005「妹VS幼なじみの仁義なき戦い。ヒロインは救世の勇者【前編】」
「げっ! 弁当…………忘れた」
次の日のお昼、弁当を忘れてたことを思い出した俺は机で一人、途方に暮れていた。
「どうしたの、拓海?」
机で灰色と化し、佇む俺に声をかけたのは麗香だった。
「いや…………弁当を……忘れてしまって……」
「え? 弁当を?」
すると、今度は静流が俺に声をかける。
「なるほど、弁当を忘れたのか。それでは吾輩が…………」
「静流~っ!」
「美味しく弁当を頂く様をご覧に入れてあげよう」
静流はマジで俺にこれ見よがしに弁当を美味しく頂く様を見せつける。
「…………こ、この畜生めが」
「ふっははははっ! 弁当を忘れたお前が悪いっ!」
静流は鬼の首を取ったかのように、ここぞとばかりに、上から目線で嘲笑う。
「こら、静流っ! 仕方ないわね…………私のお弁当、半分分けてあげるわよ」
「えっ……?! い、いいのか、麗香?」
俺は涙目で麗香に縋りつく。
「しょうがないじゃない。どうせ、あんたお金なんて飲み物代くらいしかもってないんでしょ?」
「あ、ああああああああ…………女神、女神や~」
「わかった、わかったから…………その鼻水、すすりなさいよ」
俺は涙だけでなく、どうやら鼻水までドバドバ放出していたようだ。
「ボクのも半分あげるよ、拓海っ!」
「光也~……」
光也もそう言うと、俺に弁当を寄せてくれた。
「ふん! 甘いな…………甘いぞ、お前ら! そんなことでは権力者に牛耳られたこの資本主義社会で生きてゆけぬぞっ!」
「もう~、いつも、大げさ過ぎなのよ…………静流は!」
ポカッ!
麗香が静流にゲンコツをお見舞いする。
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
どうやら、ご褒美だったようだ。
「ほら、私の弁当のフタを皿代わりにしてあげるから…………」
麗香がいそいそと俺の横に座り、まるで、かいがいしく夫のおかずをよそう若奥様のように、弁当のフタを置いて、光也や自分の弁当からおかずをよそい始めた。
「お、おい…………雨宮麗香が、自分の弁当のフタを…………朝比奈に……」
「くぅ~~~……?! な、何なんだよ! 何で、雨宮麗香ともあろうマドンナがあいつらの中に…………しかも、雨宮麗香が朝比奈の幼なじみポジションだなんて…………俺、ちょっと朝比奈と家、入れ替えてくる」
「落ち着け、お前ら。いいか、幼なじみなんていうのはだな~、あまりに距離が近すぎて恋愛に発展することなんてないぞ! そんなのはもはや、おとぎ話もいいところだ! そんな、彼女にできない幼なじみポジションなんて………………うらやましいじゃね~~~か~~~!!」
外野の奴らの声はもはや、俺たちに聞こえる状態だった。
「わかる! わかるぞ、同士よっ!
「!? し、静流……っ?!」
すると突然、静流がその外野の奴らのところに現れ演説をかまし始めた。
「だが、案ずるでない、同志たちよ。そんな『イチャラブ展開』なぞ、『リア充撲滅委員会』の委員長であるこの私……伊礼堂静流が許すわけなかろうがぁぁ~~~~っ!」
「「「「「うおおおおお~~~~~~委員長~~~~~~っ!!」」」」」
静流の演説は予想以上に…………ウケていた。
ていうか、何、その委員会?
「というわけで…………だ」
キラーン!
「えっ?」
静流が俺に意味深に口角を上げる。
「その……『リア充半分こ弁当』、私が成敗してくれようぞぉぉ~~~!!」
静流はそう叫ぶと同時に、麗香がよそっているおかずに手を出そうとした…………が、
「ちぇすと~~~~~っ!!!」
「ぐはっ?!」
麗香が『空手四段』の正拳突きを静流にお見舞いした。
黒板のところへ吹き飛ぶ静流。
「あ、ああああ、ありがとうぅぅございましたぁぁあぁあぁぁ~~!!」
どうやら、これもご褒美だったようだ。
「「「「「い、委員長~~~っ!」」」」」
「お、おまえ……ら…………」
吹き飛んだ『リア充撲滅委員会委員長』の静流のところに駆け寄る外野の皆さん。
「てんめぇ~~~、麗香ちゃんの『ご褒美突き』、一人でいただいてんじゃねーよっ!」
「まったくだ! ある意味、お前もリア充だっ! 死を持って償え!」
「裁判だ、裁判を開くぞぉ~~! 委員長の弾劾裁判だぁ~~!!」
「そ~れ、ワッショイ! ワーッショイ!」
「ノ、ノォ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!」
そうして静流は外野の奴らに『神輿』のように担がれながら外に出ていった。
何、この寸劇?
まあ、俺にさっき、これ見よがしに弁当を一人で食べるのを見せつけたお前の自業自得だぜ。しっかり、罪を償ってきなさい。
「さあ、食べよ、拓海?」
「ああ。麗香、光也ありがとう…………いただきま~……」
――その時、
「お兄ちゃ~~~~んっ!!!!!」
「ん? この声は……」
教室のドアのほうから聞き慣れた声が聞こえた。