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ディザスターゲーム  作者: 神谷秀一
1/3

01

 銃声。

 弾けるのは小さな何かの頭部と音鳴りにしぶく木の葉の破片。しかし。それを乗り越えてくるのは多数の小さき異形。そして、それは多数といっても「波」の様相を示していた。

「くそっ! きりがねぇぞ!?」

 周囲に並び立つのは背の高い樹々。微風に葉がさざめき、月の光すら遮っている。

 視界はほぼないに等しいのに、押し寄せる波の異形は暗闇の中でも黄色の瞳を爛々と輝かせていた。

「とりあえず走れ! 中途半端な足止めなんて意味が無い!」

「テメェの持っている剣は飾りかよ?!」

 暗闇の中走るのは二人の少年。一人目は金色に染めた中途半端な髪の長さの彼は黒い衣装をまとっていた。その右手に持たれるのは銃口から硝煙のたなびく拳銃。

「あんな連中相手していたら飲み込まれるに決まってる!」

 並び走るのはきらびやかな銀髪を短くまとめた軽鎧をまとい、背中に剣を携えた少年だった。

「剣と魔法の世界から来たんだったらなんとかしろよ!」

「ロストマジックを使う貴様がなんとかしろ!」

 彼らの会話はお互いにかみ合っていないようだが、背後から迫る脅威は等しく存在しているようだった。

 幸い彼らを追う速度と走る速度はほぼ同じ、もしくは若干少年たちの方が早いかもしれない。しかし、追われる者はそんなこともわからないし、それこそ、それどころではないのだ。なぜなら、追いつかれたが最後、文字通り波に飲み込まれるのだ。

 視界すらろくにない暗闇の中で樹々を避けながら走り抜ける。そんなことは誰しもできることではない。

 なのに彼らは走り続けている。

「おい、勇者」

「何だ十夜?」

 銀髪の少年が言葉を受ければ、

「テメェはこの世界の法則をある程度理解してるよな?」

 金髪黒衣の少年の言葉に彼はうなずく。

「だったら話は簡単だ。飲み込まれる前に全部ぶち殺すぞ!」

「それができないから俺達は走っているんだろう?!」

「それができるから俺達は生き残っているんだろうか!」

 それに、と彼は続ける。

「殺すのは俺達じゃねぇ。この世界がだ!」

 言って彼は右手だけを背後に向けて三連射。数と同じだけの何かが倒れるが押し寄せる波のまま飲まれて消えた。

「意味のないことをするな! 数に限りがあるんだろ?!」

「いいや、そんなことはないさ。無限にあるに決まってんだろ?」

「そんなわけが・・・」

 その言葉に金髪の少年が薄く笑う。

「異世界の勇者、テメェは頭が固い。だからこそ、その脳みそをぶち抜いて柔らかくしてやってもいいんだが、今はその時間が惜しい」

「何が言いたいんだ?!」

 金髪黒衣の少年は目を細くし薄く笑う。

「あと十歩走れば断崖絶壁、その下はただの溪谷、落ちれば死ぬ」

「絶望しかないじゃないか!」

 だが、と言葉を続けて、

「全力で飛べ。そうすりゃ向こう岸にたどり着ける」

「なんでそんなことがわかるんだ? この森だって初めて入ったはずなのに・・・」

 わずかな先すら見えない暗闇の中でなぜそんなことがわかるのかという疑問は当然のことだ。だが、金髪黒衣の少年は薄く笑ったままだ。

「イメージしろ。あと数歩で森を抜ける。そして、断崖を越えられなきゃ俺達は死ぬ。だから、全力で走って全力で飛べ」

 同時に彼は拳銃を三連射。

「給弾していないのに・・・」

「弾は無限にあるって言っただろ?」

 その言葉に銀髪の少年は戸惑いながらも頷く。

「そうだな。全力で飛ぶぞ!」

 納得はしていない。しかし、迷いの消えた表情だった。だからこそ、前傾姿勢になり全力で走る。

 草のすえた匂い、土混じりの腐臭。それが、数歩走り抜けた瞬間、広がる夜空に変わった。

「飛べっ!」

 爪先が大地を踏んで空に舞う。先なんて何も見据えてない。しかし、確信があった。少なくとも金髪黒衣の少年にはある種の未来が見えていた。実際それは的中し、いくばくかの浮遊感の後に顔をかばった腕から地面に叩き付けられた。

 しかし、止まることなく受け身を取りながら起き上がって拳銃を構える。そして、その視界に映るのは、突如現れた断崖絶壁に雪崩落ちていく異形の波の姿だった。悲鳴や奇声は当然のことだが、どちらかといえば戸惑いの方が多いように聞こえる。それこそ、こんな断崖絶壁なと想像していないからこその。だが、そんなことは関係なく彼らは落ちていく、飲まれている。飲み込もうとしていたにもかかわらず飲み込まれていく。

「・・・ふぅ。生き延びたようじゃねぇか」

「油断するな!」

 言葉と同時に飛び出してきたのは緑の肌を持つ異形。その手に持つのは粗末な刃だが、瞳に宿るのは獲物に対する殺意だけ。

 黒衣の少年は油断しているつもりはなかったが、それよりも先に錆びた刃が吸い込まれるようにして、

 一閃。

 走る刃が軌跡すら残さずに走り抜けた。

 遅れるようにして異形の体と錆びた刃が横にずれながら地面に落ちる。

「悪い。助かった」

「お前は鋭いのか抜けているのかわからないな」

 そんな言葉に金髪黒衣の少年は苦笑。

「あのな、ただの殺し屋が、こんなイレギュラーに対応できるわけがないだろうが」

「殺し屋がなんでこんなところにいるんだ?」

「異世界勇者にそんなこと言われたくねぇよ」

 言葉だけでいうなら彼らはお互いの世界の住人ではない。

 金髪黒衣の少年は地球と呼ばれる世界の人間であり、殺し屋と呼ばれる職業の人間だった。

 一方、銀髪の少年はアレクサンド王国という国の出身者。まかり間違っても混じりあうはずのない人種である。

 しかし、彼らは今共にいる。

「異世界転生とか異世界転移とかマンガとか小説の中だけだと思ったんだけどな」

「私の世界にもそういう娯楽物語はあったな」

「まじで?!」

 今も異形たちが断崖絶壁にのまれながらも彼等は言葉を交わす。

「とはいえ、この世界は俺つえーーーーーーーとか、ハーレム展開の世界じゃないんだよな」

「そもそも、私の世界なら私が最強だしな」

「なら、さっきの何とかしろよ!」

 金髪黒衣の殺し屋は言いながらわかっている。どうしようもないこともあるのだと。

「くそが、殺せば終わるだけなら簡単なのに、なんでこんなに面倒なんだ…」

 本来なら言語すら交わらないだろう。本来なら世界線すら交わらないだろう。

 しかし、彼らは今共にいる。そして、それはこれからも変わらないだろう。

 なぜなら、彼らは呼ばれたからだ。

 この世界に。

 この現象に。


                     怨                                              念から                                            始まる現象                                          に始まりを。し                                        がみつく後悔に救い                                      を。救いのない未来に諦                                      観を。纏わりつく希                                        望を投げ捨てて、                                         絶望に絶望を                                           塗れさせ                                             て、           




      




        死よりも辛い未来を望もう。それは、すべての世界線に向けて始めよう。

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