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021「朝比奈家と救世の勇者」



――メキシコ南東部 『チェチェン・イッツァ遺跡』



「教授……っ! 朝比奈教授っ!」

「ん~~~~~~~…………」

「もうっ! 教授ってばーーーーーーーっ!!!!!」

「……あ、うん。何かね?」

「早くしないとバスに遅れますよっ! これ、逃したら明日の飛行機に間に合わないですよーーーーっ!!」

「む、それはいかん。今週末は家に戻ると娘に約束しているんだ」

「だ・っ・た・らっ!! 急いでくださいっ!!!」


 助手の長谷川柚子はせがわゆずは、いつものように『のらりくらり』と喋る教授に若干イライラしながらも、いつものことなので感情を抑えるべく大きなため息を一つ吐いてから教授を強引に引っ張っていく。


「そう言えば……息子さん、目を覚まされたんですよね!」

「? どうしてそれを?」

「私、『ツブヤイッター』で教授の娘のメグちゃんのフォローズなんですよ。それで、メグちゃんのツブヤキで息子さんの拓海君が事故から一カ月ぶりに目を覚ましたって……しかも、それが医者から言わせたら奇跡のようなものだったって……」

「?…………ああ、何かメールみたいなやつね」

「メールじゃないですぅ~! SNSですぅ~! ツブヤイッターですぅ~!」


 長谷川は口をひょっとこしながら返事をする。


「とにかくっ! おめでとうございます」

「ありがとう。まあ、三日前までは日本に息子が目覚めるまではいたし、目覚めてから学校へ行くまでに元気になったのも見たからね…………まあ、あいつは俺に似てタフだからな、フフ……」

「?…………教授?」


 教授と呼ばれた男は一人、帽子を深くかぶり直しながら思い出し笑いをした。



――『教授』と呼ばれた男の名は『朝比奈誠一あさひなせいいち』。



 拓海とメグの父親であり、また、全国でも考古学で有名なS県のT大学で考古学者として教鞭を振るっているが、実際、一年の内、授業よりも大半は古代遺跡研究の為、海外にいることがほとんどである。


 年齢は50代前半。髪はほとんど切っていないので白髪が若干混じった柔らかい天パー気味の髪が肩まで延びている。当然、髭も伸ばし放題…………だが、助手の長谷川柚子が事あるごとに髭を剃ってくれているので、今は無精ひげが少し出ているくらいである。


 そして、そんな誠一の古代遺跡の調査を一緒に行っているのが『大きな黒縁メガネ』と『おさげ』が特徴の助手の長谷川柚子である。


 彼女はT大学の大学院生だが、大学生時代から誠一のファンであったらしく、それで難関のT大学に入り、誠一が教鞭を振るう『考古学』を専攻、さらに、『朝比奈ゼミ』に入り、誠一の古代遺跡研究に積極的に参加するようになり、大学院生となってからは正式に誠一の『助手』として採用され、現在に至る。


「はぁぁ~~~ああああ~~~~、ゼミに参加するまでは朝比奈教授はもっとこう、『かっこいい大人の男性』てイメージだったのに、現実は…………『子汚い子供みたいな大人』でした」

「え? 僕が何だって~?」

「何でもないですぅ~~~~っ!!!!!!!!」


『んべっ!』としながらも、柚子は満面の笑顔で誠一の手を引っ張る。


「それにしても…………三日前に日本から戻ったばっかりなのに、どうしてとんぼ返りみたいなことを?」


 柚子が誠一に不思議そうに尋ねる。


「ん? あ、ああ…………まあ、ちょっとした『計画』の進捗がね~、大幅に変わりそうでね~、それで、私も直接行かないといけない状況になったんだよね~」


 のら~り、と誠一が言葉を返す。


「計画? 仕事の……ですか?」

「いやいやいや、ただの趣味だよ…………趣味」

「ふ~ん…………でも、遺跡調査に夢中の教授が途中で切り上げてでも日本に帰るだけの『趣味』て…………ある意味凄い趣味ですね。その趣味って何なんですか?」

「あはは…………まあ~、大した趣味じゃないよ~……共通の趣味の仲間と会って『人生ゲーム』を楽しむみたいな感じかな~」

「え? 今どき『人生ゲーム』? ボードゲームですか? しかも、わざわざ遺跡調査を中断してまで?」

「あっはっは…………まあ、そういうことだね~」

「はぁ~~~~~っ!!!! 意味がわかりません」


 そんな呆れ顔の柚子は『聞いた私がバカだったわ』と自分に言い聞かせながら、遺跡を後にした。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「ただいま~……」

「あら、あなた! おかえりなさい」

「あれ? 拓海とメグは?」

「何、言ってるんですか? 今、日本は金曜日のお昼ですよ。学校に行ってるに決まっているじゃないですか~!」

「あ、そうか。あっはっは~……」

「…………っもう! さ、さ、早く上がってください。まずはその汚れた顔と体を私が徹底的に磨いてあげる………………風呂場へ直行しますっ!!」

「あっはっは……………………お、お手柔らかにお願いします」


 こうして、誠一はトンボ返りで家へと戻るや否や、妻の恵美に腕を掴まれ、半ば強引に風呂場へと引っ張られていった。


「あれ? この感じ…………メキシコでも何かあったような…………?」


 そうして、二人はいつものように一緒にお風呂へ入るのだった。



「「ただいま~……」」

「はい。おかえりなさい」

「おかえり」

「と、父さんっ!」

「お父さんっ!」

「子供たちよ~、元気にしてたか~?」

「いや、三日前に会ったばかりだろ?」

「おや? つれないね~」

「い、いや、そういうわけじゃ…………おかえり」

「はい。ただいま」

「お父さん! 早かったねっ!」

「ああ。昼に戻ったからな」


 学校から帰ってきた俺とメグは、予定よりも早く帰国してきた父さんに驚きつつも、普段は家にほとんどいない父さんが家にいることに喜んだ。


 俺の父さんは遺跡調査でほとんど家にいない。


 だが、一カ月前、俺がトラックに轢かれ意識不明で病院にいる間はずっと家にいたらしい。そして、俺が目覚めた後もすぐに仕事に行くことはなく、学校へ復学するまでの一週間ほどはずっと家にいた。そして、俺が学校へ通うようになった三日前にまた仕事で海外へ行くと言っていたのだが、なぜか突然、今週末だけ家に戻るということで連絡があった。


 俺とメグがお風呂に入った後、三日ぶりの家族団らんでの晩御飯となった。


「ところで父さん、どうしてこんな突然に帰ってきたの? いつもなら仕事に戻れば一カ月は家を空けるのに……」

「ん? ああ…………まあ、野暮用でな」

「……ふ~ん」


 父さんはビールを飲みながら少しほろ酔い気分で言葉を返す。


「お父さん、日曜日まではいるの?」


 メグは父さんがいることがうれしいのか、テンション高めで言葉をかける。


「ん? ああ、そうだね。まあ、月曜日の始発ですぐに現地に飛ぶけどね」

「今はどこで遺跡調査しているの?」

「今はメキシコで調査してるよ」

「メキシコか~……いいな~、あたしも外国に行ってみたいな~」

「ははは……メグ、お父さんは遊びじゃなく仕事で行くんだぞ」

「だって、お父さんの仕事って『趣味』に近いじゃんっ! そんなの遊びに行くのと一緒だよ」

「はっはっは…………こりゃ一本取られたな」

「メグ! お父さんはちゃんと仕事をしているのよ。そんなこと言っちゃダメよ」


 母親の恵美が軽く叱るが、


「まあ、メグの言っていることは当たっているからな~。お父さんは否定できません」

「ほら、やっぱり!」

「あなた…………もう少し父親の威厳を…………」


 恵美は頭を抱えるが、相変わらずの誠一に大きなため息をつく。


「とりあえず、今週の日曜日は道場で久しぶりに稽古をするから拓海……お前も参加するんだぞ」

「ああ、そのことだけど俺は光也と用事があるから午後に参加するよ。麗香にも伝えてある」

「そうか、わかった。それにしても麗香ちゃんも久しぶりに会うがどのくらい強くなっているか楽しみだ」

「ふん。麗香お姉ちゃんは私よりも弱いしっ!」

「ほう? そうなのか? 私から見ると互角だったと記憶しているが……」

「そ、そんなこと、ないもんっ!?」


 メグがしかめっ面で誠一に言葉を返す。


「はっはっは…………いや~、日曜日が楽しみだ」


 誠一は陽気にそう呟きながらビールをまた一本開けた。


 こうして、朝比奈家の家族団らんの一日が過ぎていった。




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