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第二話  あなたが高僧ゲンジョウ様でしょうか?


  




 俺が着ている銀河連邦軍の戦闘服には、サーチ機能が搭載されている。

 サーチされたデータは、俺の網膜に転送される寸法だ。

 さっそくサーチしてみると、こちらに向かって来る兵士達は。


「原始的だが統一された鎧に、揃いの武器を持った騎馬1000人か」


 この程度の敵など素手でも倒せる。

 だが1000人を全滅させるとなると、1000秒は必要だ。

 つまり1000秒、約17分間の戦いとなる。

 その間、俺だけを攻撃してくれればいいが、村を襲うかもしれない。


 ところで。


『未開の星での兵器使用を禁止する』


 という一文が、銀河連邦軍の規約にある。

 だから本来なら、現地人とのトラブルは避けるべきだ。

 しかし、困っている民間人を見捨てるワケにもいかない。


「ウベントならイイか」


 ウベント88式ライフル。

 レバー操作で威力を対人から対戦車まで調整出来る。

 発射速度は、毎分12000発。

 全長1000ミリメートル程度だが、重量は15キログラムもある。

 だから、遺伝子操作手術で5倍以上の筋力を獲得した兵士にしか扱えない。


 しかしウベント88式ライフルは、威力の小さな個人装備だ。

 規約にある『兵器』にはあたらない。

 ……というコトにしておこう。


 という事で。

 俺は戦闘服に内蔵されている通信機に呼び掛ける。


「ナナホシ。ウベントを1丁、転送してくれ」


――了解しました。


 同時に、ウベント88式ライフルが目の前に転送された。

 俺は慣れた手つきでウベント88式ライフルを空中でキャッチすると。


 チャキ。


 威力調整レバーを対人モードにセットし、騎馬兵に銃口を向けた。


「正式な軍隊のように見えるが……戦争時には平気で略奪するヤツもいるしな。さて、コイツ等の目的はナンだろ?」


 ウベント88式ライフルなら1000人の騎馬兵など10秒で全滅出来る。

 だから騎馬兵が敵だとしても、ナンの心配もいらない。

 と、余裕で相手の出方を伺っていると。


「全隊、止まれ!」 


 村から200メートルほどの距離で騎馬兵は停止した。

 と、先頭の騎馬兵が1騎でやって来くると、俺の前に片膝を突く。

 敵意はなさそうだ。


 この兵士、着ている鎧が他の騎馬兵よりも立派だ。

 おそらく彼が指揮官なのだろう。

 その立派な鎧を身に付けた兵士が、膝を突いたまま俺を見上げる。


「私はスーパー大唐国の将軍で、エガンという者です。素晴らしい力を持った高僧がこの村におられると聞き及んだ皇帝の使いとして参りました。あなたが高僧ゲンジョウ様でしょうか」


 スーパー大唐国? 

 俺の生まれ故郷の地球の言葉にソックリだが……。

 ナンで英語と中国語が混じってんだよ。

 ふざけてんのか? 

 いや、コイツの顔はクソ真面目だ。

 冗談を言っているようには見えない。

 まあ、深く考えるのは後にするとして、俺は高僧なんかじゃないぞ。


「高僧? ゲンジョウ? 人違いだな」


 さっそく俺は否定したが。


「はい。その方こそが、深淵なる知識と追随を許さぬクンフーで、この地を楽園に変えられたゲンジョウ様でございます」


 いつの間にか俺の隣に現れて、そう言い切ったのは村の長老だった。

 

 ちなみに俺は、この村ではゲンジョウと呼ばれている。

 もちろん俺の名は健三で、ゲンジョウじゃないと何度も言った。

 だが発音が、俺の生まれ故郷の地球と微妙に違うせいだろう。

 皆は俺のコトをゲンジョウと呼んでいやがる。

 まあ、それは仕方ないとして。


「長老。俺は高僧なんかじゃないぞ」

「徳の高い方ほど『自分はまだまだ修行が足らぬ』などと言われるものです。最初は仙人様かとも思いましたが、誰も知らぬ膨大な知識に、どれほどの修行を積めば得られるのか見当もつかぬクンフー。儂はゲンジョウ様こそ、このスーパー大唐国でも1番の高僧であると確信しております」


 どうやらこの星で『僧』とは、様々な知識と高い戦闘力を持つ存在らしい。

 仙人と高僧の違いは良く分からないが。

 まあ、それは置いといて、俺はエガンに聞いてみる。


「で、そのスーパー大唐国とやらが俺にナンの用だ?」

「それは皇帝陛下から直接聞いて頂きたい。つまり我々と一緒にスーパー大唐国の都にお出で頂きたいのです。どうかお願い申し上げます」


 俺はエガンの頼みに考え込んだ。

 皇帝という事は、この国の最高権力者という事。

 もちろん、ナナホシのエネルギーを補給してもらう事などムリだろう。

 しかし仮にも相手は、この星で皇帝を名乗る権力者だ。

 エネルギーを手に入れるのに役立つ情報を得られるかもしれない。


「よし、行こう」


 こうして俺は、エガンと共にスーパー大唐国へと向かう事にしたのだった。




「我が名は混成魔王! このオレ様の縄張りを通りたけりゃ金を置いてゆきな!」


 そう叫んで騎馬隊の前に立ちふさがったのはどう見ても人間ではなかった。

 しかも背後には、数え切れないほどの異形のモノが蠢いている。


「あれは何だ?」


 俺の問いにエガンが青い顔で答える。


「最近この辺りで勢力を伸ばしてきた妖怪です。金目の物を奪い、その時の気分で人間を食らう事もある、危険な連中です」


 サーチしてみると、混成魔王と名乗った妖怪の部下は1013匹いるようだ。


「敵の数は全部で1014だ。勝てるか」


 俺の問いに、エガンの青い顔が白くなってしまう。


「1014匹もいるのですか……見たところ全てが妖怪のようです。おそらく100匹倒したところで我々は全滅すると思われます。全財産を差し出すしか……」


 だんだんと言葉が小さくなっていくエガンに俺は尋ねる。


「そうか。ところで全滅させて何か不都合はあるか」

「は? 不都合どころか、この地の民がどれほど助かる事か」

「なら俺に任せろ」


 ウベント88式ライフルを連射モードに切り替えて、と。


「パワーは対人間用でイイか」


 俺は小さく呟くと、ウベント88式ライフルを発射する。


 ヒュォオオオオオオオ!


 余りにも発射速度が高い為、発射音が繋がって聞こえる。

 そんな超高速連射を浴びて。


「ひぎゃぁぁぁぁぁ!」

「何だコレはぁぁぁ!」

「ぎゃひ!」

「グワッ!」

「ぐひぃぃぃ!」

「おげあ!」

「ひ!」


 妖怪達はハチの巣どころかミンチになっていく。

 そして。


「な、なんという法力! さすが噂に高い高僧、ゲンジョウ様!」


 エガンがそう叫んだ時には、妖怪の大群は血の海へと姿を変えていた。

 だけど今、法力って言ったか?

 また何か、カン違いしてるみたいだな。

 ま、それはおいといて。


「恐ろしい法力だな。しかしオレ様には通用しない。この程度の法力ではオレ様に手傷を負わす事など出来ぬわ!」


 20匹ほどの妖怪を従えた混成魔王が、無傷で俺を睨んだ。

 どうやらコイツ等、対人弾に耐えられる程度に頑丈だったらしい。

 その上、5メートルほどに巨大化している。

 これが正体なのだろうか。


「ゲンジョウ様……」


 不安そうな顔のエガンに俺はニヤリと笑うと。


 ガシャン。


 ウベント88式ライフルのパワーを対戦車モードに切り替えた。

 と同時に連射レバーを単発に切り替え。


「コレを食らっても同じ事が言えるか」


 そう言いまがら、引き金を引く。


 パウッ!


 そのエネルギー弾は、部下妖怪の1匹に命中すると。


「ぎゃが!」


 人間が通り抜けられるほどの大穴を胸に開け。


「ぎはっ!」

「おげ!」


 その後ろにいた2匹の妖怪をも貫通した。

 対戦車モードとは、10t爆弾の直撃にも耐える戦車を撃ち抜く為のもの。

 このレベルの生物に耐えられるワケがない。


『な!』


 1度に3匹も部下を倒され、混成魔王達が立ちすくんだトコで。


 パシュパシュパシュパシュパシュ!


 残った妖怪達と混成魔王を、俺は3秒で射殺した。


「何という法力! 最初の法力にも驚きましたが、2度目の法力の、何と強力な事か! いや恐れ入りました、間違いない! あなたこそスーパー大唐国で1番の高僧です!」


 興奮しているエガンに、騎馬兵1000人までもが騒ぎ出す。


「ゲンジョウ様!」

「ゲンジョウ様!」

「ゲンジョウ様!」


 いつまでもゲンジョウ様コールが続く中、俺はボソリと呟く。


「どうでもイイ事だが、俺の名は健三だ」



 遭遇する妖怪達をウベント88式ライフルで始末する旅を続ける事10日。

 俺達はスーパー大唐国へと到着した。


ーー健三の生まれた星、地球の過去に栄えた文明に酷似しています。


 ナナホシに指摘されるまでもなく、それは俺も感じていた。


「10世紀ころの中国に似てるな。はぁ、この程度の文明レベルじゃ残念ながらナナホシのエネルギー調達は無理っぽいな。せめて有望な情報だけでも聞ければイイんだが……」


 覚悟はしていた。

 が、それでも厳しい現実に落胆している俺を、エガンが皇帝の居城に案内する。


「太宗皇帝陛下が住まわれる城、ビック紫禁城です」

「ほう」


 俺は巨大で荘厳な、見事な宮殿に目を奪われた。

 ビック紫禁城というネーミングセンスにはちょっとヒクが。


「まあ焦っても仕方ない。この世界を見て、出来るコトを行う。それでイイか」


 最悪でも250年待てばナナホシのエネルギーは満タンになるのだ。

 それに、ひょっとしたら銀河連邦軍の捜索隊が来てくれるかもしれない。

 そう開き直ると、スッと気が楽になる。


「考えてみたら戦いに明け暮れた人生だった。たまには観光というモノを楽しんでみるのも悪くないかもな」


 そう考えを変えてみると、急に開放感が湧いてきた。

 どうやら自分で思っていた以上に俺は、軍の上層部に嫌気がさしていたらしい。

 確かに、ムチャクチャな命令ばっかだった。

 俺じゃなかったら死んでたぞ。

 よく考えたら、腹が立ってきた。


「よし! 人生で初めての休暇だ! この星を楽しもう! その過程でナナホシのエネルギーを確保出来ればそれで良し。確保出来なくても、それはそれで良しだ」


 すっかり休暇気分に頭をチェンジすると。


「太宗皇帝陛下! 噂の高僧、ゲンジョウ様をお連れしました」


 いつの間にか謁見の間に到着していたらしい。

 エガンが荘厳な椅子に座っている、30台後半の男性に平伏した。

 目の輝き、顔つき、物腰、体全体から発せられる気。

 そのどれもが聡明な人物である事を静かに主張している。


「そなたがゲンジョウ殿か。ガンダーラ国に行き、経典を持ち帰ってくれぬか」

「意味が分からないのですが」


 相手は皇帝だし、ナナホシのエネルギー確保につながる情報も欲しい。

 だから俺は、出来るだけ穏やかに質問してみた。


「これはすまぬな。いきなりでは意味が分からぬのも当然の事」


 意外な事に太宗皇帝は詫びの言葉を口にした。

 思った以上に好人物らしい。


「要点だけ言うと『西方浄土ガンダーラ国まで、世を救済するありがたい経典を取りにくるように』という観音菩薩様のお告げがあったのだ。しかしガンダーラ国は遥か彼方。しかも妖怪が出没する地域を通らねばならぬ。これは並みの人間では不可能な旅だと困り果てておった」


 太宗皇帝は静かにそう言うと、俺を正面から見つめる。

 穏やかだが強い意志の籠った、澄み切った目だ。


「そんな時であった。野盗を全滅させ、荒れ地を豊かな地に変えるほどの法力を持った高僧が現れたとの報告を受けたのは。それほどの法力を持った其方ならば、きっと経典を持ち帰ってくれるに違いない。どうか民の為、ガンダーラ国まで行ってくれぬか」

「俺にそんな力はありませんよ」


 太宗皇帝の頼みに俺は即答したが。


「そんな事はありません!」


 話に割り込んできたのはエガンだった。


「混成魔王と1000の部下妖怪を1分もかからずに全滅させたその法力、間違いなくスーパー大唐国で最強です」


 エガンの言葉に太宗皇帝が目を丸くする。


「何と、あの混成魔王をか!? しかも僅か1分だと!? にわかには信じがたい話だがエガンがそう言いうのならば、それは事実。となれば、ゲンジョウ殿は国で1番の高僧に違いない! どうかガンダーラ国から経典を持ち帰り、スーパー大唐国を御救いくださらぬか」


 頭を下げる太宗皇帝。

 俺は正直、驚いた。

 大国の皇帝でありながら何のためらいもなく頭を下げた事に。

 この皇帝の為なら力を貸してやってもイイかも。

 とはいえ、気になる事は聞いておこう。


「大国の皇帝が一民間人に頭を下げる意味、十分に理解しました。しかし観音菩薩ほどの力があれば、経典を今ここに出現させる事は簡単なハズ。それなのに生きて帰れるか分からぬ旅をして取りに来いとはどういうコトでしょうか?」

「む」


 考えた事もなかったのだろう。

 言葉に詰まる太宗皇帝に、俺は更に続ける。


「多くの民の為というなら、今すぐ経典を届けてくれればイイ。ガンダーラ国までの往復に費やされる年月の分、余分に民を救う事が出来る。それにもし旅に失敗したら経典を得る事は出来ない。観音菩薩の言っている事は不確実過ぎると思いませんか?」


 俺の指摘に太宗皇帝は考え込んでしまう。


「困りましたね」


 そこに声を上げたのはエガンだった。


「観音菩薩様の言葉に疑念を持つ者がいるとは思いもしませんでした」


 おだやかな笑みを浮かべるエガンにキッパリと言い切ってやる。


「観音菩薩ほどの力があればガンダーラ国までの旅は不要。それを敢えて旅させようとするのは、理由か企みがあるからだと思うのは普通だろ? ひょっとしたらニセの観音菩薩かもしれない。皇帝、その観音菩薩は間違いなく本物の観音菩薩でしたか」


 俺の問いに太宗皇帝は口ごもってしまう。


「いや、本物かと言われても、そう直感したとしか……」

「仕方有りません。本物にお出で願いましょう」


 エガンがそう口にすると同時に、いきなり観音菩薩が現れた。

 その神々しい光に包まれた姿に、見た者全てが本物の観音菩薩と確信する。


「エガン、お前」


 俺が睨むとエガンが苦笑した。


「私は前世、観音菩薩様の弟子でした。観音菩薩様の命を受け、今日この日の為に人間に転生して準備していたのです」


 が、エガンの言葉を鵜呑みにするワケにはいかない。


「ナナホシ、超精密スキャンだ」


 俺はマザーコンピューターに、自称観音菩薩を調べさせたのだった。





2020 オオネ サクヤⒸ

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