031「静流と麗香の真意と救世の勇者」
「この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません」
「一つ、考えられるとすれば、だが…………」
と、ここで静流が2つの疑問……「拓海のいた時代のアルヴァゼロの『初代救世の勇者の伝説』の内容が異なっていること」と「『初代救世の勇者』がアルヴァゼロに転移したのが拓海のいた時代の1000年前だったこと』について『あくまで推測』ということで説明をする。
「まず、1つの疑問である『初代救世の勇者の伝説』の内容が異なっていることについては、おそらく『国民を不安にさせない為』ではないかと考えられる…………『封印』だと『いつか復活する』という恐れを国民に与えてしまう…………そこで、その時代の王様が『国民を安心させる為』に『改変』したんじゃないかと吾輩は思う。まあ、勿論、王族やその『封印』を知っている者たちが国民に知られずに『魔王の封印』を見張っていたのではないだろうか?」
「な、なるほど……。確かにその可能性はかなり高いかも……」
「ん? 何か根拠でもあるのか、タクミ氏?」
「あ、ああ。俺は魔王ヴァルシュトナがこれまで封印されていたなんてことは聞いてなかったし、そもそも魔王ヴァルシュトナは『突然現れた』と言われたんだ。その時はその言葉に特に気にはしてなかったし、それよりも魔王ヴァルシュトナが現れたことに皆、右往左往していたからそれどころじゃなかった…………だが、今、冷静に考えてみれば静流と麗香の父親が言っていることのほうが………………しっくりくる」
「そうね。『国民を不安にさせない為の策』として伝説の内容を改変したというのは、あながち間違ってないのかも……」
「うん、そうだね。第三者のボクからしても……今の静流君の予想は概ね間違ってないんじゃないかと思うよ」
俺たちは皆、この1つの疑問についての静流の推測は妥当だろうと納得した。
「それで、次の2つ目の疑問…………『初代救世の勇者』が1000年前に転移したにも関わらず、この現代に『時間差』がほとんどなく転移できたという疑問だが…………こればっかりは正直よくわからない。むしろ、その辺はタクミ氏のほうが何かわかりそうな気がするのだが……」
と、静流が呟くと三人が俺に視線を向ける。
「ええっ?! お、俺っ……?!」
「ああ。何せ、タクミ氏は実際に異世界に転移して帰ってきたからな…………例えば、この地球に戻るときにはどうやって戻ったんだ?」
「どうって………………とりあえず、異世界と地球を結ぶ『ゲート』ってもんがあって、その『ゲート』を召喚士の子が開くことができたということで、それで地球に戻ったんだよ」
「召喚士か…………タクミ氏、その召喚士は…………萌えるのかね?」
「うむ。まあ、言い方を変えるなら………………『ロリっ子召喚士マチルダたそ』とでも言おうか」
「ロ、『ロリっ子召喚士マチルダたそ』だとぉぉぉぉ~~~~~~!!! ふんす、ふんすっ!!!」
静流のテンションがネクストステージへと駆け上がった。
「くぅぅ~~~!!! タクミ氏よっ!! 召喚魔法の完成を急ぐぞっ!! いや、マジでっ!?」
「お、おう…………痛い、痛い」
静流が俺の両肩に手をかけ、激しく揺さぶりながら『召喚魔法』の完成を急かす。
「いいかげんにしなさいっ!!」
ゴンッ!
静流は麗香のけっこう本気のゲンコツを食らい、膝をつく。
おそらく、静流の『体術』や身体能力を見ての判断で本気のゲンコツを食らわしたのだろう…………つまり、かなり強烈だったと推測される。だって、ゲンコツで膝をつくって…………普通ねーよっ?!
「今はそんなことよりも『初代救世の勇者』の話でしょ?! 拓海も静流に流されないでよねっ!?」
「ご、ごみんなさ~~~い」
「……ったく!? ブツブツ…………………何が『ロリっ子召喚士マチルダたそ』よ…………ブツブツ」
「ん? な、何……?」
「えっ?! い、いや、な、何でも……………………何でもないわよっ!? フンっ!!」
麗香の顔が……気のせいか若干顔を赤らめているように見えた。
「ま、まあ……そんなわけで召喚士のマチルダが『ゲート』を開けることに成功してくれたおかげで俺はまたこの世界に戻ってこれたんだ」
「タ、タクミ氏…………」
静流は、やっと痛みが引いたのか、少しフラつきながらも立ち上がり、声をかける。
「そ、その……『ゲート』というのは、いつでも開くことができるものではないのか?」
「ん? あ、ああ……。マチルダの話だと『神様とのリンク』がどうとか……『タイミング』がどうとか言っていたかな…………よくは知らないけど……まあ、とにかく、いつでも開けるものではないと言っていたよ」
「そ、そうか。とりあえず、可能性があるとしたらやはり『神様』……だろうな」
「『神様』?」
「ああ。だって『神様』の力で、異世界への転移も帰還も……もっと言ったら『チートスキル獲得』も『神様』の力だろ? だとしたら『神様』はこの異世界転移の『時間』や『時代』も制御できるんじゃないか? ていうか、『神様』以外にそんなことできないと思うがな……」
「「「た、確かに……っ!?」」」
静流の言っていることは恐らく正しいだろう…………と、俺は直感でだがそう感じた。
「まあ、いずれにしてもその疑問については父親たちが知っているかもしれん。なので、今は特にこの疑問についてはこの程度の認識でいいと思うぞ?」
「そうね……私もそう思うわ。大事なのは、そんな『過去』の話ではなく『いま』の話よ、拓海っ!」
「あ、ああ……」
「……タクミ氏。実はな…………吾輩とレイカ嬢、そしてタクミ氏の父親の三人がその異世界アルヴァゼロから魔王討伐に失敗し地球に戻った後、三人は『ある計画』を実行するべく、その後の人生を送ったんだ」
「け、計画……?」
「ああ。ここからがいよいよ本題なのだが…………三人は魔王討伐ができなかった為、『スキル』のみが継承されたんだが、それでも、その『スキル』は一般人からすれば『特殊な力』だ。そして、そのスキルの力が最大限に発揮する『環境』へ三人は身を置くべく動き出したんだ」
「ちょ、ちょっと待てよっ!? な、何で、帰ってきてからもそんな『スキル』を利用して動き出したんだ? ていうか、計画って何なんだよ?!」
「その三人の計画は…………………………『世界平和の実現』だ」
「…………はっ?」
「三人は異世界アルヴァゼロで魔王討伐に失敗したことにショックと後悔を受け、地球に戻ってしばらくは何も手に付かないくらい落ち込んでいたそうだ。しかし、タクミ氏の父上が二人に『俺は……アルヴァゼロで魔王討伐できなかったがそこで得たスキルを使ってこの世界の問題を解決したい』と言ったそうだ」
「!? と、父さん……がっ?!」
普段、のらりくらりとした姿しか見たことがない拓海には、そんなセリフを言う父親は全く想像ができなかった。
「ああ。そして、吾輩の父上もレイカ嬢の父上もそれが『きっかけ』だったと言っている」
「そうよ、静流の言う通りよ……拓海」
静流の説明に麗香も同意の言葉を返す。
「そして、三人は『じゃあ、世界の問題ってなんだ?』ということを考えに考え、そして、最終的に出た結論が…………『世界平和の実現』だった」
「い、いやいやいやいやっ!? せ、『世界平和』って…………あまりにも話、大き過ぎじゃね? ていうか、そもそも、別に今も平和じゃねーか?」
「…………本当に……そう思うか?」
「え?」
静流がいつになくマジメな顔で俺に問い詰める。
「世界には日本と違っていまだ『貧困』で苦しんでいる国がたくさんある……また、戦争に至っては世界各地で『紛争』や『宗教戦争』が後を絶たない。日本にいる俺たちが平和だからって世界も平和だと…………思うか?」
「!? そ、それは…………」
「……ていうか、この日本でさえ『平和』と言えるかと言えば………………怪しいけどな」
「えっ……?!」
「自殺者が毎年3万人をラクに超えているんだぞ、この国は? 3万人なんて中東での紛争による死者数よりも多いか、近いくらいの数字なんだぞ? それだけの人間がこの国では毎年死んでいるというのが実情だし、しかも、それが『自殺』だなんて狂ってると思わないか?」
「……し、静流」
静流は顔を真っ赤にして俺に想いをぶつけてくる。
「お前だって、イジメを受けただろ?」
「あ、ああ」
「だが、お前は今では異世界に行ったおかげで『スキル』や『魔法』が使える、いわば『スーパースター状態』だから、イジメていた奴らを返り討ちにできたかもしれん…………だが、もし、そんな力が無かったら、今頃…………想像できるだろ?」
「(ごくり)…………あ、ああ」
それは、俺も静流と同じことを考えていたからとても納得がいった。
「そんな奴らは国内には数えきれないくらいいっぱいいるし、また、問題は何も子供だけじゃない。大人たちだって『富の二極化』が進んだ結果、『お金持ちはもっとお金持ちに、貧しい者はもっと貧しい者に』という社会システムになりつつあるんだ。そんな、この国が『平和』かどうかなんて、吾輩には到底考えられない」
「し、静流……」
「吾輩らの父上たちはそんな『世界が抱える社会問題』を研究し、どうしてこんな世界になったのかを歴史や様々な角度から調べたらしい。そして、三人が行き着いた答えが…………世界の『一握りの権力者』たちが今の『社会システム』を作り上げたということだったんだ」
「えっ?! 社会システムを………………作った?」
「ああ。今の世界……例えば『資本主義』や『民主主義』という社会システム、ルールはある一部の『超富裕層』や『権力者』たちが作り上げた。その根拠としてわかりやすいのが、この『超富裕層や権力者たちの資産』は『世界人口の50%の資産』とほぼ同じくらいだと言われている。しかも、この『超富裕層や権力者たち』はたったの『8人』しかいない」
「ええっ! は、8人っ……!?」
「ああ。この『8人の資産』が世界人口の半数……およそ『35億人の資産』とほぼ同等だ」
「…………」
空いた口が塞がらない俺がいました。
この辺から、少しずつ『陰謀論』にまつわる話が出てきます。
とりあえず、今回から「前書き」に「この物語はフィクションです」を入れていきます~。




