030「真相と新たに浮上した疑問と救世の勇者」
「では…………早速だが話を始めようと思う」
俺たちはさっきのチンピラたちをやっつけた後『秘密基地』へと移動してきた。外を見ると夕日が赤く染まり、ゆっくりと夜へ移行する準備をしている。
「まずは吾輩の話からしようと思う…………」
そう言って静流が一度深呼吸をしてから話を始めた。
「吾輩は父上から小学三年の頃から体術を習い始めた。理由を聞くと、その頃は吾輩の『将来の為』とだけしか言わなかった。一応、父上は自分が嫌だと思うならそれでも良い……と言ってくれたが、吾輩は父上のことを尊敬している故、断るどころか、むしろ、喜んで受け入れた」
静流は懐かしむように言葉を紡ぐ。
「そして、それから4年後、中学に入ってタクミ氏やレイカ嬢、光也と出会い…………友達となった。実は当時この体術のことをみんなに言おうかどうか迷っていたが父上から『例え、親友だろうと決してこの事を教えてはならぬ』と厳しく言われていた為、ずっと告白できずにそのまま高校へと進学することとなる…………」
「静流君…………」
光也が静流が当時を振り返っているのか辛そうな顔をしているのを見て言葉をかけようとした。
「大丈夫だ、光也……ありがとう」
しかし、静流は光也の言わんとしていることを察し、お礼を一度入れてから話に戻る。
「……高校に入っても中学のときのように吾輩はこの『体術』のことを隠しながら、かつ、不良どもに目を付けられないような立ち回りをしていた」
「!? お、お前、そんなこと考えていたの?!」
「当たり前だ……。不良どもに絡まれて得することなどないだろ! しかも、イジメにまで発展したら吾輩も我慢の限界がきて手を出しかねんしな」
「う~む…………どうも、これまでのアニオタ静流の印象しかない俺は、どうも今のお前とギャップがあり過ぎて、これは『夢』じゃないのか? て、さえ思えてくるわ」
「いや、異世界転移したタクミ氏がそれを言うかっ!?」
「本当よね、アハハハハっ!」
「右に同じっ!」
そう言って三人が俺を見て大笑いする。
「…………フンっ!」
俺は一人ふてくされる中、静流が笑い終えると話を続けた。
「まあ、それで一年生の間は中学と同じように振る舞っていたんだが、今年…………二年になってから話が急展開することとなった」
「急……展開?」
「その急展開する『きっかけ』となったのは…………タクミ氏、お前の異世界転移だ!」
「えっ!? お、俺っ……?!」
「し、静流君!? そ、それじゃあ、その急展開って、ほんの最近のことってこと……?」
「ああ、そうだ。正確に言うとタクミ氏から異世界転移の話を聞く一週間くらい前…………タクミ氏が退院した頃だ」
「えっ?! そうなのか?」
「ちなみに…………」
と、ここで麗香が話に入ってくる。
「私も父から『全容』を聞かされたタイミングは静流と同じ頃よ」
「れ、麗香……」
「……吾輩は父上からその時に初めて小学三年の時に『体術』を習ったのかを聞かされた。話では最初、父は自分が活動している組織に吾輩が入るのを期待して、その時の為にその頃から『体術』を習わせたと言っていた。だが…………タクミ氏の異世界転移の話が真実とわかったときから、吾輩は父上から『タクミ氏を高校卒業まで護衛』するよう言われた」
「ええっ?! 高校卒業まで……?! い、いや……ていうか、何で、俺が静流に守られる必要がそこで出てくるんだよっ?!」
俺は静流の言っていることがまったく理解できなかった。
「……まあ、そうだろうな。そこで話はここから吾輩の父上、レイカ嬢の御父上、そして…………タクミ氏の父上が関係してくる!」
「えっ……?! 父さんが……?! どういう……」
「タクミ氏っ! 実は吾輩の父上と、レイカ嬢の父上、そして、タクミ氏の父上の3人は、今から40年前……………………異世界『アルヴァゼロ』に『救世の勇者』として転移していたんだっ!!」
「「ええええええええええっ!!!!!!」」
俺と光也が静流の言葉を聞いて叫ぶように声を上げる。
「い、異世界……アルヴァゼロって…………っ?! お、おい!? ちょ、ちょっと待て!? ちょっと待てよっ!! そ、それって…………」
俺は静流の言葉を聞いて、異世界にいた時のことを思い出した。
「そ、それって…………もしかして…………俺の父さんや、静流と麗香の父さんが………………『初代救世の勇者』ってことなの……かっ!?」
「…………ああ。父上はそう言っていた」
「ウ、ウソ…………だろ…………?」
まさか、父さんが…………初代の……救世の…………勇者?
俺は静流の言葉を聞いてもなお、信じられないでいた。
だって…………だってだ!
そもそも、その…………『初代救世の勇者』の話は…………、
「やはり、タクミ氏はこの『初代救世の勇者』という単語を知っていたのか……」
「あ、ああ。俺がアルヴァゼロ…………異世界にいた時にその話は何度も聞いた。だ、だけど…………その『初代救世の勇者』ってのは、俺が異世界にいた時代から……………………1000年前の話なんだぞっ!!」
「「「ええっ?! せ、1000年前…………っ?!」」」
「ああ…………『初代救世の勇者』の話を聞いたことがあるというのは、その話は1000年前の話で俺のいた時代のアルヴァゼロでは『伝説』となって語り継がれていたんだ」
「そ、そんな…………しかし…………父上は確かに…………『初代救世の勇者』と…………」
「わ、私もっ! 私も…………父から静流と同じように『初代救世の勇者』としてアルヴァゼロに召喚されたって…………」
麗香も父親から静流と同じ話をされたと言って具体的な説明を始めた。
「私の父も静流の父親と同じように『初代救世の勇者』としてアルヴァゼロへと言ったと言っていたわ。そして、『初代救世の勇者』はアルヴァゼロに転移者として存在し続ける期限の『一年間』では魔王ヴァルシュトナを討伐することができなかった為、その時の三人の力をすべて使って、何とか『封印』することができたと言っていたわ」
「えっ…………? 魔王ヴァルシュトナを…………倒せなかった?」
「え? な、何? ち、違うの?」
「あ、ああ……。『初代救世の勇者』の伝説では、『三人の救世の勇者は魔王を見事倒して、アルヴァゼロに平和を取り戻しました』……と書いてあったが…………」
「で、でもっ!? でも、父は魔王ヴァルシュトナを倒せなかったから『ステータス継承』ができず、その為、そこで身に着けていた『魔法』も使えなくなったって…………。ただ、『スキル』だけは継承できたから、その『スキル』を活かして、私の父や他の二人もその後の人生を歩んだって…………」
「う、うむ。吾輩の父上もレイカ嬢と同じことを言っていたぞ……」
「た、たしかに…………俺はここに戻るとき、『神様』から『すべてのステータスを継承できる』と教えられた。だから、俺はこの世界に戻った後、ベッドで快癒魔法をかけて腰の骨折を治癒した。そう考えると、確かに二人の言っていた『魔王討伐』が成功したかどうかの違いがこの『ステータス継承』の有無なのかもしれない。でも…………疑問はまだ残っている」
「そうだね。一つは拓海の時代のアルヴァゼロでの『初代救世の勇者の伝説』の内容が異なっていること……そして、もう一つは三人の父親たち『初代救世の勇者』がアルヴァゼロに転移したのが、拓海のいた時代の1000年前だったにも関わらず、この世界にはほとんど『時間差』なく戻っている……といったところかな?」
「さすが光也!」
「や、やめてよ?! べ、別に大したことじゃないよ……はは」
俺は、光也のそんな話を細分化してわかりやすく説明できる聡明さに、いつも感心しつつ尊敬していた。
この時、俺は特に根拠はないが何となく感じたことがあった。それは………………光也は『本当にただ巻き込まれただけなのか』ということを。