第117話 魔人化
隠し扉の通路は大広間に続いており、ルギー侯爵達が追いかけて来て俺達と対峙する。
「逃げても無駄ですぞ」
「逃げている訳ではないぞ。ルギー侯爵よ、考え直さないか?」
「追い詰められて気でも触れましたか。さて、傭兵達の準備が終わりましたのでお別れです」
「そうか、残念だ」
「私も残念です。貴方は領民のことを思う立派な領主です。しかし、貴族であればもっと人生を謳歌すべきだ。貴方は真面目過ぎたのがいけないのですよ。さようなら」
準備を終えた傭兵達は、今にも俺達を攻撃しようとする。
「頼んだぞ!! ノワール子爵、ルミア子爵」
「放て!!」
ルギー侯爵が合図すると傭兵達から矢や魔法が一斉に放たれる。
【忍術の極み 結界の術】
【魔法の極み マジックキャンセラー】
放たれた矢は結界の術に防がれ、また魔法はマジックキャンセラーにより消滅して、クリド公爵を傷つけることはできない。
「そんな馬鹿な……」
ルギー侯爵と傭兵達は驚く。
「ルミア、一気に畳みかけるぞ。イニス、修行の成果を見せる時がきたぞ」
俺とルミアは傭兵達と対峙し、イニスはビスマと対峙する。
「イニス、随分と高価なミスリル装備を着ているが、所詮お前は雑魚だ。それに比べて俺は日頃から剣術を習う実力者だ。お前が死んだ後に、シチアを手に入れ、俺がそのミスリル装備を着てやろう」
「黙れ、お前にはどちらも渡さん」
イニスとビスマの剣が激しくぶつかり合う。
一方、傭兵達は剣を抜いて俺達に襲いかかる。
【多重魔法 エアーストーム】
【魔法剣 ライトニング】
ルミアの魔法と俺の魔法剣で、傭兵達は一瞬で戦闘不能になる。
「なんて強さだ。BクラスやCクラスの連中があっけなく戦闘不能になると信じられない。こんな魔法は見たことがないし、何をやったのか全く見ることができなかった……」
ルギー侯爵はその場に力なく、ひざまずく。
「こっちは片付いたぞ。イニス、そろそろ決め時だ」
「わかった」
「何がわかっただ。実力の違いを見せてやるぜ」
【武技 地走り】
【奥義 剛重撃破斬】
二人の武技が激しくぶつかり合うが、イニスの武技によりビスマが吹き飛ばされる。
「ぐ… そんな…… ばかな」
吹き飛ばされたビスマはそのまま気絶すると、デンケ男爵がイニスを讃える。
「息子よ、よくやった!!」
クリド公爵はルギー侯爵にゆっくりと近づく。
「ルギー侯爵、勝負はついたようだな」
「まさか、これ程の手練れがいるとは想定外だ。教えてほしい、あの二人は何者だ?」
「あの二人は聖騎士ロイドや弓聖アンナと同じ冒険者パーティーである白銀の翼のメンバーだ」
「白銀の翼のメンバーだと。そうか、私達が相手したのは上級クラスを持つ二人だったとは、始めから負け戦だったようだ」
ルギー侯爵が諦めた時、大広間の扉が開かれメントが現れる。
「私は、近衛兵隊長のメントです。クリド公爵はご無事でありますか?」
「丁度良いところに来た。メントよ、ルギー侯爵達を捕縛せよ」
「かしまりました」
クリド公爵の命によりメント隊は速やかにルギー侯爵達を拘束していく。
「きさま、大人しくしろ!!」
「ぐああああ」
声の方を見ると、気絶していたビスマが近衛兵を突き飛ばす。
「情けない、父上は降参ですか? このまま私達が捕まれば、財産を没収され爵位も奪爵、それに強制労働所で10年以上は拘束されます。その後、元貴族として細々と暮らす運命には耐えられない。それならば、命を削ってでも戦うしかない」
「息子よ、止めろ!! それは禁断の魔導具だ。使えばお前の寿命を半分以上削ってしまい、場合によっては死ぬぞ」
「父上、ここまでくれば毒も喰らわば皿までよ」
ビスマは魔道具を割り、中に入っていた薬を飲む。
「ぐぇぁ、助けてくれ!! 苦しいぃ――」
薬を飲んだ途端、ビスマは苦しみだし部屋の窓を突き破り中庭の真ん中まで行くと、うずくまり身体からは煙のような物がでる。
ルギー侯爵やクリド公爵達は呆然としてイニスを見つめる。
「ねぇ、あなた。あれはヤバいわね」
「ああ、急激に魔素を取り込んでいるので肉体が崩壊しそうだな。まるで、小さいツボに無理やりに水を押し込んでいるものだ。その内ツボにひびが入るか割れるな」
「酷い、既にひびが入っているように感じるわ」
俺達が見ていると、ビスマは何事もなかったように立ち上がり深呼吸する。
「うーん、清々しい。こんなにも身体中の魔素が溢れ出している。これが上級クラスに匹敵する魔人化か」
【ファイアボール】
『ド――ン』
ビスマは上に向けてファイアボールを放つと上空で弾ける。
「無詠唱でこの威力とは素晴らしい。そこの二人、降りてこい。お前達さえ倒してしまえばイニス達など私の敵ではない」
降りて行った方が良さそうだな。ここで戦うと屋敷に被害が出るので面倒だ。取り敢えず、クリド公爵達を巻き込まれないようにしよう。
俺はルミアに合図すると忍者と賢者の装備に装換する。
【忍術の極み 多重忍法 結界の術】
【魔法の極み 多重魔法 マキシマムシールド】
これだけ重ね掛けしておけば、例え龍神のドラゴンブレスを受けても大丈夫だろう。
俺とルミアはビスマの元に向かうのであった。
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