016「チキチキ魔法ぶっぱして信頼を取り戻せゲームと救世の勇者」
「というわけでっ!」
と、静流は一言入れてから話を続けた。
「タクミ氏の言葉の真偽を確かめるため、ここで魔法を披露してもらいましょう。題して…………『チキチキ魔法ぶっぱして信頼を取り戻せ』ゲーーーームっ!!」
オオオオオオオ、パチパチパチパチ~~~~!!!!
「…………何だろう、すごくバカにされている気分なんだけど」
さっきまで俺とメグの美しい兄弟愛のシリアス展開だったのに、何故か、現場は今バラエティーのノリと化していた。
「まあまあまあまあ……タクミ氏! さっきまでのような息詰まる状況では吾輩どうかと思ってだね~……、それで、こういうノリのほうがかえっていいのかと思った次第なのだよ~」
「ま、まあ…………たしかに」
静流に諭されるようで悔しいが、確かにちょっとみんなの空気が悪くなっていたのは事実なので俺は静流の提案を呑んだ。
「で? 俺はどんな魔法を見せればいいん……」
「その前に……っ!?」
「??」
「……タクミ氏。君は今、当たり前のように『魔法を見せる』ことに何の躊躇もなかったようだが………………やはり、本当に魔法を…………使えるのか?」
「何をいまさら」
「マジかよぉぉぉぉぉぉ~~~~~!! いいなぁ~~~~~~~~~っ!!!!…………と、これは前回やったのでもういいか。では、早速魔法を見せてもらいたいのだが、まずは…………いや、その前にそもそも、どんな魔法が使えるんだ?」
「どんな? う~ん、そうだな~……空を飛んだり…………」
「「「そ、空を…………飛ぶぅぅぅぅぅぅぅ~~~~~~~っ!!???!」」」
三人は予想以上に良いリアクションを見せてくれる。
「あと…………火を出したり、水を出したり、氷を出したり、身体強化したり、それと…………」
「ちょ、ちょ…………ストーーーーーーップっ!?」
静流が突然、拓海の言葉を遮る。
「えっ?…………な、何?」
「い、いや、すまない、タクミ氏。その、何というか…………レイカ嬢とメグたその理解が………………追い付いていない」
二人を見ると、鯉のように口を大きく開けてパークパークしてボソボソ呟いている。
「…………空を飛ぶ? 人間が? バカなっ?!」
「お、お兄ちゃん…………人間……やめちゃったの?」
そんな麗香とメグの姿を見た俺は二人の手を強引に握った。
「ちょっ?! た、拓海っ?!」
「!? お、お兄……ちゃんっ?!」
そして……、
「飛翔魔法…………スカイウォークっ!」
「「えっ!? か、体が…………浮いて…………」」
俺は時速10キロ程度の速度で移動できるC級飛翔魔法スカイウォークを二人にかけた。すると、俺と二人の体が浮き出すと同時に麗香とメグは目の前の光景にただただ信じられないとでも言いたげな表情で固まっている。
「?! さ、三人の体が……浮いてる……」
「た、タクミ氏…………君は、本当に…………」
三人が部屋の中で体を浮かしているその光景を見ながら、光也も静流も目の前の出来事にただ呆気に取られていた。
「じゃあ、今度は二人の番だ…………スカイウォークっ!」
「「う、ううう、うおぉぉぉぉおぉぉおぉお~~~~!!!」」
次に静流と光也の二人にもスカイウォークをかけると、二人は自分の置かれている状況に興奮し、ただただ絶叫していた。
そうして俺の部屋の中で全員が体が浮いた状態となったところで、
「それじゃあ、ちょっと外に行ってみようか?」
「そ、外にっ?! さ、さすがに、それは……」
「そ、そそそ、そうだよ、お兄ちゃんっ?! 第一、誰かに見つかると大変だし…………」
俺は麗香とメグの心配する声に対し、
「大丈夫! C級隠蔽魔法…………ブラインドアライズっ!」
「「「「!? な、何?」」」」
五人の体が一瞬で『黒いオーラ』に包まれた。
「これで、10メートル以上離れていれば気づかれることはないから」
「は、ははは…………す、すごいね、拓海」
「本当に……本当にタクミ氏は…………魔法を……………………すごい」
「じゃあ、行くよっ!」
そう言って、とりあえず俺のほうで四人をコントロールできる状態にしてから、全員を空へと連れ出した。
「す、すすす、すごーーーーーいっ!? ほ、本当に……空を…………飛んでるわ…………私たちっ!?」
「気持ちいい~~~~~~~~~っ!!!」
「あははは、すごいやっ! まるで、ピーターパンになったみたいっ!?」
麗香、メグ、光也の三人は少しするとすぐに飛翔魔法に慣れたようで安定していたので、自分の意志で自由に飛べるよう飛翔魔法のコントロール権を各々に渡した。おかげで三人は自分の思いのまま飛んで楽しそうだった。何よりだ。
それに比べ……、
「ちょ、ちょ、ちょっとタクミ氏ぃ~~!? もう少し速度を落としてみてはいかがですかぁ~~~~~~~~?!」
静流だけが飛翔魔法に全く対応できていなかった。
「お前…………意外だな。てっきり四人の中で一番こういった魔法には耐性、適正があると思ったのに…………」
「う、うるさいっ!? し、ししし、しょうがないだろうっ! 吾輩は運動神経が悪いんだからっ!? くそぉぉおぉ~~~~~っ!!!」
「わ、わかった、わかった…………そう、怒るなって!? もう、戻るから……」
そうして俺は三人に家に戻ると伝えると、『え~~~~!? まだ帰りたくな~~い! お外でもっと遊ぶ~~~~!』と駄々をこね出したので飛翔魔法のコントロール権を三人から奪い、さっさと部屋へと戻った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
部屋に戻った俺たちだったが、三人がいろいろと興奮冷めやらぬ状況だったので、少し休憩を挟んでから話を改めて始めた。
「どう? これでわかってもらえたかな?」
俺は少し落ち着きを取り戻した四人に尋ねる。
「うん、うん、うん、うんっ!!」
「もう、否定する理由が…………ないわ」
「すごい! やっぱり、本当に異世界に行ってたんだね、拓海っ!」
「タクミ氏…………君のその魔法…………べ、別に、うらやましくなんか……ないんだからねっ!?」
すると、四人は全会一致で俺の言葉が妄想や空想でないことを認めてくれた…………最後の静流に関しては面倒くさいのでツッコミは割愛させていただく。
「コホン…………というわけで、これでタクミ氏が魔法を使えることが証明されました。これにより、タクミ氏の発言は真実であるという結論に達したと思いますが異議はありますか?」
「「「異議なしっ!」」」
「お兄ちゃん…………疑って……ゴメン」
「拓海っ! 話してくれてありがとうっ!!」
「拓海はやっぱり…………すごいやっ!」
「タクミ氏………………いいな~」
そうして、俺は皆に俺の言っていることが真実であることを証明できたと同時に、この事を話さなきゃ……といった『想い』をずっと引き摺っていたこともあってやっと肩の荷が下りた。
「ところでさ~、拓海は異世界にいって何をやっていたの?」
「ああ……それは…………」
と麗香の質問に答えようとしたとき、
「コラ~、あんたたち~! もう遅いから今日はお家に帰りなさ~~~~~~いっ!!!」
下から母さんの可愛くも厳しい声が聞こえた。
「あっ! もう、こんな時間っ?!」
麗香の言葉を聞いて部屋の時計を見ると『20:30』を過ぎていた。
「ぐぬっ!? 長居し過ぎたっ! ち、父上に……どやされる…………」
静流が青い顔を浮かべている。静流の親父は俺も知っているが厳しい人なので怒るともの凄く怖い…………合掌。
「麗香お姉ちゃん、今日はもう泊ってけば?」
メグがそう麗香に告げるが、
「う~ん、ありがとう、メグちゃん。でも、家に帰って明日までにやらなきゃいけないことがあるから…………今日はこれで失礼するね」
そう言って、麗香は携帯を取り出してメールをしていた。おそらく家へ連絡して迎えを寄こしたのだろう。
「じゃあ、拓海、明日ね…………あ! それと続きは明日聞かせてよねっ!」
「わかった、わかった」
「うん! じゃあ、明日ねっ!」
そう言って、麗香は足早に帰っていった。
「拓海…………拓海はやっぱりすごいね」
「光也」
「明日は魔法だけじゃなく、異世界のいろんなことを教えてね」
「ああ、わかったよ」
「じゃあ、また明日」
「光也~」
「何?」
「お前は『男』だが知らない奴が見たら『女』に間違われるんだから、夜道は気を付けて帰るんだぞっ! 何だったら今日、ウチに泊ってくか?」
「い、いいのっ?!…………あ、いや、今日はいいや。また今度、お願いするよ」
「そうか、わかった……」
「じゃあ、明日ね」
「おう!」
そう言って光也も帰っていった。
そして、最後に残ったのは……、
「いいな~、いいな~、異世界チートいいな~~~~~~~っ!」
『面倒くさいマン静流』である。
「お前な~、俺だってこの力もらって異世界に行ってからいろいろと大変だったんだぞ~。それこそ、死ぬ思いだって何度もしたし…………」
「冗談だ、タクミ氏。吾輩もその辺はちゃんと理解しているつもりだ。だが、明日は『異世界』に行ってからの話を聞かせてくれたまえよ?」
「ああ、わかったよ」
「有無、約束だぞ…………では」
そう言って静流も足早に帰っていった。
「みんな、何だか急いで帰ってったね……」
「うん? ああ…………。まあ、時間も遅いからな。そんなもんだろ?」
「そうだね…………じゃあ、お兄ちゃん、あたしお風呂用意するから10分経ったら呼ぶね?」
「ああ、わかった」
こうして、俺は四人に遂に『力』のことを打ち明けることができた。
あれ?
よく考えたら、まだ、『魔法』のことしかしゃべってねーや。
異世界で『救世の勇者』として転移してからの話…………か。
「アイリス、レナ、マリーナ、ジュリアン、マチルダ…………他の皆も元気でやってるかな~……」
ふと、異世界で一緒に戦った仲間や友人たちを思い出した俺は一人、思い出し笑いをしながら寝間着の準備をした。