アルバート殿下の気持ち その3
翌日。
マリナから、話したいことがあると伝言を受けた。
昨日の今日でまた会えることが嬉しくて、すぐに許可を出した。
すると執務室にやってきたマリナは、街の外にある川へ行きたいと言う。
普段通りの護衛では不十分になるかもしれない。
マリナを確実に守るためにどの手段が良いか考えつつ、口を開く。
「何故川へ行きたいんだ?」
「川のせせらぎや小鳥のさえずりには、人を癒す力があるんです。その音を魔法道具で記録したいと思っています。」
ただの気分転換かと思えば、仕事に関する事だったらしい。
相変わらずのまじめさに好感を覚える。
日曜日と言えば、王城内も休みを取る者が多く、俺のところに回ってくる仕事量も少ない日だ。
早速オリバーにスケジュール調整を頼み、俺も休むことにする。
マリナは驚いていたが、警備的にもその方が安心だ。
何かあれば、必ず俺がマリナを守る。
「記録している最中は、特にやることもないし、暇ですよ?」
そのマリナの言葉で、良いアイディアが浮かんだ。
「なら、軽食を用意させよう。ピクニックだな。」
すると、ピクニックという言葉に反応して、マリナが楽しそうな顔をする。
「それは素敵ですね!楽しみです!」
俺も一気に日曜日が楽しみになった。
その日を満喫するためにも、仕事を早めに片付けよう。
こうして、俺の仕事の効率も上がっていったのだった。
日曜日。
川へと向かう馬車の中で、マリナと二人で雑談する。
マリナは俺の仕事の心配をしてくれたが、むしろ効率が良くなって捗った。
問題ないと伝えると安心したようだ。
その時、ちょっとしたいたずら心が湧いた俺は、ニヤリと笑って見せた。
「そうでなければ、そなたとの時間を楽しめないだろう?」
「そ、そうですか・・・。」
するとマリナは頬を染めて俯いてしまった。
平静を装おうと頑張っている様子も可愛らしく感じる。
しかし、あまりいじめすぎるのも良くないかとかんがえ、仕事の話をふってやる。
するとマリナは、とたんにホッとした顔をして1/fゆらぎについて説明してくれた。
やがて馬車が川へと到着すると、マリナははしゃぎ始めた。
いそいそと魔法道具をセットしに行ってしまう。
その間にピクニックの用意をさせる。
ちょうど用意が終わるころにマリナが戻ってきたので、座るよう促した。
一息ついたところで、俺は周りの音に耳を傾けてみる。
川のせせらぎ、木々のこずれの音、時折聞こえてくる鳥のさえずり。
何も考えず自然の音に集中すると、だんだんと頭がスッキリしてくる。
「ああ、確かに心が落ち着くな。こんなに心地良いとは知らなかった。」
そんな俺を、マリナはそっと見守ってくれているようだ。
しばらくの間そうしていると、マリナが遠慮がちに声をかけてきた。
魔法の使い方を教えてほしいという。
そういえば約束していたことを思い出し、早速マリナの方へ向き直った。
「俺の魔力をマリナへ流す。目を閉じて集中してみてくれ。」
そう言って、かざした手から魔力を放ち、マリナの体を魔力で包み込むようにする。
「どうだ?わかるか?」
「はい。温かくて心地よいです。」
言われて心臓が跳ねた。
魔力には相性と言うものがあって、それが合わない人間の魔力は気持ち悪いものなのだ。
しかし、マリナは俺の魔力を心地よいと言った。
そのことが嬉しかった。
手始めにライトという灯りを生み出す魔法を教えると、あっさりと成功した。
初歩の魔法とはいえ、これを一発で成功させるのは難しいはずなのだが、マリナは魔法の才能があるのかもしれない。
「すごい!本当に出来ました!」
笑顔でこちらを見てくれて、俺まで嬉しくなってしまう。
そうしてしばらく時間を過ごしているうちに記録が終わったらしく、俺たちは王城へと戻ったのだった。
数日後。
マリナから茶会の招待状が届いた。
急ぎの仕事もないので、もちろん了承の返事をする。
先日の買い物の際は祖国のものであろう文字を書いていたのに、きちんとこの国の文字で招待状が書かれていたことに驚いた。
マリナは自分のことを平民だと言っていたが、読み書きや計算が出来るようなので、高度な教育を受けているように感じる。
茶会の当日、時間通りに指定された部屋へ向かう。
部屋に入ると、マリナが礼をして迎えてくれた。
「アルバート殿下。本日は私のお茶会にお越しくださり、ありがとうございます。」
つい先日まで腰を折って深く頭を下げる礼をしていたのに、今日のそれは貴族の令嬢だと言われても納得できてしまうほど美しかった。
一瞬見惚れてしまったが、すぐに立て直した。
「招待してくれて嬉しかった。今日はゆっくり話そう。」
そう微笑んで言ったのだが、マリナはあまり動揺を見せなかった。
俺が笑いかけるたびにオロオロする様子が可愛らしかったので、何だか残念だ。
「侍女の皆さんから殿下がお好きだというものを聞いて用意したんです。どうぞ。」
促されて席に着くと、確かに俺が好んで口にしている紅茶や菓子が用意されていた。
俺の顔に反応しなかったのは、嫌われたわけではなく、初めての茶会で緊張しているのかもしれない。
飲みなれた紅茶を楽しんでいると、マリナが話を切り出した。
「実は今日は、先日いただいたワンピースのお礼がしたくてお招きしたんです。素敵なお洋服を、ありがとうございました。こちら、殿下の健康をお祈りして用意しました。気に入っていただけると良いのですが・・・。」
そう言って、小さめの細長い箱を取り出す。
まさかマリナからプレゼントを貰えるとは思っていなかったから驚いた。
差し出されたそれを受け取って、マリナの了承を得て開けてみる。
中には、ペンダントに仕立ててある守り石が入っていた。
マリナが俺のことを考えて選んでくれたのだと思うと、心がじわりと温かくなるのを感じた。
「俺の健康を、マリナが祈ってくれるのか。嬉しく思う。ありがとう。」
「い、いえ・・・。喜んでいただけて、私も嬉しいです。」
マリナの笑顔を見て、さらに気分が良くなった俺は、さっそくペンダントを身に着ける。
「大切にする。」
「はい。ありがとうございます。」
その後もしばし会話を楽しんでいたのだが、時間はあっという間に過ぎてしまい、仕事に戻らねばならなくなった。
名残惜しかったが、俺はマリナに挨拶をして執務室へと戻った。
ありがとうございました。
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