第一話 銀河連邦軍は、理不尽を許さない
ズッズゥン!
「これは!」
俺は大きな揺れを感じて、ベッドから飛び起きた。
人口惑星であるここ=銀河連邦軍特殊開発基地に地震など起きるわけがない。
「ち!」
俺は小さく呟きながらも俺は40秒で戦闘服を身に着け、必要最低限の物を収納したサバイバルベストを装備し、腰に愛用の銃とナイフを装着する。
長年の軍隊生活で体に染み込んだ、条件反射だ。
そこにスピーカーから流れたのは。
『敵襲! 総員、戦闘配置!』
「やっぱりそうか」
俺は、転送機に飛び込む。
転送先した先は宇宙戦闘艦=コードネーム『ナナホシ』のブリッジだ。
対星雲団戦闘艦は、300キロメートル級が標準サイズだ。
その対星雲団戦闘艦を、全長7キロメートルに小型化。
さらに攻撃力と防御力をアップさせた。
それが銀河連邦軍の最新鋭艦ナナホシだ。
銀河連邦の叡智の結晶といっても過言じゃない。
ちなみに、俺の名は森山健三。
この開発基地の人間ではない。
銀河連邦軍最強といわれる、第229機甲師団強襲連隊所属の兵士だ。
俺の任務は、この最新鋭宇宙戦闘艦ナナホシを我が連隊に移送するコト。
ここでナナホシを失うワケにはいかない。
ナナホシの艦長席に陣取ったトコで、緊急アナウンスが聞こえてくる。
『エネルギー炉損傷! 基地より脱出をせよ!』
「くそ!」
大急ぎでナナホシの防御フィールドを起動させて発進させる。
この人口惑星のエネルギー炉が爆発したら、この宙域ごと消滅しちまう。
目的地をインプットする暇すら惜しい。
とにかく基地からナナホシを脱出させようとしたが。
「カンベンしてくれよ!」
ちくしょう、宇宙空間へと通じる装甲ゲートが閉じたままだ。
「惑星級砲発射用意!」
俺はマザーコンピューターに向かって叫ぶ。
惑星級砲とはその名の通り、惑星戦争クラスで使用する砲の事。
ナナホシの装備の中では3番目に弱い武器だ。
が、その威力は大陸すら撃ち抜く。
しかし、それより先に。
――防御フィールド、パワー全開します。
ナナホシのマザーコンピューターが、そう告げた。
マザーコンピューターが、俺の命令よりも防御を優先した!?
という事は、爆発に巻き込まれるという事か!?
そう心の中で叫んだ瞬間。
目の前が真っ白に輝き、何も分からなくなってしまった。
ナナホシの艦長席で意識を取り戻すと同時に。
「ナナホシ。現状を報告してくれ」
俺はナナホシのマザーコンピューターに尋ねた。
どんな規模の戦闘艦も、コンピューターのアシストなしには機能しない。
どれほど小さな戦闘艦であっても、幾つものコンピューターを搭載している。
その無数のコンピューターを統合するのがマザーコンピューターだ。
そしてマザーコンピューターを、戦闘艦の名で呼ぶのが軍の通例。
だから。
最新鋭対星雲団戦闘艦ナナホシのマザーコンピューターの名はナナホシだ。
そのナナホシの声が淡々と現状を告げる。
――基地が爆発した際に発生した次元断層に飲み込まれました。
本艦は現在、未知の惑星に不時着しています。
なお、防御フィールドを全開したコトにより残存エネルギーゼロ。
航行は不可能です。
霊子領域にナノマシンを散布してエネルギー確保中。
航行に必要なエネルギーを確保するまで250年かかります。
「ふう」
思わずため息が出ちまう。
遺伝子改造手術により、俺は約400年の寿命を持っている。
それでも250年は、気が遠くなるほど永い年月だ。
が、それよりも今は、現状確認だ。
「不時着した惑星のデータを」
ーー重力、約1G。
大気、呼吸可能。
現在位置の気温、21度。
Eクラスの文明を持つ炭素系ヒューマノイド型生物を確認。
原始的生命体、及び第17霊子階級生命体確認。
なお第16霊子階梯エネルギーを利用した技術を持つ個体も存在。
「ほう、ヒューマノイド型のいうコトは人間が住んでるんだな。で、16霊子階梯エネルギーってコトは、魔法とか仙術とか呼ばれるヤツを使うってコトか」
Eクラスの文明とは、銃すら発明されていない原始的な文明レベルをさす。
だから危険値は低いと言える。
しかし第16霊子階梯エネルギーを利用した技術となると、油断できない。
第16霊子階梯エネルギーを利用した攻撃=通称攻撃魔法で、大陸が破壊されるのを見たコトもあるからだ。
そして第17霊子階級生命体とは、神とか仏と呼ばれる存在。
つまり神とか仏が、この星で活動しているという事になる。
まあ、殆どの星に神は住んでいるが。
「しかし250年も待てないな。エネルギーを入手できないか、偵察してくる。この周りの地図を見せてくれるか」
――はい。
ナナホシが周囲の3Dマップをブリッジの中央に映し出す。
どうやら人里離れた山奥に不時着したようだ。
1番近い人間の住む場所まで500キロメートル以上も離れている。
「ナナホシ、俺をこの人間が住んでいる場所の近くに転送してくれないか。ナナホシはステルスモードで待機していてくれ」
――了解しました。
「さてと」
偵察へと出発するか。
「これは、とんでもない田舎惑星だな」
人間が住んでいる場所は、俺の目からすると野宿と大差ないレベルの村だった。
木造の粗末な家。
木を燃やして調理する原始的な台所。
人力で畑を耕し、肉や魚は狩猟によって手に入れる。
俺の生まれ故郷である地球の数万年前の状態だ。
ただし俺に自分達の方が上という認識はない。
『物質的に豊か=精神的に豊かではない』
という事を、今まで思い知らされたから。
とはいえ。
「
これはナナホシのエネルギーを現地人の協力で調達するコトは不可能っぽいな」
思わずため息をついた、その時。
「うっぎゃあぁぁ!」
悲鳴が村に響き渡った。
さっそく悲鳴の上がった村の中央部へと向かってみる。
情報収集は戦闘の基本だ。
物陰から様子を伺ってみると。
悲鳴が聞こえたのは、村の中央に作られた広場からだった。
「お願いします! それは来年の為の種モミ! それを持っていかれては、この村は滅びてしまいます!」
広場では1人の老人が、見るからに悪党といった男達に訴えていた。
未知の言語だが、戦闘服に搭載されている万能翻訳装置が勝手に通訳してくれる。
「うるせぇ!」
悪党どもの1人が老人を蹴り飛ばした。
「あぎゃぁぁ!」
悲鳴を上げながら吹っ飛ばされる老人。
顔は腫れ上がり、身体中に血が滲んでいる。
にも関わらず、老人は必至に起き上がると悪党に頼み込む。
「種モミさえあれば来年も収穫できるんだ! 収穫できたらアンタたちにも分けてやる! だからその種モミだけは……」
「分けてやるだぁ? ナニ上からモノ言ってんだよ!」
弱い者が強い者に蹂躙される。
今までに何度も見てきた光景だ。
しかし銀河連邦軍は、そんな理不尽を絶対に許さない。
「やめろ」
俺は静かに言い放った。
「ああ?」
いかにも悪党のボスです。
といった大男が手にした湾曲した刀を見せつけながら、こちらへと向かって歩いてくる。
40歳くらいだろうか。
「オメエ、今ナンつった」
ボスらしき大男が凄む。
手下の数は21人。
その21人の手下を従えるボスに、俺は分かり易い言葉を選んで言ってやる。
「頭が悪い上に耳まで悪いのか。止めろと言った」
その一言で、ボスの顔が一気に赤黒く染まった。
「ぶち殺せ!」
ボスの命令で悪党どもが一斉に襲いかかってくる。
武器を持った22人との戦闘。
普通なら勝ち目のない戦いなのだろうが。
「そらぁ!」
俺がボスの左脚を掴んで、人形のように振り回すと。
「うぎゃ!」
「ひぃ!」
「ごしゃ!」
「あぎ!」
「ぶぺ!」
1振りで5人が吹っ飛んでいって壁に叩き付けられる。
そして更に5回ほどボスを振り回すと。
グシャグシャグシャァ!
21人いた悪党どもは手足をありえない方向にへし曲げて壊滅した。
銀河連邦軍の兵士は遺伝子強化手術を受けている。
だから銀河連邦の兵士は、最低でも常人の5倍の力を獲得している。
そして俺は特に優れた適応性を発揮し、100倍の力を得ている。
付け加えると、銀河連邦軍の兵士は高度な戦闘技術を叩き込まれている。
そんな銀河連邦軍兵士が100倍に身体能力をアップさせているのだ。
こんな田舎惑星の原住民ごとき、素手で十分だ。
まあ、自慢だが。
そして見るからに悪党、といったクズを全滅させた俺に。
「どうもありがとうございました」
老人が礼を言ってきた。
が、そこで俺はワザと意地悪な質問をしてみる。
「俺が怖くないのか。20人を瞬殺したのだぞ」
そんな俺の言葉に、老人は覚ったような笑みを浮かべた。
「とんでもございません。アナタ様の人間とは思えぬ強さから察するに、位の高い仙人様でいらっしゃるのでございましょう。しかもアナタ様は野盗から村を守ってくださいました。恐れる道理などございませぬ」
そういえばマザーコンピューターが言ってたな。
この星には一六霊子階梯のエネルギーを使う者が存在すると。
恐らく、それをこの星では仙人と呼んでいるのだろう。
「貧しい村ですが、せめてものお礼に今夜は泊まっていってくだされ」
老人の勧めに、一泊するコトにする。
この星の情報を少しでも多く手に入れる為だ。
話を聞いてみると。
老人は200人ばかりが暮らす、この村の長老だった。
彼の話によると、この村はこの辺りで1番大きな村らしい。
しかし作物は育ちが悪く、常に村人は飢えているとのこと。
「それでも、この辺りでは1番マシな村です。今まで枯れた事のない井戸があるので、水だけは不自由しませんから。しかしその分、野盗や山賊に襲われる事も多いのです」
話を聞きながら、もてなしの食事に目をおとす。
薄い粥に僅かな漬物、それだけだ。
常人が生きていける栄養量じゃないぞ。
それを裏付けるように長老が話しだす。
「村で生まれた子供の半分は1月以内に死にます。そのまた半分が1年以内に死にます。働いて働いて、働きに働いて40歳を超える頃には人生を終える。それがこの村です。儂のように70まで生きる者は10000人に1人くらいでしょうか」
様々な星で嫌になるほど聞いてきた話だ。
しかし俺は銀河連邦軍の兵士。
最低限の知識は叩き込まれている。
その上、ナナホシのマザーコンピューターまで活用できる。
この人々を見捨てるという選択肢はない。
「少しは力になれると思う。明日、畑を見せてくれ」
「ほ、本当ですか、仙人様! おお、これで生まれてすぐ死ぬ子供が、少しでも減れば……ありがとうございます、ありがとうございます……」
長老は涙を流しながら、何度も礼を繰り返したのだった。
ナナホシの土地をサーチさせた結果。
作物が育たないのは、肥料が適切でないからだった。
だから俺は、畑の土に近くの森から持ってきた腐葉土を混ぜる。
と同時に、こっそりと作物を遺伝子操作してやった。
それにより荒れ地同様だった村の畑は、1か月で豊かな畑へと変化した。
子供が幼くして死ぬのも、40前後で死ぬのも、明らかに栄養失調だ。
作物さえ豊かに実れば、死者は大幅に減る事だろう。
しかし、全てが順調だったワケじゃない。
ここ1か月の間、何度も野盗の襲撃があった。
だが、俺にとって一般人など赤子以下。
逆に近隣の野盗を全滅させてやったぜ。
ついでに村の周囲を、丸太の壁で囲んでやった。
かなりの重労働だが、俺のパワーの前じゃ、暇つぶしみたいなモンだ。
「ここまでくれば大丈夫だろう」
俺は、隣に立つ長老に声をかけた。
「はい。……旅立たれるのですね」
長老の言葉に頷く。
「ああ。俺には任務があるからな」
「ならば御引き止めするワケにはいきませぬ。お世話になりました。任務とやらの事、儂ごときには想像も出来ませぬが、達成出来る事を心より祈っております」
「ああ、元気でな」
別れを簡単に済ませ、村を旅立とうとしたその時。
「凄い数の兵隊が村に向かって来ます!」
1人の村人が大声を上げながら駆けこんで来たのだった。
2020 オオネ サクヤⒸ