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アルバート殿下の気持ち その4

そんな日々を過ごしていたある日、国王である父上から呼び出された。

何の用事かと考えながら、父上の執務室へと向かう。

俺の後ろには側近としてオリバーも付いてきている。

父上の執務室の警備をしている騎士に命じて、扉を開けさせる。

「父上。お話とはなんでしょうか?」

「よく来たな、アルバート。お前が保護しているヒーラーの娘のことだ。」

そう言って、父上は応接用のソファに座る。

俺もその対面に座って話しを聞く。

ちなみに、父上の後方には宰相が、俺の後方にはオリバーが立って控えている。

「マリナを次の夜会に出席させる、ということですか。」

父上の話の内容はそれだった。

「そうだ。我がシュトライゼン王国が平和であると示さねばならん。それはお前にも分かるだろう。」

父上の理屈はわかる。

だが・・・。

「マリナは宮廷マナーを学び始めたばかりです。夜会への出席は困難だと思います。」

そう、つい先日まで礼の姿勢も取れなかったのだ。

そんな状態の彼女を夜会へ出席させても、マリナが恥をかくだけだ。

「何も夜会の始めから終わりまでいろとは言わん。ダンスの一曲でも踊れば十分だろう。」

「それでも、次の夜会でというのは、日が無さすぎます。」

反論すると、父上は厳しい視線を投げてきた。

「暗殺者の侵入を許したらしいな?早めにあの娘の顔を広めておくことは必要なことだと思うが。」

暗殺者の件を出されて、俺は黙ってしまった。

確かに、マリナの顔を知っている者が増えることは、暗殺者への牽制(けんせい)となる。

「これは相談ではない。命令だ。次の夜会にマリナ・ナカノを出席させろ。」

父上の厳しい声が飛ぶ。

「・・・わかりました。では、エスコートは俺がします。これは譲れません。」

「良いだろう。」

そうして話を終えた俺は、この事を伝えるためマリナの部屋へと向かったのだった。


「・・・はい?」

夜会出席の事を伝えると、案の定マリナは訳が分からないという顔をした。

こうなると分かっていながら断ることが出来なかった自分を不甲斐なく思いながら話をする。

理由についてはオリバーが分かりやすく説明してくれた。

「マリナのエスコートは俺がする。当日は俺と一曲踊ったら下がってよいと父上の許可を取ってあるから、安心していい。」

「いや、私、踊れませんよ!」

俺の言葉に即座にマリナが答える。

「今日から夜会の日まで、ヒーラーの仕事はお休みです。頑張って特訓しましょうね!」

オリバーが良い笑顔でマリナに言う。

青い顔になったマリナが、恐る恐る尋ねる。

「あの、その夜会って、いつですか?」

「一週間後だ。」

俺の答えに、マリナは絶望的な顔になる。

しかし、マリナの安全のためにも、やるしかない事なのだ。


マリナのダンスの訓練が始まって四日目。

いよいよ俺と組んでの練習となった。

「あの、殿下。私、さんざんベルナール先生の足を踏んでいたんです。殿下の足も踏んでしまうかもしれません。すみません!」

無理なことを頼んでいるのはこちらなのに、何故かマリナの方が俺に謝ってくる。

しかもまだやっていない事について謝罪され、なんだかおかしくなってしまった。

「まだ始めてもいないのに謝るな。足くらい踏まれても、どうということはない。」

俺は思わず噴き出しつつ、そう言って安心させようとする。

いざ練習を始めてみれば、よくぞたった数日でここまで踊れるものだと驚かされた。

もちろん、ステップを間違えたり軽く足を踏まれたりもしたが、おおよそは形になっている。

難点をあげるとすれば、表情が硬いことくらいか。

真剣過ぎて、少々怖い顔になっている。

しかし、そんな少しのミスや表情も、とりあえず見れるくらいにまで上達して、夜会当日を迎えた。

エスコートの為に部屋へ迎えに行くと、美しい令嬢にしか見えないマリナが出てきた。

「ああ、今日もきれいだな。」

「ありがとうございます。殿下も、今日はいつにも増して素敵です。」

普段と違って、夜会用のきらびやかな服を着ていたからか、マリナはそう返してきた。

「ありがとう。さあ、行くぞ。」

そう言って彼女の手を取り、夜会と言う名の戦場へと向かったのだった。


夜会会場へ着くと、侍従が俺たちの到着を告げる。

同時に会場内にいた貴族たちが一斉にこちらに注目する。

俺にとってはいつものことだが、平民であるマリナにはきついだろう。

そう思ってそっと伺うと、彼女は柔和な笑みを浮かべて前を見据えていた。

その度胸に驚くとともに、頼もしくも感じてしまった。

玉座にいる父上に礼をして、俺たちは踊り始める。

練習の様子から話す余裕が無いことはわかっていたので、黙ったまま踊る。

マリナが苦手としている部分も頭に入れておいたので、そこは彼女が自然と踊れるようリードする。

無事に一曲を踊り終えると、会場から拍手が贈られた。

「アルバート殿下、見事なダンスでした!」

もう一度玉座の方を向いて礼をして、まずはマリナを部屋へ帰そうと思っていると、横から話しかけられた。

「ギレム子爵か。」

正直、邪魔をしないでくれと思いながらも、国内の貴族を無碍(むげ)にするわけにもいかず、仕方なしに対応する。

ふと人が動く気配がして、マリナが一人で帰ろうとしていることに気付いた。

女性を一人で帰らせるなんて出来ないと、子爵の話を終わらせようとする。

すると、少し離れたところでマリナは数人の令嬢たちに囲まれてしまっていた。

会場は全体的にざわついていて、令嬢たちの話までは聞こえないが、雰囲気的に良くないものを感じる。

やがて、マリナは急ぎ足で会場を後にした。

そのあたりでようやく子爵との話を終わらせた俺も、急いでマリナを追いかける。

会場の警備をしていた騎士に確認すると、マリナは自室ではなく、近くの休憩用の部屋へ向かったらしい。

部屋の前まで来て、扉をノックして声をかける。

「マリナ?ここにいるのか?」

「はい、います!」

扉の向こうから返ってきた声が、思ったよりも明るくてホッとする。

それでも何か嫌なことを言われたのではと心配して聞いてみると、こんな答えだった。

「はい。問題ありません。あの程度の魂レベルの方は相手にしませんから。」

「魂レベル?」

聞きなれない言葉に怪訝な声を出すと、心の清らかさの度合いだと教えてくれた。

低レベルな人間からは心の距離を取る。

良家の子女であれば自然と身に着けるその手法を、平民だと言いながらマリナはやってのけた。

驚いたし、面白いとも思った。

もっとマリナの事を知りたいと感じた。

「そうか。心配は無用だったか。」

「いいえ。ご心配いただけたことは嬉しいです。ありがとうございます。」

そんな言葉を交わして、二人で微笑みあった。

「すまないが、俺はまた戻らねばならん。」

もう少し二人の時間を過ごしたかったが、王家主催の夜会で王太子が長時間席を外すわけにもいかない。

マリナの事を、ちょうど来ていたエリクとディオンに任せ、俺は会場へと戻った。


そんな夜会も終わったある日。

「あなた、平民のくせに当たり前のような顔をして殿下の隣にいるなんて、目障りなのよ!」

偶然通りかかった場所で女の声が聞こえた。

見ると、声を発した女はマリナの腕を掴んでいる。

エリクとディオンが助けに入ろうとするが、それをマリナが止めていた。

「つまり、あなたも殿下の隣にいたいという事でしょうか?」

マリナの言葉に女は一瞬言葉を詰まらせる。

すると。

「なるほど、あなたもヒーラーになりたいのですね!」

というマリナの明るい声が響いた。

そうして、あれよあれよという間に形勢逆転したマリナは、言いがかりをつけてきたらしい女たちを退けていた。

とっさに笑いが込み上げてきた。

社交界の洗礼とも言える令嬢たちの嫌味を気にすることなく、さらにはその令嬢たちを言葉だけで退けるとは!

俺はますますマリナに興味を持ち、そしてこう願い始めた。

(できることなら、この先ずっと、隣でマリナの事を見ていたい)

自分の望みをハッキリと自覚した俺は、早速行動に移すことにしたのだった。





お読みいただき、ありがとうございました。

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ひとまず、番外編はこれで終わりです。

よろしければ本編をお読みいただければ嬉しいです!

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