負傷者がでた。傷が深くハイヒールで治すことができない。マキシマムポーションを持っていたら貸してくれ。絶対、後日金は払うから頼む」
男の声に馬車の窓が開き、商人が顔を出す。
「ふん、なぜ、私がお前にマキシマムポーションを貸さなければならないのだ。仮に貸してほしいのであれば、土下座してお願いするべきだろう」
「わかった、この通りだ。マキシマムポーションを貸して下さい」
男が土下座して頼み込むと、商人はニヤニヤしながら言う。
「仕方がない、ミスリル貨二枚で売ってやろう」
「なんだと、相場の四倍ではないか。ふざけるな!!」
「ふざけるも何も私は商人だ。金を儲けることが仕事だ。買うのか、買わないのか。それか、そこの元気な女性が私の奴隷になれば、金はいらないぞ」
その話を聞いていた人達から非難の声を浴びるが、商人はお構いなしだ。
「あなた、もう、私は我慢がならないわ。いいわよね」
「いいぞ」
俺は男のところに行き、ルミアはクカナさんの所に向かうのであった。
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