第12話 般若現れる
翌朝、出発する準備が整うと、カザトさんが皆に言う。
「みなさん、おはようございます。今日の午後にはコートダールに着く予定です。昨日のこともありますので、しっかりと護衛を頼みますぞ」
出発してから何事もなく、俺達は馬車に揺られてお昼頃になると遠くに町並みが見える。
町は城壁で周りを囲んでおり、東西南北に門が配置されているようだ。
俺達は城門に着くと、衛兵が身分書を確認するそうだ。
「ノワールさんは私の後ろに並んでください。私から衛兵に説明するので、心配はいりませんぞ」
いよいよ俺達の番になり、衛兵が近づいて来る。
「これはカザトさん、お久しぶりです。ところで、後ろにいる若者は?」
「若者の名はノワール、身分証明書がなく少々訳ありでありますが、このカザトが身元引受人になります」
「そうですか。では、こちらで手続きを」
カザトさんが手続き用の書類を記載している間に、俺は椅子に座らされて机の上には水晶玉が置かれる。
俺の向かい側には、衛兵とは身なりが違う審査官が座る。
「この水晶玉の上に手を置いてください。これから質問しますので、全ていいえで答えてください」
「貴方の名前はノワール、貴方は犯罪者ですか、出身地は覚えていますか、等々」
色々な質問に答え終えると、丁度手続きを終えたカザトさんに審査官が話す。
「この方は犯罪履歴や嘘をついている様子はないです。しかし、カザトさん、私は初めて見ましたよ。この人は渡り人ですね」
「私もそう思っていました。いずれにせよ、ノワールさんは信頼できる人物であることは、このカザトが保証します」
「わかりました。手続きは完了しました。特に問題はないので、仮身分証明書を発行します」
審査官が仮身分証明書を発行するため部屋から出ると、俺はやっと緊張から解放されるのであった。
「カザトさん、ありがとう」
「ノワールさん、喜ぶのは未だですよ。明日は冒険者ギルドに行ってギルドカードを発行します。今日は疲れていると思うので、私の家に泊まってください」
俺達が守衛所から出ると、皆は馬車の前で待ってくれていた。
白銀の翼のカインが俺達に歩み寄って来る。
「カザトさん、ここで別れます。俺達は冒険者ギルドに行って、盗賊の件を報告します。ノワール、今度は冒険者ギルドで会おう」
俺達は白銀の翼と別れ、カザト邸に向う。
俺は馬車の中から街並みを眺める。
街並みはヨーロッパ風の建物が多く、高い建物でも3階建でしかなく奇麗な街並みだ。
しばらく馬車に揺られていると、馬車は大きな邸宅の中に馬車が入って行く。
ここが、カザトさんの家か…… それにしても、でかい!!
邸宅は予想以上の大きさで、西洋館のような建物で部屋数が10部屋以上ありそうだ。
この邸宅からカザトさんは、かなりの豪商のようだな。
皆が降りると入り口には執事とメイド達、そしてきれいな奥様が出迎えてくれた。
温かそうな家庭だな。
「あなた!! お得意様から盗賊に襲われたって聞いて驚いたわ。今回はソアラが一緒だったし、もしものことがあったらどうするの!!」
ぬおぅ!! 全然温かそうではない。
それに、般若がいる。きれいな奥さんだと思っていたが、あの人は般若だ!!
ヤバイ、般若がこっちを見た。
「あなたが護衛の人? もっとしっかりと守ってくれないと駄目でしょ!!」
「はい!!」
ものすごい迫力だったので、思わず『はい』と言ってしまった。
「お母様、その方は護衛ではなく、私達が盗賊に襲われて危ないところを助けてくれたノワールさんです。それに、護衛の方が重傷だったのですが、迷わず自らのマキシマムポーションを使って傷も癒してくれました」
奥様は驚くと、改めてスカート端を軽く持ち上げ、俺に向かってお辞儀して優しい笑顔で言う。
「大変失礼しました。私はシェリーです。主人の恩人に対して大変失礼なことを言ってしまいました。どうかお許しを」
「いえいえ、お気になさらずに。俺が勝手にやったことですし、先程はカザトさんが町へ入る際に助けてくれて感謝しています。それに俺は渡り人のようなので……」
俺の素性を知らない執事やメイドは、俺が渡り人で驚いていたが奥様は優しく言う。
「それは大変お困りでしょう。家族を助けていただいたお礼を兼ねて、しばらく落ち着くまでここに滞在してください。主人もそうしたほうが喜ぶでしょう」
「お心遣いありがとうございます」
「ノワールさんをお部屋にご案内して、それからあなたはこっちへ」
とぼとぼと奥様の後をついていくカザトさん、ご愁傷さまです……
俺はメイドのエルスさんに客室に案内されたが、そこはホテルのデラックスルームのような部屋で、ダブルサイズのベッドに大きなソファーと机、それにバスルームまで備えてあった。
「御用がありましたらお呼びください。ご夕食の準備ができましら、お呼びにいたします」
「うん、ありがとう」
しばらくベッドの上で休んでいると夕食に呼ばれたので食堂に向かう。
食堂の中に入ると長いテーブルに皆が座っており、そこに料理が次々と運ばれてくる。
カザトさんはやはり相当な豪商らしく、運ばれてくる料理のレベルも高い。
「お料理は、お口に合いますかしら?」
「はい、奥様、とっても美味しいです」
「奥様はやめて、なんだか堅苦しいわ。シェリーでお願いね」
「はい」
「ところでお母様、明日はノワールさんが冒険者ギルドに行かれるのですが、私も一緒に行っても良いでしょうか? それにノワールさんに町の案内もしたいのです」
「ソアラよ、盗賊の件もあるので駄目だ。それにお前は年頃のって、ぐはっ!!」
絶妙にカザトさんの脇腹にシェリーさんのエルボーがヒットする。
「まったくあなたは乙女心がわかっていないのですね。いいですよ、ノワールさんと一緒に行ってらっしゃい。ノワールさん、よろしくね」
俺にはシェリーさんの顔を笑っているが、『娘を悲しませるようなことはしないでね』と言っているようで、背後には般若が見える。
「はい!!」
また、思わず返事をしてしまった。
「お母様、ありがとうございます」
ソアラさんは、頬を赤らめながらお礼を言う。
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