第116話 調停式
調停式は明後日だ。俺はルミアと話し合い、調停式の前にクリド公爵に今回の件を話すことにした。
「クリド公爵。本日は突然の訪問ながら、謁見して頂きまして誠にありがとうございます。また、先日の合同結婚式に参列して頂き、重ねて厚く御礼申し上げます」
「ノワール子爵。堅苦しい挨拶はなしだ。ロイド子爵とアンナ子爵の友人である君達と私との仲だ。気軽に話そうではないか?」
「ありがとうございます」
「それで、今日はどのような要件ですかな?」
俺とルミアは、デンケ男爵の横領罪や豆腐屋のこと等を説明する。
「……そうか。ノワール子爵の言うことはわかった。私もデンケ男爵の横領罪には少しばかり疑問を持っていた。この裏帳簿があれば、ノワール子爵が言うようにデンケ男爵の無実の罪を晴らすことができるだろう」
「クリド公爵。それでは明日の調停式は、よろしくお願いします」
ついでにロイドとアンナに挨拶しようとしたが、二人はバッカル湖で高ランクの魔獣が複数目撃された情報を受け、討伐のために数名の親衛隊と一緒にバッカル湖へ行っているそうだ。
「クリド公爵、屋敷の警備が手薄のようですが大丈夫ですか?」
「確かにそうだな」
「それならメント近衛兵隊が役に立つと思いので推挙します」
「ノワール子爵の紹介であれば安心だ。早急に手配するようにしよう」
◇
早速、俺とルミアはクリド公爵に話した内容をデンケ男爵とイニスに伝えるため屋敷に向うと、イニスにより丁重に招き入れられる。
「ノワールさん、ルミアさん。良く来てくれました。父上、こちらが今回の件でお世話になっている二人です」
「君達が冒険者のノワール、ルミアか。息子が色々と世話になっているそうだな。礼を言うぞ」
「その件で、デンケ男爵にお話があります」
俺とルミアはクリド公爵に話した内容をデンケ男爵とイニスに説明する。
「ノワール、本当に裏帳簿を手に入れたのか?」
「ここにある」
話を聞いていたデンケ男爵の顔色が変わる。
「君達は一体何者だ? ただの冒険者がクリド公爵に直ぐに謁見できる筈がない」
「ご安心を。俺達はクリド公爵直属の護衛と友人であり、クリド公爵にも面識があるため謁見することができました」
「そうであったか…… しかし、裏帳簿はどうやって手に入れたのだ? これは本物か?」
「父上、余計な詮索はやめましょう。この二人が何者であれ、私達の味方には変わりがありません。私は二人のことを信じております」
「そうだな、ノワール、ルミア。失礼なことを言ってすまなかった」
俺達は、一緒にイニスがこれまで調べたことや裏帳簿の内容で、調停式に向け綿密に打ち合わせをするのであった。
「ノワールさん、ルミアさん。本当にありがとうございました」
「イニス、俺達が勝手にやっていることだから気にするな。それよりも調停式では何が起こるかわからないから、念のためミスリル装備で来てくれよな」
「わかりました」
◇
調停式が開催される朝、俺達はデンケ男爵達と一緒にクリド公爵の屋敷に向い、調停式が開催される部屋に入る。
うーん。なんだか様子がおかしい。ルギー侯爵とビスマは5人の護衛を連れて来ているが、マッピングで確認すると別の部屋にも数名が待機している。それに屋敷内で警備している親衛隊の動きがおかしい。先程から一部の親衛隊が動いていない。
(ルミア、こいつら何か仕掛けてくるぞ)
(そうね、周りの動きがちょっと不自然だわ)
部屋の中にクリド公爵が入ってくる。
「皆の者、勢揃いしているようだな。これより調停式を始める」
クリド公爵からこれまでの経緯とイニスが調査した内容が話される。
「ルギー侯爵。人気の豆腐屋やそれ以外の所でも立ち退きを不正に要求しているとデンケ男爵から告発があった。また、税金の横領について新たな証拠があると報告を受けている。心当たりはあるのか?」
「異議があります。土地の立ち退きについては証文があります。それと、税金の横領は入出金でルートの行き違いはありますが、問題はありません」
「嘘だ。ここにある証文は最近になって書き直されており、全ての証人印が同一人物で、明らかに偽造されている。税金は、ルートを変更することで、入金と出金を別の徴収とすり替えることで不正を働いている。そのすり替え元は、私が管轄した部署であったため私に濡れ衣を着せたのだ」
「同一人物であったから何が問題でもあるのか? それに横領罪の件は、既に解決しているではないか」
クリド公爵はデンケ男爵から渡された証文を確認する。
「ルギー侯爵。確かに証人印が同一人物でも問題はないが、最近になって書き直したのはなぜだ? それと書き直す前の原本はどこにある。原本は保管することが義務付けられている」
「書き直したのは保管方法が悪く、虫食いが酷い状態であったためです。原本は他の書類に虫食いが発生することを恐れ焼却処分しました」
「よくわかった」
「クリド公爵、お待ちください。ルギー侯爵の話は嘘です。ここに証拠があります」
「無礼な!! 私の発言が嘘だと。その証拠で証明できなければ、これは私に対する不敬罪だ。今度こそ奪爵になりますぞ」
「覚悟の上だ!!」
デンケ男爵とルギー侯爵の言い争いをクリド公爵が止める。
「二人とも気を静められるように。デンケ男爵、証拠を」
「はい。証人印を押した人物は既に殺されていますが、犯人はそこに座っている男です。偶然、この防犯魔道具に映像が記録されております。それに、税金のすり替えた証拠はこの裏帳簿を見れば一目瞭然です」
「そ、そんな馬鹿な、そのような帳簿は存在するはずがない」
デンケ男爵はクリド公爵に防犯魔道具と裏帳簿を渡すと、クリド公爵が映像と裏帳簿を確認する。
「確かにデンケ男爵の言う通りだ。ルギー侯爵よ、これは一体どういうことか説明せよ」
「ふっ、参った。偶然とは言え、防犯魔道具に映像が記録されていたことは予想外だ。それにどうやって手に入れたのかわからないが、その裏帳簿は本物だ。恐れ言ったよ」
「ルギー侯爵よ、全て認めるのだな!!」
「ヤレヤレ、クリド公爵、そんなに大声を出さなくても聞こえる。まぁ、多少は計画が狂ったが、ここにいる者達には死んでもらう」
「気でも触れたか、私が死ねば王家が黙っていないぞ」
「クリド公爵、ご安心を。既に準備は万端です。貴方は調停式で主張が認められなかったデンケ男爵達によって殺害されることになるのです。そして、私の傭兵達によってデンケ男爵達は粛清され、みんな死ぬのです。おい、お前ら」
ルギー侯爵が合図すると、扉が開き親衛隊が入ってくる。
「驚きましたか? このようなことを想定して親衛隊の一部を買収し、偽情報を流して聖騎士ロイドと弓聖アンナ、それに親衛隊をバッカル湖に向かわせた。残っている親衛隊は薬で眠っているので、今やクリド公爵を助ける者はここにいる者だけだ」
「おのれ、謀ったな。皆の者、こっちだ」
クリド公爵は机の下にあるスイッチを押すと隠し扉が現れ、俺達を引き入れる。
「おい、お前達追え!!」
まさか、ルギー侯爵がクリド公爵や俺達を暗殺する計画だったとは予想外だ。
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