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003「ファミレスに向かう救世の勇者」



「あー、スッキリしたっ!」



 俺は裏山から一路、二人が待つファミレスへと足を運んでいた。


「あの始業式の日……トイレでボコボコにされた挙句、ホースで水をぶっかけられて、それはもうかなり悲惨だったよな…………ははは」


 俺は一カ月前のことを思い出しながら、一人、笑った。


「もしも、あの日、子猫を助けることがなければ、トラックに轢かれることもなく、異世界に行くこともなかったら、次の日も普通に学校行って、そしたら、たぶん…………『地獄』だっただろうな」


 そう。


 普通なら、あの時のイジメは始まりに過ぎなかっただろう。


 何の力も持っていなかったらと思うとゾッとする。


 しかし、今の俺には『大きな力』がある。だが……、


「でも、この『力』は予想以上に規格外だったことがわかった。感覚的には自分の中で相当加減したつもりだったのにそれでもあれだけの力…………。これは『力』の使い方とか制御も含めて、何らかの対処方法は必要だな」


 そう。


 この『力』を使わないことが一番いいのだが、降りかかる火の粉は払う必要はある。だが、目立ちすぎるとかえって敵を作る可能性も出てくる。


 なので、そういうことも含めて、まず自分自身の力を知る必要があるだろうな、などと考えながら歩いているとあっという間にファミレスについた。


「いらっしゃいま…………あ、拓海!」

「よっ! 麗香。二人は来てる?」


 店に入っていきなり声をかけた店員は…………幼なじみの麗香だった。


 そう、このファミレスは半年前の高1の冬から麗香が働いているのだが、そのおかげで、いろいろと『便宜』を図ってもらっている(主にポテトなどを)。


 なので、高校に入ってからはこのファミレスが俺たちの『円卓会議』という名の『たむろ場』となっている。


「うん。こっち、こっち!」


 そう言って麗香が二人のところへ案内してくれた。


「あ、思ったより早かったね、拓海!」

「タクミ氏…………さっき以来だな」

「ああ。思ったより『いろいろ』と用事が早く済んだからな」


 そう言いながら俺は、席に近くにあるドリンクバーでオレンジジュースを入れて二人の席へ着いた。


「私、六時にはバイト終わるんだけど、それまではまだいるよね?」

「ああ、勿論」

「うん、いるよ」

「うむ。我らの今日の『円卓会議』は少し遅くなるから問題ないぞ、レイカ嬢」

「よし! じゃあ、私、仕事に戻るから。後からポテト持ってくるね。私のおごりよ」

「いつも、かたじけない……」

「大丈夫よ、静流君! 私にまかせなさい!」


 静流が麗香に深く頭を下げながら、いつものような口調でお礼を言うと麗香は胸にポンと拳を当てて、ドヤ顔な笑顔を見せてから仕事に戻った。


「いや~、相変わらず、レイカ嬢は素晴らしい女性ですな」

「本当ですね。モテる理由がわかります」

「本当だよな…………出来た奴だよ、あいつは。それに比べ、俺らときたら…………」


 俺は机に乱雑に置かれたラノベや漫画、同人誌を見て溜息まじりの言葉を漏らす。


「もう、やだな~、拓海は。これは部活動みたいなものじゃないか~」


 光也が机に置かれたラノベや漫画を見ながら、うっとりと満足そうな笑顔で呟く。


「まあ、確かに」


 確かに俺たちはほぼ毎日のように、このファミレスに通い、そこでラノベや漫画を広げながら、最近の漫画で気に入ったものとか、今期のアニメの話などを語るなどして和気あいあいと楽しんでいた。しかし……、


「しかし、今日の『円卓会議』の議題はラノベや漫画でもなければアニメの話でもない。それは………………お前の話だおおぉぉぉ~~~っ!」


 静流が圧倒的な仄暗い目力で俺を指差し激しい言葉を発する。


 そして、その静流の横ではワクワクテカテカしながら俺が喋るのを待つ光也。


「まあ、そういうことになるよな~」


 さて、どうしたものだろう。


 俺はここでこいつらに『すべて』を話したほうがいいのだろうか。


 などと考えていると、


「ちょい、ちょい、ちょーーーーいっ! その話、待った―っ! その『円卓会議』はちゃんと私がバイト終わってからにしてよね! さもないと、この『山盛りポテト』…………無にすことになるわよ?」


 麗香がプンスコしながら、自分のバイトが終わって話に参加するまでは俺の話はしないよう、『山盛りポテト』を人質に光也と静流を脅す。


「も、もちろんだよ~、麗香ちゃん」

「や、『山盛りポテト』に罪はない! なんて非人道的な…………! 卑怯だぞ、レイカ嬢っ!」


 いや、『山盛りポテト』に非人道的って…………アホか。


 とまあ、そんなわけで麗香のバイトが終わるまでの二時間は、今日までの一カ月間に俺が見逃したアニメや漫画についての進捗で盛り上がった。


 麗香のおかげで、こいつらに『異世界のこと』『力のこと』について話そうかどうかを考える時間ができたので俺は麗香に心の中で感謝をした。麗香、グッジョブ!



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「お待たせっ! それじゃあ、早速………………始めましょうか、円卓会議を」



 麗香はバイトが終わると同時に、俺たちの席にマイドリンクを持って座るや否や、俺についての『円卓会議』を主導し始めた。


「いきなりだな、おいっ!」


 と、俺は抵抗してみた…………が、


「当たり前でしょ! だって19時には家に帰らないといけないんだから!」

「そうだよ、拓海。麗香ちゃんの家は門限は19時だって知ってるだろ?」

「まったく、それくらいも把握していないのか……ダメダメだな、タクミ氏」


 エライ言われようだった。


「それで? なんで子猫を助ける為とは言え、トラックに突っ込むようなことしたの?」

「タクミ氏…………まさか、異世界転移などといったラノベ感覚で突っ込んだのではあるまいな?!」

「え? そうなの? 拓海?」

「ああ~~~、うるせー、うるせー」


 三者三葉で一気に質問をぶつけてきたので、俺は『とりま落ち着け』と告げ、これまでの経緯を自分から説明を始めた。


「まず子猫を助けたのは咄嗟にというか、気づいたら体が勝手に反応してたんだよ……」

「体が勝手に反応って…………そんなこと…………」


 麗香が『理解できない』とでも言いたげな仕草を見せるが、


「まあ、確かに人間の無意識化の部分は顕在意識の8割を占める。何が『トリガー』かはわからないが、そういうこともあるかもしれんな……」


 と、静流が『オカルト科学』で分析する。


「えーーーと………………日本語でおk」


 会話についていけず、可愛い仕草で訴える光也。


 何? この可愛い生き物。


「そんで、トラックに轢かれたら…………その後は…………」

「「「その後は?」」」


 俺は、ここで一瞬躊躇した。


 躊躇した理由はもちろん『異世界』のことを言うかどうかについてだ。そして……、


「その後は…………い、意識が無くなって、それで普通に起きるように目覚めたら、トラックに轢かれた始業式の日から一カ月も経ってて、病院のベッドの上だった…………みたいな」


 俺は迷った挙句、やはり『異世界』のことを言うことはできなかった…………が、皆、俺の話に疑問など抱いている様子はなかった。


 そりゃあ、そうだ。


 どっちかって言うと、『異世界』の話のほうがよっぽど疑問抱くわ。


「でも、本当に意識が戻って…………よかった。私…………すごく…………心配したんだからね」

「!? ご、ごめん……」

「まったくだよ! ボクだって拓海が意識不明で寝ていた間はずっと苦しかったんだよ!? だから…………」

「「子猫を助けるとは言え、あんな無茶、もうしないでっ!!」」


 俺は涙目の麗香と光也にものすごく叱られた。


「ご、ごめん……」

「タクミ氏。吾輩も君がいなくなると、正直………………キツイからな」

「静流…………。みんな、本当に心配かけてごめん。そして、また、俺とこうやって友達でいてくれて…………ありがとう」


 いくら無意識のこととは言え、俺は皆に心配をかけたことについて心の底から謝ると同時に感謝をした。


「次、そんな無茶したら…………絶交、だからねっ!」

「は、はい……」


 最後に、麗香に厳しさの中に愛情が詰まった言葉をかけられこの話は終わった。


「それじゃあ、そろそろ時間も時間だし…………帰りますか?」

「そうですね」

「うむ。19時から『言いすぎ都市伝説』が始まるから吾輩も失礼する」

「ああ、じゃあ、これで今日は解散だな。またなっ!」


 俺は三人と別れ、家路を辿どる。


「…………結局、言えなかったな~」


 最初は、『異世界』と『力』のことは隠さずに話したほうがいいんじゃないかと思っていた……………………が、正直、三人が一カ月間意識不明だった俺にあそこまで精神的に辛い想いをさせてしまったことを知ると、これ以上余計なことを言って不安にさせるなんてできない、と思ったら…………言い出せなかった。


「ま、まあ、不良の件も解決したし、もう不安要素もないんだから『力』を使うこともないだろう…………うん、大丈夫、大丈夫っ!」


 そう言って俺は、『異世界』や『力』のことは今後一切喋らず、『墓場まで持っていく』と決意し、自分を無理やり納得させたのだった。



【追記】


 無理やり自分を納得させ誤魔化したものなんて、大抵うまくいかないことを俺は後に知ることとなる。




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