表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

前編。無限ゴブリン、そのカラクリ。

「くそ、限りがねえ。こいつらいつまで湧いて来るんだ!」

 大量に湧いて来るゴブリンを切り捨てながら、俺は好転しない状況に悪態をついた。

 仲間を逃がすために殿しんがりを買って出て、もうけっこうな時間経ったはずだが、

 どこからか湧いて来るゴブリンどもは、一向に数を減らさない。

 まるで、なにかが作り出しているかのように、まったく数が減らないのだ。

 

「いい加減にしてくれ、剣振るのだってただじゃねえんだ!」

 肩で息をしながら、虚空に不平を吐き出す。

 ゴブリン軍団が途絶えたことで、緊張の糸が緩んでな。

「……ん?」

 敵がいなくなったことでようやく開けた空間に、俺は魔力の光を見た。

 

 「てめえかあああああ!!」

 怒りに任せて光に駆け込む。

 その白い魔力光には、目立つ黒い文字でこう書かれていたのだ。

 

『ゴブリン無限沸き権、使用中』

 

「誰が作ったなんなのかは知らねえが。こいつをぶっ壊せば、

これ以上ゴブリンは出ないはずだな!」

 これまでの殿しんがりの時間を怒りに変えて、俺は拳を握り込む。

 剣は軽く地面に投げるように落とした。そのおかげで、ガッッって言う、

 とても剣が落ちたようには聞こえない、寸詰まりな音が鳴った。

 

「ん、あ?」

 間抜けに裏返った声が出てた。

 見れば、停止の文字が魔力光の右下に、やっぱり黒文字で見える。

 

「……押してみる蚊」

 好奇心って奴は一度火が付くと、そう簡単には収まってくれないもんで、

 気になったからには押してみたい。そのうずきが、

 俺の拳の握りを甘くする。

 構造や使い方はわからない。が、見えてる以上は振れればなにか起きるはずだ。

 

『ゴブリン無限沸き権の使用を中止します。よろしいですか?』

 

 文字がかわった。俺は「はい」って文字に触れる。

 すると、魔力光は薄くなって行き、うっすらと残る程度になった。

「なんなんだ、これ?」

 どうも、四角いなにからしい。手に取ることができそうなので、

 俺はその、薄い四角を手に取った。

 

「魔法のアイテムか? こんなの見たことないぞ?」

 ひっくり返したり逆さまにしたりしてみたが、

 裏側にカエルがでっかく書かれた、薄っぺらい板みたいな四角形で、

 魔力で動くらしいことしか、これについてはわからない。

 

 剣を拾って、二度三度振り血を飛ばしてから、

 鞘に納めて一息つく。

 いつもやってることだけど、今回はあれだけゴブリンを斬ったにもかかわらず、

 血が一滴も飛ばなかった。四角い奴が作り出した物は、

 生き物とはなにか違うらしい。

 

 

「いろんな文字が書いてあるな。えーっと?

魔力ガチャ。スキル管理。発動スキル選択。

……なんだこりゃ? 特にガチャってのはなんだ?」

 発動スキルってのは、おそらく今さっきまで使用中になってた

 ゴブリン無限沸き権みたいなもんなんだろう。

 

「魔力ガチャ。もしかしてこれは、使い手にスキルとかって奴を

使えるようにする準備をするものか?」

 好奇心、再び。

 

「やってみるか」

 当面の危険が回避されたことで、俺はこうして

 余裕を持っていられるわけである。

 仲間たちは、もうダンジョンから出てるだろうしな。

 

 

 魔力ガチャの文字に触れる。すると、種類があるようで

 ガチャ選択なる文字と、その種類らしいのが出てきた。

 

「アイテム、スキル、サポーター、ごちゃまぜ。

せっかくだ、ごちゃまぜって奴にしてみるか。

えっと、単発と十連ってのがあるのか。

じゃあ、十連ってのにしてみよう。

 

ええっと、『OK』の文字が点滅するまで、

この端末に魔力を注いでください、と。よし」

 文字の指示に従って、俺は四角い奴に魔力を注いでいく。

 

「くっ。案外魔力食うな。まだか、けっこうギリギリだぞ?」

 無限沸き権によって、本当に無限とも思える数の

 ゴブリンと戦わされたせいで、体力も魔力も

 けっこう消耗してるんだ。

 

 最初のうちは、後ろから援護射撃が来てたが、

 すぐにそれも来なくなった。その段階で、仲間が完全に

 逃げに徹したわけだ。それを確認して、俺は戦闘に更に身が入った。

 ここを通すわけにはいかねえ、ってな。

 

「ぜぇ……ぜぇ……ようやくか」

 OKの文字が点滅し始めたのを確認して、俺は魔力を注ぐのをやめた。

「で、この文字に触れればいいんだろうな、たぶん」

 推測を実行。すると、

 

『デマーシター!!』

 

 のぶとい男の叫び声が、突如した。

「なんだ?!」

 間の抜けた裏声が出ていた。

 おそらくだけど、音源は四角い奴だ。

 

 なにか、文字がドバーっと白い中に現れた。

「今度はなんだ!?」

 いらだったような言い方になっちまったけど、とにかく驚いた。

 驚かざるを得ない。

 

 なぜなら、四角いのが宙に浮いたかと思うと変形を始め、

 キノコの傘みたいな形になったら、そこから大量になにかが降って来たのだ。

 おそらくはなんだけど、ガチャを押した時に流れ出た文字の内容を、

 具現化したんだろう。

 

 ゴブリンの無限沸きなんてことを、本当に引き起こせる物だ

 そんなことをやらかせても不思議はない。

 つってもゴブリンを倒した実数はわからないけどな。

 やたらにもろくて、すぐ倒せたところから、

 本物には劣るんだろう、この具現化能力は。

 

 元の四角に戻った物体は、力を使い果たしたか落下を始めたので、

 慌てて確保。落下後も消えない物品を見やる。

「十連ってことは、たぶんおっこって来たのは十個のはず」

 数を数える。……あれ? 合わない。

「何回数えても八つだな。どういうことだ?」

 

 ガチャする前の文字を思い返すと、スキルって文字があった。

「もしかして、具現化してない結果は、スキルってことか?」

 戻るって文字を何度か触って、ガチャの文字が出てるところまで戻した。

 スキル管理ってところを見てみる。

 

「なんか『NEW!』って文字があるな。意味はわかんないけど、

たぶんこの『NEW!』が、ガチャの結果手に入ったスキルなんだろう」

 NEW! が二つ。これで十個だな。

 とりあえず、落ちてる物を拾っておく。

 

「なんだこれ? ほっそい短い鉄の棒に、武器にできなさそうなみじっかいナイフに。

……これ、使い物になるのか?」

 とはいえ、回収はしておく。幸い降って来た物の中に革袋があったおかげで、

 持ち運びには困らないしな。

 もしかしたら、降って来た物がなにかわかるかもしれないから、

 四角い奴を見てみる。

 

 

「えーっとなになに?

オリハルコン製の文鎮に、オリハルコン製のペーパーナイフ?」

 この時点で見るのをやめた。

 物品を読み上げた声が、怪訝に上ずったのは当然だろう。

「希少金属の無駄遣いしてんじゃねえぞ、この謎技術物体!」

 

 思わず地面に叩きつけそうになったが、

 スキルって奴にもしかしたらいいのがあったかもしれないし、

 なによりこんな、魔力で動く謎の物体が壊れでもしたら、

 なにが起きるかわからないから、破壊をすんでのところで思いとどまった。

「せっかくだ。持って帰るか」

 

 こうして俺は、いくらかの土産物を手に、

 すっかり静かになったダンジョンを後にした。

 

 

***

 

 

「お疲れ様です」

 洞窟を出てすぐに、仲間の一人に声を賭けられた。

 援護射撃してくれてた、魔法師の少女だ。

「疲労だけでなによりだぜ。

あんだけゴブリンズッバズバ斬りまくってたわりには、ずいぶん綺麗だけどな」

 

 もう一人のパーティメンバー、俺よりも重装備の奴から、

 どうやら、一応ねぎらってる様子の言葉をかけられた。

 

「ところで。その袋、いったいどこにあったんですか?」

 例のガチャで出て来た革袋に気付いたらしい。

「袋? あ、ほんとだ。新品っぽい袋持ってるな、

どうしたそれ?」

 

「それに、あれだけゴブリンがいたのに、生き物の気配が洞窟から消えたように

静まり返ってますが」

「まあまて、そんなに質問攻めすんなって」

 苦笑いで、興奮した様子の二人を宥めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ