022「異世界のお話と救世の勇者」
――放課後 麗香のバイト先のファミレスにて
「さぁ~拓海っ! 今日は『異世界』の話を聞かせてもらうわよっ!」
「「うん、うん」」
ファミレスには麗香と静流、光也がおり、すでにフリードリンクとおつまみも(麗香のおごり)すでに用意されていた。ちなみに今日は麗香はバイトは休みである。
「わ、わかったよ、わかったけど…………正直、中々信じられないような話だとは思うぞ」
「信じる、信じないはどうでもいいのっ! ただ、その一カ月の間の意識不明の状態のときにその『異世界』に行ったから昨日の『魔法』が使えるようになったわけでしょっ!? そもそも昨日の魔法を見せられたら今なら何でも信じられるわよっ!」
「まあ、空、飛ぶとか……普通、あり得ないからね」
「うむ。タクミ氏よ…………『異世界転移』ということであれば『魔法』以外の特殊スキルや使命などもあったと思う。少なくとも、吾輩や光也はアニメやラノベである程度耐性があるし理解もあるから…………問題ないぞ」
「わ、私もっ! 少し予習してきたから! 大丈夫だからっ!」
「わ、わかったよ。じゃあ、早速………………始めるか」
そう言って、俺は『異世界』に行ってからの話を始めた。
転移された先が王宮で、そこの召喚士が『救世の勇者』として俺を召喚し『魔王ヴァルシュトナ』を倒すことになったこと。
最初はレベルが低いということで冒険者ギルドに行って戦う仲間を探したこと。そして、そこで騙されて危うく殺されるところをアイリス・イシュルミナという大魔導士に助けられ、一緒に魔王討伐に参加してくれたこと。
あと……、
「ちょっと待て~~~~~ぃいいいいいっ!!!!!」
静流が激しく声を上げる。
「すでに、いろいろと具体的に話を聞かせてほしいものが出てきている件について……」
「え? あ、ああ、まあ、そうだよ……な?」
「本当だよ、拓海!『アイリス・イシュルミナ』ってまさか…………女性?」
「いや、そこじゃないだろ、光也ぁぁ~~っ!!」
「いや、そこ大事よ、静流っ! ちょっと黙っててっ!!」
何だか、話の初っ端から混戦模様である。
「よ、よし、あい、わかった……。一つずつ、紐解いていこうジャマイカ………………まず、その『異世界』は何という名前なんだ?」
「その惑星は『アルヴァゼロ』っていうところで、自分が召喚された王宮…………国は『リザスター王国』っていって、人間族をまとめている一つの大きな国だ」
「じゃあ、そのリザスター王国で魔王ヴァルシュトナ……だっけ? そいつを倒してくれれるよう頼まれたんだな?」
「ああ。まあ、そもそも転移前に『神様』から『使命』として聞いてたしな。それに個人的に滾るじゃん? 異世界でチート能力使って生きるのって?」
「うむ。まったくだな。しかし、憧れはあっても実際現実でその立場になったら大変ではないのか?」
「もちろん大変だった…………超大変だったよっ! 相手に攻撃されて傷がつけば当然痛いし、逆に相手が魔族や魔物、そして人間にも生きていくためにはどうしても殺さないといけないこともあったしな…………まあ、人間は出来るだけ『戦闘不能状態』にするようにして殺さないようにしてはいたけど……………………でも、殺したこともある」
俺はその時のことを思い出し、表情を曇らせた。すると……、
「私にはそんな経験ないからわからないけど…………でも、そんな知り合いも誰もいない世界に飛ばされたら、いくら『力』を持っていたとしても、生きていくのは大変と思うの。それに拓海は元々相手を痛めつけたり、乱暴するような性格じゃないことは小学校の幼なじみである私がよくわかっているもの!」
「麗香……」
「そうだよ、拓海! 拓海が自分の私利私欲で動かない人ってことはここにいるボクらやメグちゃんもみんな知ってるっ! だから、落ち込まないでよ、拓海っ!」
「ありがとう……光也」
「まあ…………タクミ氏はヘタレですからな」
「このやろう…………静流」
静流の場を和ますための言葉が逆にありがたくも恥ずかしく感じさせた。
その後は、また話の続きとして…………旅の中でレナ・ジャスティンという魔法剣士と、乙女闘士のマリーナ・ダリルホーンに出会ったこと。
いろいろあってその二人が仲間になってくれて、それから約一年かけて魔王を倒すことに成功したことを話した。
「ちょ、ちょ、ターーーーーーーイムっ!!!!!!!」
静流が両手をクロスさせて、俺の目の前に掲げながら話を止めた。
「タ、タクミ氏…………そ、それは、まさか…………ハーレム的なアレかな?」
静流が黒縁メガネをクイッと上げながら震える声で呟く。
「あ、いや、まあ、その…………………………………………えへっ!」
「貴様~~~~~~~~~~っ!! 異世界でリア充どころかハーレム展開とかふざけんなよ、この野郎~~~~~っ!!! うらやまけしからんっ!!!!」
静流が泣きながら訴えてくる。すると、
「「ちょっと…………拓海」」
「ひぃぃっ!?」
今度は麗香と光也がドスの利いた低いトーンで迫ってきた。
「何、ハーレムって……?」
「拓海…………異世界では『ハーレム建築士一級』のスキルも身に着けたの?」
「え? あ、いや………………しょ、しょうがないじゃんっ!? 気づいたらそんな感じであっちが勝手に迫ってきたんだからっ!!」
ピクッ!
「迫って…………?」
「きた…………?」
「あ…………あ、いや、その…………」
「「サイテー……」」
麗香と光也にゴミを見るような目で蔑まされた。
「と、とにかくっ?! 俺はその三人と協力して魔王ヴァルシュトナを倒して……その後、王宮に戻って召喚士が何とか開けてくれたゲートで地球に戻ることができたんだ」
「それってタクミ氏…………もしかして『異世界に留まる』という選択肢もあったのか?」
「あ、ああ。でも、異世界で『使命』だった『魔王討伐』は達成したし…………それに、できれば地球に戻ってお前らにも…………会いたかったしな」
「タクミ氏……」
「拓海……」
「拓海……」
「へへ……」
俺は鼻をこすりながら恥ずかしいセリフを言った。
「「「そんなんで、ごまかせると思うなよっ!!!」」」
「えええええええ~~~! そこ、感動するところじゃないの~~~~っ!!」
「うるさいっ! 心配した私のピュアな心を返せっ!!」
「ホントだよっ! ハーレムなんて卑猥だよ、拓海っ!!」
「リア充、爆発しろっ!!」
とりあえず、三人には盛大なる説教を食らいました。
「僕はどうしようもない女たらしでゴミみたいな存在です……ごめんなさい。」
なぜだか最終的に俺が謝る形でこの話は終焉を迎えた。
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――S県 都内某所
『昨日夕方、A市の使われていない海岸倉庫にて、十代の若者中心で構成される県内最大の愚連隊組織『黄龍』のメンバーおよそ300人全員が、ケガをして倒れているのを匿名の方の通報により発見することができました。警察では対抗組織の仕業ではないかということで100人以上の警察官を総動員してケガをさせたグループの捜査に乗り出したとのことです。続いては……』
ピッ!
高級な革張りのシートで深く腰掛ける男がリモコンでテレビを消すと、
「どうなっとんじゃい…………これはっ!!」
目の前にいる男に向かってリモコンを投げつけた。
「すみません…………『黄龍』のメンバーに今、いろいろと情報を聞いて回っているのですが、皆、一様に…………『バケモンみたいな男に全員やられた』と言ってその男の名前までは知らないようで…………」
「何だと~~~っ?! 鮫島はどうしたっ?!」
「鮫島はずっと入院中でして……医者が面会させてもらえないのでまだ奴からは詳しい話が聞けていません。あと、弧嘉渡も同じように入院中で『完全面会謝絶』となっています」
「ふざけんな、この野郎~~~っ!!!!!」
バキッ!
目の前の男はソファから立ち上がった男に思いっきり殴られた。
「うぐっ?!………………………………す、すみません、組長」
「山下~~~~っ! 俺たちはヤクザだぞっ!! ヤクザだったらよぉ~~~、無理にでも鮫島を連れてくることくらい…………できるだろぉが、ああんっ!!!!!!」
『組長』と呼ばれた男はその山下という男の胸倉を掴んで『圧』をかける。
「し、しかし…………」
「しかしもクソもねぇ~~んだよっ!? 明日までに鮫島をここに連れてこい、いいな?」
「わ、わかり……ました……」
闇は更なる深い闇へと広がっていく。
すみません。
『008「狂人ミサヲの企みと救世の勇者」』の中で、麗香のセリフの内容を「拓海の父親は仕事であまり家にいない」という内容に変えました。
また、このようなことが起こるかもしれませんが、温かい目で見守っていただければ幸いです。
m(__)m




