アルバート殿下の気持ち その2
俺が視察の為に共に行くと伝えると、マリナはだいぶ戸惑ったようだ。
護衛の確認なんてことをしてくる。
それにはオリバーが答えた。
「殿下は剣も魔法も得意なので、あまり護衛を必要とはしないのですよ。」
するとマリナは驚いた顔をする。
「魔法・・・?」
「ニホンには無かったのか?」
「物語の中だけのものでしたね。」
「なら、近いうちに俺が教えてやろう。簡単なものならマリナもすぐに出来るようになる。」
仲良くなるチャンスだと思い、俺がそう提案すると、途端にマリナは笑顔になった。
「はい!ぜひお願いします!」
その笑顔に気をよくした俺も自然と笑顔になる。
俺が直々に魔法を教えると聞いたオリバーが呆れ顔になるが、知った事か。
俺はマリナと特別仲良くなりたいと思っているのだから。
そうして俺たちは四人で街へと繰り出した。
エリクとディオンは護衛らしく少し下がってついてくるから、自然と俺とマリナが二人で歩いているような形になる。
そのことに顔がにやけそうになってしまうが、必死でこらえた。
出来ることなら、カッコ良い男だと思われたいからだ。
しかしマリナの方はそんな俺に気付かず、楽しそうに店を見て回っていた。
立ち寄った雑貨屋で、マリナは紙に何かを書き始めた。
チラリと除くと、この国の言葉ではないものを書いていた。
「マリナ?何を書いているのだ?」
「王立病院の私の部屋に欲しいものをピックアップしているんです。あとでオリバーさんにお願いしようと思って。」
オリバーにと聞いて、嫌な気持ちになった。
ここにいるのは俺だ。
俺を頼れば良いではないか。
「そんな必要はない。俺が買うから、欲しいものがあるなら言ってほしい。」
そう言葉にすると、マリナは目を瞬かせた。
きちんと経費になるのかどうかを気にしているようなので、大丈夫だと安心させる。
納得したらしいマリナは、それ以降は俺に頼んでくれるようになった。
欲しがっているものを買い与えることが楽しいと、初めて知った。
ある程度買い物が済んだあたりで、ふとマリナが腹に手をあてたことに気付いた。
ちょうど昼時だ。
そういえばこの近くに最近流行っていると報告が上がっていた店があったはずだ。
そう思い出してマリナを誘ってみれば、笑顔で頷いてくれた。
マリナと二人で席に着く。
そのことが妙にくすぐったく、嬉しく感じてしまう。
マリナはこの店のサンドイッチが気に入ったらしく、ニコニコと頬張っている。
その様子がまた子犬に見えてしまって、微笑ましく観察していた。
その後もマリナの買い物につきあっていると、ふと尋ねられた。
「アルバート殿下は視察だとおっしゃっていましたが、見ておく場所はありますか?」
どうやら俺の仕事のことを気にかけてくれたらしい。
しかし俺はチャンスだと思い、マリナを仕立て屋へと連れて行った。
そうしていつも世話になっている店主に、マリナの服を注文する。
とたん、マリナは慌てだす。
しかし、引くことはしなかった。
俺が買ってやった服をマリナが着てくれる。
それを想像するだけで嬉しい気持ちが込み上げてくるのだ。
嫌だと言われたなら仕方なかったが、マリナは嫌ではないと言う。
それならばと、多少強引に服を贈った。
やはり気になったらしいマリナから視察について尋ねられたが、適当に答えておいた。
いや、嘘ではない。
ちゃんと物価や治安の確認はしていたぞ。
次の木曜日、城の侍女からマリナに贈った服が仕立てあがったと聞き、着たら見せてほしいと伝言をした。
マナー講義の日だから、夕方になるだろうか。
見せに来てくれるのを今か今かと待っていると、執務室の扉がノックされた。
「マリナです。アルバート殿下はいらっしゃいますでしょうか?」
待ちに待った声が聞こえ、いてもたってもいられず、自ら執務室の扉を開けた。
・・・想像以上だった。
「ああ。よく似合っている。」
自然と言葉がこぼれた。
マリナが、俺の瞳の色の服を身に着けてくれている。
恥ずかしいのか、少しうつむき気味になりながら上目遣いでこちらをチラチラと見てくるのも良い。
俺色になったマリナを堪能していると、後ろから声がかかった。
「殿下、せっかっくマリナさんがいらしてくれたんですから、座って話されてはいかがですか?」
ちっ!オリバーか。
せっかく良い気分だったのに、お前の声は聞きたくなかったぞ。
そう思いながらも、マリナを立たせたままにするのは確かに良くないと考え、執務室内のソファへと案内した。
マリナはすぐに戻ると言い出したが、もう少しいてくれと頼んだ。
オリバーがさっと茶を出したのもあって、マリナはソファに腰かけてくれた。
「とても着心地が良いし、デザインも可愛いです。すっかり気に入ってしまいました。」
頬を染めながらそう言われ、内心飛び上がらんばかりだった。
しかしそれを悟られるのは気恥ずかしく、表面上は平静を装った。
そんな嬉しい気持ちをぶち壊す言葉が投下された。
「今度は私からも贈り物をさせてください。」
オリバーめ、何を言い出すんだ!
マリナは慌てて断ろうとしている。
「オリバー。あまりマリナを困らせるな。」
そこから、何故か俺とオリバーの言い合いになってしまう。
するとやがて、クスクスと笑い声が聞こえてきた。
「お二人は仲がよろしいんですね。」
マリナが笑ってそう言う。
一瞬あっけにとられたが、オリバーとは幼馴染なのだと説明する。
「私にはそこまで長い付き合いの友人はいませんので、お二人が羨ましいです。」
マリナのその言葉に、マリナは友人と会うことも叶わないのだと気づいた。
「付き合いが長くなくとも、気の合う友人は出来る。」
慌ててそう元気づけると、俺の気持ちを汲んでマリナは笑ってくれた。
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