表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/53

015「確かめることとなった救世の勇者」



 さて、そこで冷静になった俺はいろいろと考えてみた。



 これまで生きてきた17年間、別に現実でリア充というわけではなかったが友人もいてそれなりに楽しい人生を送ってきた。


 だが、この事故に遭った日は学校が始まる始業式の日だったのだが、式の後にいきなりアーミーナイフの男が引き連れた不良連中にトイレに呼び出され、4~5人にいきなりボコボコにされた挙句、更に便所ホウキで顔をガシガシ擦られ、最後はホースで水をかけられ顔も服も水浸しになった…………まあ、いわゆる『イジメ』によるリンチだ。


 これまでイジメの対象にされることなんてなかったのに、それが突然こんなことになって俺は混乱と同時にショックを受けた。


 自分としては中学から今までクラスの中では目立つようなことはしたことがない。そんなことしたらクラス内の上下関係の上にいる奴ら……いわゆる『教室内カースト』の上にいる不良やチャラ男系に目を付けられたら学校生活は詰んだも同然だからだ。


 そんなことを考えながら常に注意して行動していた自覚があっただけに、いきなり自分がイジメの『的』になるなんてことがかなりショックだった。まあ、そいつらが『イジメる基準』なんて『気分』な部分もあるから、正直、俺は『運』がなかったのだろう。


 ちなみに、俺はそいつらのリーダー格である『アーミーナイフの男』に最後にこう言われた。


「いいか……これは『はじまり』だからな? 明日からマトモな学校生活が送れると思うなよ? ひゃひゃひゃ」


 その言葉は、俺が『イジメの的』としてロックオンされたことが確定的となった『最後通牒』であった。


 明日のことを考えると、ただただ絶望しかなく胃がキリキリ痛かった…………。そんな身も心もボロボロになった俺に、帰り道…………一匹の子猫が寄ってきた。


 その子猫は俺のボロボロになった心をまるで癒してくれているかのように、か細い鳴き声を上げながら足元に何度もまとわりついてきた。勿論、ただの偶然だとは思うが、その時の俺はそう感じざるを得ず、思わず…………涙を流した。


 そして俺は、その子猫を『家で飼いたい』と思い、その子を抱えて家に向かったのだがその時、子猫が俺の手から離れ道路に向かって飛び出した。そして…………今へとつながる。


 なので、現実に戻るということは、『イジメられることが確定された学校生活』に戻るということとなり、そんな『絶望しかない世界』にわざわざ戻るなんてことは正直あり得なかった。だが……、


「拓海っ! 起きてよ、拓海っ!?」

「お兄ちゃん! 起きてっ!! お願いだから…………起きて……よ……」

「拓海っ! お願いだよ、拓海っ!! 戻ってきてよっ! ボクはまだ何も君に…………拓海に……伝えたいこと……伝えられてないことがいっぱいあるの……に……」

「タクミ氏っ! 起きろっ! お前にはみんなの声が聞こえていないのかっ!? もし、聞こえているのならすぐに起きろっ!! 少ない親友の一人が吾輩より先に逝くのは許さん…………許さんぞぉおおぉぉぉぉ、タクミ氏~~~~っ!!!!」


 その時、俺はみんなが俺に『成仏する』という『楽な選択』を選ぼうとしていることを必死で食い止めているように感じた。


 現実に戻ったら『不良たちにイジメられる恐怖』と『仲間たちのところに戻りたい想い』が俺の中で大きく揺れていた…………そして、そんな揺れる俺に神様がとどめの一言を放つ。


「ちなみにワシの願いというのはな……………………お前に『特別な力』を与え、その力を持って異世界へ行き、その世界を救う『救世の勇者』となってほしいというのが願いじゃ」


『異世界チート』キターーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!


 かくして俺は、その神様の『止めの一言』によりずっと憧れを抱いていた『異世界チート主人公ポジション』となる神様の願いを二つ返事で了承した。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「マ、マジ……?」

「……マジ」

「ち、ちちちちちち、ちっくしょうおぉぉおぉおおぉおぉぉぉおぉぉ~~~~~!!!???? いいなぁぁぁあぁぁぁあぁ~~~~~~!!」



 静流が興奮のあまり、いきなり立ち上がるや否や願望むき出しの心の声を叫んだ。


 ドコッ!


 バコッ!


「うるさいっ!」

「近所迷惑っ!」

「も、ももも、申し訳…………ない……」


 麗香とメグに殴られた静流はそこで何とか感情を抑え込み冷静に戻る。そして、落ち着いたところで改めて俺に質問を続けた。


「コ、コホン…………と、取り乱してしまい申し訳ない。そ、それでは、改めて質問させてくれ、タクミ氏。これまでの話をまとめるとだ…………まず、タクミ氏は、その…………『自称神様』によって魂と肉体を異世界に転移されたということだが、その異世界での肉体とここの世界の肉体とは別ってことなのか?」

「ああ、そうらしい。俺はあまり意味がわからなかったけど、神様が言っていたのは『俺たちの住む世界』も『異世界』も『世界』がいっぱい存在する『宇宙の法則』に則っているものだから、その世界の肉体と異世界の肉体とは『別モノ』…………みたいのことを、確か、言ってた……かな?」

「パラレルワールドっ?! 量子力学で言うところの『多世界解釈』というやつかっ! なるほど! やっぱり『異世界』というのは実際に存在してて、しかもその理論は『多世界解釈』だったのかっ!? すごい! これは…………すごい発見と体験だぞ、タクミ氏っ!?」

「は、はあ……」


 静流がお得意の『オカルト科学知識』でよくわからない言葉をいっぱい出し興奮していたが、俺にはその興奮の意味はあまり理解できなかった。まあ、もちろん、『地球とは違う世界が存在する』というのは単純に凄いということはわかるし、そこに行っていたということも凄いことだとは思うが……。


「で、でも…………」


 すると、そこで麗香が俺の目を見ながらゆっくりと言葉を紡ぎ出した。


「い、今の静流の話はよくわからないけど…………でも…………拓海がベッドで私たちの声を聞いていて、その声で『この世界に戻りたい』と思ってくれたことを聞いて、すごく…………嬉しかった。ありがとう、拓海…………戻ってきてくれて」

「れ、麗香…………」


 なんか、自然と俺と麗香はジッと見つめ合った…………あ、あれ? 何だろう? 目の前に世界一可愛い幼なじみがいるんですけど…………、


「はい、そこっ! 目線貼り付け禁止っ!!」


 と言って、メグが俺と麗香の目を手で塞いだ。そして間髪入れずに、


「それに…………ちょっと待ってよ、みんなっ! どうかしてるんじゃないのっ?! どうしてお兄ちゃんの話をそんな普通に鵜呑みにしてんのっ?! 異世界? 転移? 神様? そんな…………そんなこと、常識的に考えてあるわけ…………ないじゃないっ!!」

「メ、メグ……?」

「お、お兄ちゃんもっ! こんなバカげた話して大丈夫なのっ?! 実は一カ月間の眠っていた間に何か『脳に障害』とか何かあったんじゃないのっ?!」


 メグは俺の話を思いっきり否定してきた。


 それはまるで………………俺の話を真実だと認めることを恐れているかのように。


「常識的に考えたら、お兄ちゃんのその話は全部、寝ていたときの『空想』だったってことのほうが一番可能性が高いでしょ?!」

「ま、まあ……」

「た、たしか……に……」


 メグの反論を受けた麗香と光也は、俺の話を何の疑いもなくすんなり受け入れていたことに対し、少し気恥ずかしげな表情を浮かべながら返事をする。しかし、


「『メグたそ』の言うことには一理あります。なので……」


 ここで、静流がメグの言葉に乗っかるように入ってきた。そして、


「その確かめる簡単な方法がありますぞ、メグたそっ! それは…………タクミ氏に魔法を実際に披露してもらうのですっ!!」


 静流は目をキラキラさせながら力強く進言する。しかし、


「え…………? べ、別に、いいでしょ、そこまでしなくても。だ、だって、お兄ちゃんは……普通の…………人……だし……」

「いやいやいやいやいやっ! タクミ氏の言葉がただの『妄想』で偽りなのかを確かめることが今、最も重要で事柄であり、そして、それを証明するのに確実で間違いないのが『魔法の披露』ですからっ!」

「そ、そうだね。そんな魔法みたいな力を拓海が本当に使えるなら信じられるし…………すべて真実であることに間違いはないわね」


 麗香も静流の言葉に賛同し、勿論、横にいる光也も、


「うん。それが一番確実で手っ取り早いよねっ! 賛成っ!!」


 言わずもがな、賛同した。しかし、


「……や、やだ」


 ボソッ。


「嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌ーーーーーーーっ!! あたしは絶対に嫌っ!?」

「「「メ、メグちゃん(たそ)っ?!」」」


 メグがいきなり涙を流しながら感情をあらわにすると、俺以外の三人は何事かという顔をして驚いていた…………が、俺だけはメグの気持ちが何となくわかった。


「メグ……」

「!? お、お兄……ちゃん……?」


 俺はメグの肩にソッと手を置いて話をする。


「お前は…………すでに見たよな。だから…………怖いんだろ?」

「う、うん…………グス……あの時のお兄ちゃんが…………まるで……グス……別人のようで怖かった…………から……グス」


 そう…………メグがあの裏山で俺の力を見たときに見せた表情は『恐怖』だったことを俺は知っていた。


 あの時、俺はメグがボロボロになった姿を見て理性が飛び頭に血が上った顔をしていたに違いない。そんな怒りの表情を俺はこれまで一度たりともメグに見せたことはなかったから、単純に恐怖したのだろう……。


「大丈夫だよ、メグ。あの時はメグに痛い思いをさせた奴らだったから本気で怒っただけで、お前を大事にしている気持ちは昔も今も…………変わらない」

「お、お兄ちゃん…………」


 俺とメグは自然とお互いの目をジッと見つめ合っていた。


 あ、あれ? 何だろう? ウチの妹、世界一可愛いんですけど…………後ろから、そっと抱きしめてあげたいんですけど…………すると、


「はい、そこっ! 目線貼り付け禁止っ!!」


 と言って、今度は麗香が俺とメグの目を手で塞いだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ